社会課題を解決する人材を育成 AI・データサイエンスを使いこなし、 社会を変革する力を養う―関西学院大学

社会課題を解決する人材を育成 AI・データサイエンスを使いこなし、 社会を変革する力を養う―関西学院大学

1889年の設立以来、創造的かつ有能な世界市民の育成に取り組んできた関西学院大学。130年を超える歴史の中で社会は様々な変化と直面してきたが、そのたびに同学は教育環境やプログラムの改革に挑み、時代が求める有為な人材を送り出し続けてきた。その伝統を現代に受け継ぐのが、2019年度から始まった「AI活用人材育成プログラム」だ。急速な進化と普及を遂げているAI・データサイエンスを主題に、学部を横断して展開されている同プログラム。開始から1年が経ったいま、現在の状況と今後の在り方について、プログラムを主導する巳波弘佳教授に話を伺った。

―「AI活用人材育成プログラム」とはどのような人材を育成し、そのためにどのような学びを行うプログラムなのでしょうか?

巳波 本学ではAI活用人材を、「AI・データサイエンス関連の知識を持ち、さらにそれを企業活動や経営などに活用して、現実の諸問題を解決する人材」と位置づけています。一般的に「AI人材」とは、AIの研究開発を行う人やプログラミングの知識を備えた人のこととされます。もちろん、そういった人材の重要性は高いです。一方で社会に目を向けてみると、AI技術は急速にビジネスや暮らしに浸透しています。もはやAI技術は、一部の企業だけが利用する特殊なものではなくなりつつあるのです。そういった社会においては、仕事にAIをうまく取り入れ、使いこなしながら業務の効率化やサービスの強化などを図っていくことが重要になります。この役割を担うのがAI活用人材です。プログラミングをはじめとした専門知識と技術を備えた理系人材というよりは、文系・理系の枠組みに関係なく、これからの時代に不可欠な人材と言えるでしょう。

AIに携わる人材は大きく三つに分けられます。一つ目は、最先端のAI技術そのものを研究開発する「AI研究開発者」です。二つ目は、AI技術を使って現場の課題を解決したり新サービス・新製品を生み出していく「AIユーザ」です。そして三つ目は、AIユーザにソリューションを提供する「AIスペシャリスト」です。本学のAI活用人材育成プログラムが目指しているのは、主に「AIユーザ」と「AIスペシャリスト」の育成です。両者は企業からのニーズも非常に高く、今後、社会の様々な場面で活躍することが期待されています。

プログラムには四つの特徴があります。一つ目の特徴は、「全学部の学生が受講できること」です。前述のとおり、AI活用人材は、文理の垣根を超えてさまざまな場面で必要とされています。そのため、受講の門戸を全学部に対して開きました。

二つ目の特徴は、「初学者を念頭においた授業内容」です。プログラムは全10科目から構成されているのですが、全員が最初に受講する「AI活用入門」では、産業や社会構造の変遷やAIやデータサイエンスの基礎知識・技能を学びます。そこから演習科目群を積み上げていくカリキュラム編成になっているので、予備知識がなくても学ぶことができます。

三つ目は、「体系的かつ実践的なスキルの修得」です。AI・データサイエンススキルを修得したうえで実践的PBL(Project Based Learning:課題解決型学習)に取り組むようにカリキュラムが構成されています。

そして四つ目は、「ビジネス視点の醸成」です。本プログラムは日本アイ・ビー・エム株式会社と共同で開発したこともあり、同社をはじめとしたAI活用企業の視点がふんだんに取り入れられています。すなわち、ビジネスの現場が実際に求めている人材を育成するプログラムになっているのです。

―プログラム開始から1年余りが経ちました。学生にはどのような変化や成長がありましたか? 現時点での感想をお聞かせください。

巳波 「うれしい驚きでいっぱい」というのが、率直な私の感想です。まず履修学生の学部ごとの分布については、期待していた以上に文理の垣根がありませんでした。理工学部よりもむしろ経済学部や商学部をはじめとした文系学部のほうが多いぐらいで、AIとは直接関わりの薄い学部からの履修者も多いです。私たち教職員が予想した以上に、学生は「○○(何か)×AI」の可能性の大きさを感じていると言えるでしょう。

