入試が変わる。学校が開いてない、勉強ができにくいそんなときは前半戦の推薦で確保すべし!なのか。高学力は?一般層は?ベーシック層は?どう動くべきか? 連載で今年度入試の全体像を大胆に予想する。
2020年度の入試はどうなる?
先日、令和3年度大学入試、つまり今年度(2020年度)の秋から冬に行われる入試の日程など、詳細が文部科学省より発表された。
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/senbatsu/mxt_kouhou02-20200619_1.pdf(令和3年度大学入学者選抜実施要項)
いちばん大きな変更点は、コロナ休校の影響による「学業の遅れ」の配慮として出された入試スケジュールだ。
そのなかでも、センター試験廃止後に初めて実施されることになる「共通テスト」の日程追加は、衝撃的だ。スケジュール変更ではなく、受験日程を複数用意することで「学業の遅れ」に対応しようとするものだが、制度設計をよほど上手く行わなければ、1987年に起きた大学入試の大混乱をも超えるカオスな状況になる可能性がある。(1987年の騒動については、後述する。)
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今年度の共通テストは、第1日程として1月16日・17日(従来のセンター試験と同日程)、コロナ休校で学業の遅れが生じた現役高校生のための第2日程が1月30日・31日に実施されることになった。第2日程の2週間後に「追試験」に相当する日程があるので、計3回の日程が提示されたことになる。
今回、あらたに示された第2日程は、あくまで休校等により学習が遅れた現役高校生が対象となっており、浪人生(既卒生)は、第1日程を受験することになる。ここでいう「学業の遅れ」とは、「高校の履修範囲」の学習が遅れているということになっているようだ。
そして、「学業の遅れ」を誰が認定するか、つまり、第2日程で受験する権利は誰が決めるのかという問題については、いまだはっきりとした結論はだされていない。ただ、事実上は自由に選択できることになりそうだ。というのも、文部科学省の萩生田大臣は、第2日程受験の要件として「学校長の判断を付けるかどうかなどを考えているが、基本的には(第1日程でも第2日程でも)両方選べるようにしたい」と明言しているからだ。
浪人生を除き、日程の自由選択制がとられるのは、おそらく受験生の利益を考えてのことではなく、責任を分散するための方便なのだろう。同じ入試の日程が複数ある場合、どちらの日程が有利かは、あらかじめ判断することが難しい。だから、受験日程の決定権を学校長や教育長の判断に任せてしまうと、選抜結果の責任が学校や自治体に及んでしまう。したがって、あくまで受験生本人に選ばせよう、という論理が実情だと思う。そして、おそらく、実際その通りになると予想される。
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第1日程と第2日程、どちらを選ぶべきか?
コロナ休校のため学習が遅れた生徒たちにとっては、試験日程が2回に分けられ、選択肢が増えたことは、一見すると朗報と思われるかもしれない。しかし、1回の日程をそのままの日程で実施する場合や、単純にスケジュールを後ろ倒しにして実施する場合と比べても、問題は格段に大きくなってしまった。
共通テストは、今年度初めて実施される全国共通試験だ。国公立大学の1次試験も兼ねており、私立大学でも利用するところも多い。だが、周知のとおり、英語試験の民間委託問題、国語等での「記述式」導入問題など、共通テストの実施内容は二転三転した上に、最終的に決定した出題内容・出題形式での試行問題は、提示も実施もされていない。
つまり、共通テストの最終形態は、問題作成者にしか知られておらず、試験を実施する方(大学)はおろか、受験生も高校も予備校も、だれもどういう問題になるかわからない状況なのである。そんな状況下では、コロナがなかったとしても実施がはばかられるものを、文部科学省・大学入試センターは、そのまま昨年度の計画通りに実施しようとしている。
