メディアやデータを活用する〜 自分に合った 大学の選び方

メディアやデータを活用する〜 自分に合った 大学の選び方

進路指導や進学相談会などでよく耳にするようになったのが「自分に合った大学を見つけよう」というフレーズだ。しかし、当の受験生からは「それはどうやって探して選べばいいのか?」と戸惑う声が寄せられている。偏差値や難易度による大学選びがもたらすミスマッチを防ぎ、後悔のない進学先を見つけてもらうために、いま高校教育には何が求められているのだろうか?


高校教育で育むのは、学力だけ?

 進学相談会、あるいは受験関連のイベントでよく編集部が耳にする相談がある。それは「どうやって大学を選べば(選ばせれば)いいのか」というものだ。これは受験生本人やその保護者だけでなく、時には進路指導の先生からも寄せられる。偏差値や難易度だけに捉われることなく、「自分にあった大学を選ぼう」という“意識”は高校生にも浸透しつつあると思われるし、オープンキャンパスなど実際に大学と接触する機会も今は増えてきている。しかし話を聞いていると「どこが自分に合っているのかわからないから自宅の近くにしたい」「情報がありすぎて考えるのに疲れた」「先輩が行っているから」など、選択するにあたっての材料や情報を持て余しているような印象を受ける。それは言うなれば、情報の海から大学をピックアップしてその中から候補をしぼっていく、「選ぶ力」がいまの高校生には十分に備わっていないからではないだろうか。

 その背景には、大学入試にまつわる環境の目まぐるしい変化があたえる影響もあるだろう。かつて大学受験そのものが“狭き門〟だった時代、入試とは一般受験が大半でありそもそも大学とは選ぶものではなかった。希望学部系統の中で1ポイントでも偏差値が高い大学に合格できればよかったので、大学と自分とのマッチングなどという観点自体が存在しなかった。そんな時代から一転して少子化による受験生の減少により、大学全入時代に突入。入試形態や合格者数の配分も変動し、いまや私立大学では推薦入試・AO入試での入学者が全体の半数以上を占めるまでになった。ところがそのいっぽうで、私立大学入学定員管理が厳格化し、首都圏を中心に一部の大学では入試倍率が異常に高騰する事態に。さらに高大接続入試改革にともなう入試形態の変革や、昨年秋に決定された英語民間試験導入見送りに伴う現場の混乱も記憶に新しい。現代の受験生には入試に向けて学力を伸ばすだけでなく、“システム”そのものへの適応という時代の負荷もかかっている。自分に合った大学を探しつつ、どの入試方式で行くかを考えて、さらには流動的に変わる受験システムに対応していく。むしろやることが多様化してしまった今の受験生のほうが忙しいのかもしれない。

考える力と「メディアリテラシー」

 こうした負荷の影響からか、確実に受かる大学を望む受験生と保護者、もっと上を狙ってほしい進路指導側との間で意識の差が生まれやすくなっている、と打ち明ける進路指導担当者もいる。指定校推薦の一覧の中から偏差値の高い順に大学を選んだりと “安牌” を選んだつもりが、結果ミスマッチによる中退や再受験に至るケースも多々聞かれるようになった。実際に大学入試センター試験のデータに目を向けても、別の大学を受験し直す「仮面浪人」が未だに多く存在することが見て取れるし、大学側からも中退率の上昇はよく聞かれる問題だ。

 こうしたミスマッチをどのように防ぎ、かつ自分にあった大学を選ぶ「力」を育むことができるのだろうか。その答えの一つとして提言したいのが、大学の存在や意義そのものについて真剣に問いかけ、考えさせる機会を与えることだ。中学受験などで大学進学を意識する時期が早ければ早いほど、それが当たり前になりすぎて「そもそも大学とは」について考える機会が少なくなりがちだ。大学の成り立ちや役割、大学とは何を行っているのかなど、大学の基礎について教える時間を大学選びの前に与えておきたい。ときには総合学習の時間に大学に関するレポートを書かせるなど、実際の進路指導とは別に大学研究の場を設けてみるのも一案ではないだろうか。大学で学ぶ意義について考えさせることは非常に大切で、きちんと考え抜いた生徒はたとえ第一志望に入れず、第二、第三志望の大学に入学しても学ぶことに意義を感じているのでつまづくことは少ない。ところが大学に合格することに重きを置いて受験勉強に励んだ場合、志望校に入れないと5月病になったり最悪の場合は休学や中退につながってしまうことも多い。