学びへの意欲という点でも予想以上です。履修学生からは、早くも「AIを活用したプロジェクトに取り組みたい」という声が上がりました。本来ならプログラムの後半にある発展演習でプロジェクトに取り組むのですが、「待ちきれない! 何かにチャレンジしたい!」と言うのです。このような声の中から、人間福祉学部の学生と理工学部の学生がチームを組み、福祉関連サービスにおけるAI活用を企業とともに検討するプロジェクトが実際に動き出しました。また、総合政策学部と理工学部の学生による、医療関係へのAI活用を検討するプロジェクトも立ち上がりました。学部を越えて意見や専門知識を持ち寄り、AIを使いながら社会の課題解決に取り組むというのは、まさに本プログラムが意図したことです。それが1年目から自発的に始まったことに驚き、うれしく思っています。

学生のそれまでとは違う一面と出合えたことも、大きな収穫と言えます。講義などではあまり目立たなかった学生が、本プログラムでは生き生きと取り組んでいるというケースがあるのです。本人に話を聞いてみると、学外でさまざまな活動をしていたり、その中で課題を感じたりしていたそうで、それがきっかけで本プログラムを履修したようです。そこで私からは、「じゃあ、こんなことについて調べてみたらどう?」と提案すると、大変な興味を示してくれるのです。実は本プログラムには定期試験はなく、自らが調べて考え、レポートを提出することが評価基準になっています。自由度が高く、学生が個々の興味を深堀りしやすい環境とも言えます。それが、学びの意欲を高める一つの要因になっているかもしれません。

※本インタビューは2020年6月25日にリモート取材形式で実施

―授業では「調べる・考える・まとめる」を繰り返し行うと伺いました。この点に関して、学生の能力向上を感じる場面をお教えください。

巳波 「調べ方」が随分と変わりました。今の学生は、ネットでキーワードを入れて調べることには親しんでいます。でも、それだけでは表面的な理解にとどまってしまいます。そこで本プログラムでは、例えばAIやIoTの活用事例を調べるのであれば、「どんな企業で、どのような場面で、どんな目的で活用しているのかを調べてみよう」と指導しています。すなわち、調べる観点や切り口を指導しているのです。こうすることで深掘りすることや、視野を広げて調べることが可能になります。

これらは、まずは「型」を教える指導方法と言えます。型が身につけば応用ができます。先程のAIやIoTの活用事例であれば、「どんな人を対象にしている?」「どんな体験を提供する?」といった切り口で調べる学生も出てきました。型を破り、自分らしさが発揮されているのです。こういった指導はプログラム全体を通じて力を入れている点でもあります。

―プログラムは2年目に入り、入門段階に加えて基礎段階にあたるさまざまな演習科目が始まっています。入門から基礎への接続はスムーズに進んだでしょうか。

巳波 プログラムの最初の科目である「AI活用入門」を履修した後、基礎段階の「AI活用導入演習」の科目群へと進んだ学生がたくさんいます。入門を通してAIの活用について興味と理解を深めてくれ、より高度な学びを指向してくれたという意味では、スムーズに接続できたと言えます。

なお、「AI活用入門」は数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアムがまとめた「数理・データサイエンス・AI(リテラシーレベル)モデルカリキュラム」にも準拠しています。本学で「AI活用入門」を履修することは、すなわち、AI活用のしっかりとしたリテラシーを身につけることを意味するのです。文理を問わず、このレベルのリテラシーを身につけた学生を育成することは、本プログラムの重要な意義でもあると考えています。

本プログラムではアプリを動かしながら学ぶ場面がたくさんあります。学生が持参するパソコンでも動くように事前に十分な検証を行っているのですが、授業中にどうしても動かないという想定外の事態も起こりました。そういったトラブルも経験し、改善してきたことが、2年目の本プログラムをよりスムーズにさせてくれている要因でもあります。

―基礎段階の演習科目では、アプリ開発やプログラミングにも取り組みます。文理の違いによる得意・不得意の差が出たり、あるいはものづくりに興味が芽生えたりなど、学生の様子はいかがですか?