そこへ来て、2回の日程選択制が実施されることになった。まったく新しい試験において、2回の日程が選べるとなると、どうなるか。おそらく、多くの受験生は、新しい出題形式・傾向を知りたいがために、後の方の日程を選びたいと考えるだろう。
傾向を把握する目的での「第2日程」受験を排除し、傾向を知っている/知っていないことによる不公平を是正するために、問題冊子持ち帰りを禁止したうえで、問題の即日公表を中止するという対応も考えられるが、情報拡散防止の効果はゼロである。何の問題が出たかということですら、受験生に扮する予備校関係者が完璧に再現してしまうから、すぐに正確な情報が拡散する。
そうすると、実際上はともかくとして、情報的・心理的には「第2日程」が有利である。
そもそも、実務上も共通テストの「問題冊子持ち帰り禁止」はできないだろう。かりに、即日発表をせず、2回全日程終了後に問題と解答の発表を行ったとしても、国公立大学の出願先を決めるための「自己採点」はほとんど不可能になってしまう。国公立出願先の決定は、自己採点の信頼性にかかっているから、日程ごとの問題・解答発表の実施と、「問題冊子持ち帰り」を許可することは、やめるわけにはいかない。
また、共通テストの実施前に出願させる、という手もあるが、これはもってのほかである。これでは、「共通」テストの意味がなくなる。各大学の個別試験だけで入学者を選別するというのと同じことになる。
第1日程を選びたい人たち
結局、どちらの日程が、実態として有利か不利かにかかわらず、不安に駆られた現役高校生の多くは、そして、学習に自信がない生徒の多くは、第2日程を選びたいと思うことは確かであろう。
しかし、共通テストレベルを、秋の時点ですでに超えているような超優等生や、はじめから東大・京大を受験しようと考えている受験生、すくなくとも、旧帝大・国公立医学部を本気で目指している受験生は、反対に、第1日程を選ぶ可能性が高い。
そもそも共通テストは、高校2年までに学習する内容での出題というのが原則になっている。これは、センター試験時代からかわらない。たとえば、数学は、ⅠA、ⅡBまでしか出題されず、数学Ⅲは大学の個別試験でしか出題されない。英語も、国公立2次試験や、難関私立大学に比べると、だいぶ易しい問題が並ぶ。もちろん、英語はリスニング試験の配点が倍になったが、彼らエリート受験生にとっては、それほどの負担増にはなっていない。したがって、彼らにとっては、日程が数週間遅くなったくらいでは、何のメリットも生じないのである。
こういうわけで、エリート受験生たちは、共通テスト(1次試験)はなるべく早く終わりにしたいと考えている。志望校の個別試験(国公立2次試験)や、併願している私立大学の個別試験対策に時間を使ったほうが、彼らにとっては好都合なのだ。
たしかに、新しい形式がどうなるかについては、不明確なところが多く、エリートであっても心配な点はあるだろう。センター試験のレベルを超えない難度の対策に多くの時間を使うのは得策ではない。国公立でも難関校であるほど、共通テストよりも個別試験への配点を高く設定しているところが多い。こういった大学の受験生にとっては、共通テストよりは個別試験で何%得点できるかの方に興味がある。彼らにとっては、個別試験での出題範囲の変更(後述する)の方がずっと気になるところであろう。
2次試験逆転、が難しくなる
上記の推定が正しいとなると、どの日程を選んでも、受験生の大学の出願行動に大きな混乱が生じることになるだろう。
まず、第1日程に浪人生と受験エリートが多く参加し、第2日程に学習の遅れの自覚がある現役生が集中したと仮定してみよう。そして、第1日程・第2日程のそれぞれが、仮に(奇跡的にも)全く同じ難易度で出題されたとする。
同じ入試において複数日程がある場合の危険性は、難易度にばらつきが生じることだが、各日程を全く同じ難易度にすることができたとしても、受験する母集団の学力が異なれば、成績判定が非常に難しくなってしまう。