 さらには、“考えさせる機会〟とは別に“教育する機会”も必要だ。ウェブサイトやパンフレットなど実際に大学を知る上で最低限の情報の読み解き方だけでなく、就職率の読み方、オープンキャンパスではどんなポイントを注意して見るべきかなど、何となく個々の裁量に任せてしまいがちなこともリテラシーとして一度は学校で教えておきたい。なぜならば、これは受験生が各自でしっかりと情報の“一次ソース”にアクセスできるよう導く大切なスキームだからだ。デジタルネイティブでSNS経由の情報に触れるのが当たり前となっている彼らの世代は、LINEやインスタグラム、ツイッターなどにあるソースのあやふやな情報や口コミに、我々が思う以上に高頻度で接している。こうしたSNSでの情報発信に積極的な大学もあるが、確実な一次ソースの見きわめ方、さらにオープンキャンパスなどで実際に大学の雰囲気に触れたり、時には大学の広報課に連絡を取るなど“リアルなモノ・コト・ヒト”に触れることの大切さを伝えておくべきではないだろうか。それが大学を知る上での最低限の「メディアリテラシー」であり、こうした知見を早期に広めておくことも、高校現場での教育の役割となりつつあるからだ。

ランキングという〝ビッグデータ〟を味方に

 そしてより実用的な候補を絞り込んで、選んでいく際に役立つのがランキング情報だ。受験情報誌やビジネス誌などさまざまな形で目にする機会の多い大学ランキング。これらのデータの扱い方は高校によって様々だが、「入学難易度」や「就職先」「資格取得」以外の情報をあまり活用できていないのではないだろうか。しかしこうした画一的な利用方法では、ランキングが「お墨付き」あるいは「リコメンド」といった性質として誤解されやすく、データ本来がもつ機能を十分に活用できているとは言い難い。

 こういったランキングは何らかの実績に基づいた「序列」としてだけではなく、比較・検討するうえでの「素材」として、そして未知の大学を発見するための「ツール」と認識すれば、もっと活用の幅は広がっていく。たとえば学びたい学部や興味のある職業・資格についてランキングを元にオリジナルの比較表を作成してみる。あるいは進学したい学部のある大学をエリア別にランキングして自分の学力から候補を絞り、地域ごとの生活費相場や仕送り平均額から4年間の暫定費用を算出することも可能だ。大学が公表している「教員一人あたりの学生比」などを大学別に割り出して“教育の質”に目を向けてみるのもいいだろう。また大学生協によっては「学生の一日の勉強時間」「大学滞在時間」「図書館利用状況」などの調査結果を公表しており、これらも大学の校風や学生の傾向を把握するいい判断材料となってくれる。ある大学に進学したら各地方からどんな割合で学生がきていて、どのくらい勉強して生活コストはどうなっているのか、レジャーは、留学は……と言った具合に自分が送るであろう4年間のストーリーを描き出すことすらできる。

 こうした具体的かつ客観的なデータをみながら思考や選択の幅を広げていれば、自分に会う大学を探しやすくなるだけでなく、自分も親も友人も存在を知らなかった大学との出会いすら生まれるはずだ。何しろ日本には800近い大学が存在するし、そのうち各々の高校生がそらで言えるくらいに知っているのは多くて20〜30大学程度しかないだろう。いわばほとんどが知らない大学であるとすら言える。狭い情報の中で適当に進学先を決めてしまってよいわけがない。そしてこれほどの数の進学先をあらゆる実績から何十種類もの切り口で序列化したランキングは、もはやビッグデータといって差し支えない宝の山なのだ。

 このように、データを元に多くの選択肢から自分に合ったものを選ぶ経験は、大学進学だけでなく将来の就職活動に向けてもいい訓練となる。それだけでなく、いま受験生が育むべき「大学を選ぶ力」とは、信頼できるデータを集める【情報収集力】、それらを統合して比較・検討する【分析力】、自身の見通しを元に決定を下す【判断力】を問われているのだ。そしてこれらを行使したという経験や自信は、就職・転職だけでなく投資や家の購入にいたるまで、将来のより大きな選択にも生きてくるはずだ。大学を選ぶ力とは、これからいっそう混迷をきわめる時代において、主体的に人生を生き抜く力そのものなのである。われわれ大人たちも、大学以外のことについては無思考でよい結果になるわけがないことはもう気づいている。

たとえば現在自分が持ち合わせている知識だけでは「知られていないよい会社、伸びそうな株式銘柄、地価が上がる沿線」などの情報にリーチすることができないし、それでは他人とは違った〝成果〟を上げることもできない。人生における重要な選択の一つである大学選び。自分や地域のひとの思考の傾向や殻に閉じこもることなく、データや情報を存分に探索して掛け合わせ、自分独自のストーリーを紡いでいこう。親、友人、隣の人と自分にはそれぞれ違う未来が待っている。これからは個人が自分の思考や選択に責任をとって生きていく時代なのだ。

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