巳波 得意・不得意の差は確かにあります。しかしそれは、学部による違いというよりは個人による違いと言ったほうがいいものです。誰にだって得意・不得意はあるのですから、授業を進める中ではさほど大きな問題ではありません。

プログラミングなどの演習では、サンプルを用意し、まずは例に従ってカスタマイズしていくという方法を取っています。まずは先ほどお話しした「型」を学ぶのです。学生の様子はと言うと、グループでディスカッションをしながら、お互いに教え合っている場面をよく見かけます。ときには私の研究室の学生がアドバイスをすることもあり、学部や学年の枠も取り払われています。学びの形としては非常に望ましいものだと思います。

授業の中では、企業からテーマをもらい、それに沿ってアプリ開発を行うことがあります。ここで興味深いのは、「アプリが動いてうれしい、楽しい」というだけにとどまらず、「サービスの開発をすることが楽しい」「サービス全体の設計をすることが面白い」という学生が多いことです。これは、学生たちが社会に目を向け、課題を解決したいという意欲を持っていることを表しています。本プログラムが目指す「社会の課題を解決する人材の育成」と「そのためにAIを活用する」という狙いを学生が無意識のうちに理解し、興味を示してくれていることに、私自身も喜びやプログラムの意義を感じています。

―現在、コロナ禍にあります。授業はどのような形態で行われているのでしょうか。

巳波 全面的にオンラインで行っています。動画を配信する形式のものに加えて、ライブで講義を行い、要点を説明したり質問に答える形式の授業もあります。もともと、スライドをはじめとして教材はすべて用意できていたので、それらを配布するなど、オンラインへの移行は比較的スムーズでした。動画は、学生からの要望に応えて作成しました。

オンラインで授業を行うようになって、改めて大学での学びの意義を考えるようになりました。動画をはじめとした教材が充実すると、突き詰めれば大学の学びはすべてe-learningに置き換え可能になってしまいます。でも実際は、そうはならない何らかの要因があるはずです。私はそれを、「あそび(余裕)」だと考えています。顔を合わせることで雑談が生まれ、そこからアイデアが生まれることがあります。あるいは、本音を聞かせてもらえ、それまでとは違ったアドバイスを送ることが可能になります。これからも学び方は変わっていくでしょうが、どのようにして「あそび」を残していくのか、あるいは時代に応じた「あそび」の形に変えていくのか。それが、大学の課題のように思います。

―コロナ禍の今、ポストコロナやウィズコロナ、ニューノーマルといったキーワードが取り沙汰されています。このような状況を踏まえて、今後、AI活用人材が果たす役割について教えてください。

巳波 例えばテレワークの推進は、以前から盛んに推奨されていたのに遅々として進んでいませんでした。ところがコロナ禍を機に、一気に普及しました。AIもこれと同じことが起こっているのです。「AIはまだ先の話」と思っていても、何かのきっかけでまたたく間に普及するでしょう。そして、その「何か」がいま、コロナ禍という形で来たと言えるかもしれません。

AI活用人材は、時代の変化を正しく認識し、分析し、解決策を提案できる人材でもあります。そのための道具としてAIを使うのです。このような人材が厚みを増していき、社会の中でリーダーシップを発揮することで、変化の時代を乗り越えていけると私は確信しています。

―「AI活用人材育成プログラム」の今後の展望について教えてください。

巳波 ありがたいことに定員を上回る履修希望があり、現在は履修者を絞り込んでいる状況です。これを解決し、より多くのAI活用人材を育成することが最重要課題です。最初の履修科目である「AI活用入門」は、1年目の定員が480人であったことに対して、2年目は900人にまで拡大しました。それでもまだ履修希望者の半分にしか応えることができていません。e-learningの導入など、教育機会の拡大に向けてより一層の改善を図っていきたいです。