つまり、第1日程の600点と第2日程の600点の間のリアルな学力評価が異なってしまうということだ。
エリート受験生や浪人生が中心に受験する第1日程において600点は、第1日程の受験者の中だけで相対的成績(偏差値)を判定すると、かなり低めに出されることになる。
一方、「学習が遅れた」という認識のある人たちが中心に受験する第2日程では、受験者の平均的学力がそれほど高くないため、その母集団の中での600点は、相当高めの成績に判定されることになるだろう。
まったく同じレベルの試験を受けても、日程ごとに独立して成績判定を行なってしまうと、仮に同じ点数をとったとしても、一方は偏差値55、一方は偏差値60、などというふうに、偏った判定が出てしまうことになり、2次試験や個別試験への出願の判断は、そのブレを予想して実施することが必要になってくる。
受験生は、各日程ごとの偏差値基準をみて、相対的に受かりやすい出願先を決定する。したがって、この仮定においては、第1日程受験者集団は、「シビアでネガティブな判断」をもとに出願先を決定し、第2日程受験者集団は、「楽観的でポジティブな判断」をもとに出願先を決定することになりがちである。
そうすると、「本来ならばもっと上を狙えたのに」、という受験生や、「実力よりも上の大学に出願してしまって不合格になった」、というような事故が続出することになるだろう。
結局、合理的な受験生であればあるほど、安全で確実な出願校を選ぶであろうし、また、高校や予備校の進路指導者も、そう判断し、そのように薦めるだろう。そうなると、1次試験での失敗を、2次試験で挽回し、「逆転合格」を目指す受験生は、相当なチャレンジャーでなければならなくなる。浪人を覚悟で頑張れ、ということになってしまうだろう。
難しい制度設計
上記のような不合理を解消するには、複数日程の合算を行なわなければならない。つまり、第1日程と第2日程、場合によっては第3日程(追試験)も終わってから、全日程を通算した成績を判定しなければならない。しかし、今回の文科省の通知では、国公立大の個別試験(2次試験)は、前期日程・後期日程とも、例年通り2月下旬と3月中旬に設定されていて、変更はない。
だから、全日程の受験者の成績判定を行っていては、国公立大の出願の判断には間に合わないため、日程ごとの成績を自己採点で判定して、出願先を決めるという、今まで通りのやり方を踏襲するしか方法はなくなる。受験生は、不確定な「日程毎の偏差値」で出願先を決めるか、大きく遅れて確認できる偏差値が出るのを待って出願するか、そのどちらになりそうだ。
もはや、国公立の出願は、目隠し状態で行なうも等しいという最悪の事態を招く可能性すらあるのだ。
実は過去にもあった、「複数日程問題」
実は、全国統一の共通試験において、日程を複数にすることが悪手であることは、はっきりしている。過去に実例があるのだ。冒頭で言及した、「1987年に起きた大学入試の大混乱」である。
共通一次試験からセンター試験に移行する1987年(昭和62年)に起きた入試の大混乱とはどういうものであったか。これを知っていれば、今回の共通テストで複数日程を用意するのがどれほど危険がわかるはずだ。
1979年度(昭和54年度)入試から始まる「共通一次試験」(センター試験や共通テストはこの後継試験)の導入と同時に、国立大学入試の「一期校」・「二期校」制度が廃止された。これは、大学間の格差感を解消するために実施されたものであった。(一期校が上位、二期校が下位で、二期校は一期校に落ちた人が受けるというイメージがあった。)
一期校・二期校制が廃止されたことで、国立大入試は、「一発勝負」に近い状態になった。そこで、今度は、国立大学の受験機会を増やすべきだ、という意見が強くなり、1987年度(昭和62年度)入試より、各大学(各学部)が「A日程」「B日程」に分かれて試験を実施する「連続方式」が導入された。また、受験生の負担を減らすべく、受験科目数の削減が実施された。
この「連続方式」では、各大学が設定するA日程とB日程のいずれか、もしくは両方を受験できる制度で、受験生は2校合格した場合、希望の大学を選択できるようにした制度であるが、ここで大混乱が起きてしまった。