―最後に、高校の先生や高校生に向けてメッセージをお願いします。

巳波 学びへの意欲や社会に対する意識など、とかく「今の若者は…」と言われがちです。でも実際は、大人が思うよりもずっと、今の若者は社会に目を向けています。社会と関わり、自分たちの手でより良くしていきたいという思いを持っています。その思いに火をつけて、伸ばしてあげられるかどうかが、私たち大人に問われている使命なのかもしれません。

この点において、AI活用人材育成プログラムは「意欲に火をつけ、伸ばしている」と胸を張って言うことができます。AIは、社会の課題を解決したいと考えている学生にとって、非常に役立つツールです。AIへの理解を深めつつ、学部を横断した学生同士での討論や演習が、視野を広げ「課題解決マインド」を磨いていってくれることでしょう。そしてこれは、本学全体にも当てはまることです。本学は、未来を見据えて新しい風を積極的に取り入れ、世の中にないサービスや製品を創出できるクリエイティブな人材を育てます。本学には「なにか新しいことをやってみよう」という空気があります。気がつけば友人や先生たちと何かのプロジェクトを始めたり巻き込んだりして、いつの間にか世の中があっと驚く大きな成果を挙げているということが珍しくありません。時には「奇跡」と呼ばれる学生たちの活躍を、私は目の前で数多く見てきました。次は皆さんの番です。ともに学び、考え、実践し、そして世界をより良い方向に変えていこうではありませんか。

AIは「社会をより良くするために活用できる便利なツール」
法学部 法律学科 2年 緋本侑梨子さん

1年次春学期に「AI活用入門」を、秋学期に「AI活用導入演習B」を履修し、現在は「AI活用導入演習A」を履修しています。法学部生である私にとって、「AI活用人材育成プログラム」での体験は、「この授業を履修していなかったら知らなかった、経験しなかった」ということの連続です。画像認識や音声認識のAPI※を用いてアプリケーションを自分で作ったり、テキスト分析のAPIを用いて法律事務所の受付Chatbotを作れるようになるなんて、自分でもびっくりです。仕組みがわかるワクワク感と、出来上がって狙い通りに動いたときの達成感はたまりません。

考え方の面でも、この1年で随分成長したように思います。メディアでは「AIは人の仕事を奪う」と伝えられることもしばしばあり、何だか怖いもののように私も思っていました。でも今は、「社会をより良くするために活用できる便利なツール。そのためにも正しい知識を持つことが大切」と考えるようになりました。

AIをはじめとした技術の進歩に対しても、以前はどこか他人事のように思っていましたが、それが今では、自分の学びや生活に密接に関わる“自分事”と捉えるようになりました。例えば、コロナ禍でテレワークを推進しようにも、書類に欠かせない印鑑がそれを妨げるというニュースがあります。その解決策として、電子印鑑が注目されているという話題も目にしました。こういった社会の変化を意識するようになり、「これからの契約業務も随分と変わるんだろうな」と、法学部での学びを関連付けて眺めるようになったのは、このプログラムで学んだ結果だと思います。

来年の夏から、アメリカ・カリフォルニア州へ留学する予定です。カリフォルニアといえば、ITの先進地。技術の進歩はもちろんのこと、それに合わせて法律も変化しています。AI、法律、英語という3つの興味をかけ合わせ、たくさんのことを吸収したいと思います。

AIを学ぼうと思ったのは大学への入学が決まった後ですし、海外に興味を持ったのも入学後です。高校時代はむしろ、何に興味があるのかよくわからないぐらいでした。そんな私が、関西学院大学に入学してからは「おもしろそう。やってみたい」と思えることに次々と出合えました。そして、実際にそれにチャレンジすることができ、興味を深堀りしていくことができました。この環境こそが、関西学院大学の大きな魅力だと思います。

※Application Programming Interface:
 アプリケーション開発を容易にするためのソフトウェア資源

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