現行の制度とは異なり、A日程とB日程の両方の結果が出てから入学する大学を選べるようになっていたため、入学手続を行った学生数が定員未満のところが続出した。全大学で延べ一万人の欠員が生じた。
また、複数大学での合格機会を持たせることにより、各大学への出願が、事前出願(共通一次試験の前に受験校に出願する)ことになった。そのため、いわゆる門前払い(第1段階選抜)での不合格が延べ10万人となり、多くの受験生の受験機会を、あべこべに奪うことになってしまったのだ。
なお、1987年度(平成元年度)の入試からは、「連続方式」に加えて、各大学が学部の入学定員を前期と後期に分け、各日程毎に合格発表と入学手続を実施する「分離・分割方式」が併用されることとなり、基本的に現在も、このシステムの延長線上のやり方が踏襲されている。
1次試験(共通テスト)と2次試験(個別試験)との違いはあれ、1987年度入試の失敗と似ているとは思わないだろうか。今回の複数日程案も、過去のAB連続方式も、受験生に配慮するという「善意」に基づく制度変更であるには違いないが、それが完全に裏目に出てしまっている。
文科省の官僚が、この過去の失敗を知らないはずはない。しからば、受験生以外の何に「配慮」(忖度?)して、この案に行きついたのか。真意はわからないが、今後は、できるだけ細心の注意を払った公平な制度設計を行なってもらえることを願いたい。
受験生はどう動くべきか。運はあきらめない人についてくる。
一番困るのは、受験生本人であると思う。情報が不十分な中で、共通テスト受験、国公立大学・私立大学への出願という、緊張を強いられる判断をしなければならない。
不完全情報下での行動は、多くは「安全策」を取るというのが心理学の教えるところである。したがって、自分以外の受験生はどう行動するか、という点で考えるならば、安全志向が高まる、というのが答えである。
ほぼ間違いなく、総合型選抜(旧AO入試)、学校推薦型選抜(旧推薦入試)を目指す人、というより、一般入試の前に安全に進学先を決めてしまおうとする人が、例年以上に増えてくることが予想される。
しかし、総合型選抜も、学校推薦型選抜も、例年より大幅に定員が増やされるということでもなければ、合否のパーセンテージは低くなる。結局、冬の一般入試の受験もにらみつつ、両方の機会をできるだけ効率的に利用していくというのが最善策になるだろう。
ただ、一般入試は、とくに上記に説明した「国公立大学」の入試においては、不確実性があまりにも高いため、どうしたらよいか、不安になっている受験生も多いだろう。これは、すべての受験生が同じことであるから、まずは、落ち着いて対処するように心がけたい。
国公立大学の出願行動は、今後の文部科学省によるアナウンスを待ってからでもよいが、とにかく正確な情報をきちんとしたルート(大手予備校などのサイトを常にチェック)から入手するように努めてほしい。そして、多くの受験生の不安心理に基づく行動とは「反対の」選択を考慮してみよう。
多くの受験生は、今年度はとくに、集団としては安全志向、安定志向で受験先を選ぶのは確実だ。もし、あなたが受験生だとして、志望大学の偏差値と見比べて自分の成績がそれほど劣っていないと思うなら、決して志望校のランクは下げないことだ。
そして、万が一、今年の判断で受験に失敗しても、来年度のライバルは確実に減っている。「どうしてもこの大学」という思いがあるならば、決してあきらめない方が得策だ。
【執筆者】
原田広幸(はらだ ひろゆき)
文筆業、ファシリテーター、進学・受験アドバイザー。東京外国語大学卒、中央大学法学部を経て、東京工業大学大学院修了、東京大学大学院総合文化研究科中退。専門は社会学・哲学。都市銀行、投資顧問、短大勤務、医学部予備校経営など、幅広い職種を経験。著書に『医学部入試・小論文実践演習~生命・医療倫理入門編』(エール出版社)、『30歳・文系・偏差値30でも医学部に受かる勉強法』(幻冬舎)、『医学部に受かる勉強計画』(幻冬舎)などがある。
Twitterアカウント→@harad211