大学の取り組みから高大接続を考える|甲南大学

大学の取り組みから高大接続を考える|甲南大学

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高大接続改革において高校に求められているのは、学習・指導方法の改善と教員の資質能力の向上。そうした流れから必須となった探究は、高校だけで実施するのは難しく高大連携が不可欠。探究活動の支援を積極的に展開する甲南大学の事例を紹介しよう。

高大接続改革が目指すのは、グローバル化、情報化、超高齢化の進行という先行き不透明な社会を生き抜く力を養うこと。そのために主体的・対話的で深い学び(アクティブラーニング)が求められ、その一つの答えが探究活動と言えよう。高校生の探究活動に詳しい、甲南大学フロンティアサイエンス学部の甲元一也教授は、探究が求められている背景について、こう話す。

「社会の大きな構造変化がある中で、今の状況に満足せずに新しいシステムを開発できる人材が探究活動の末に求められる人材で、そのためには〝なぜ?〞と思うことが大事です。昔は不思議に思ったり疑問に感じたりすることを調べる時間がありましたが、今の教育課程で学ぶ高校生はとても忙しいので、探究の時間を用意しなければならないのが現実です。昔は自然に行われていた探究活動を、サプリ的に摂取しなければならない時代なのです」

探究活動における課題は、大学時代に研究にじっくり取り組んだことがない高校教諭が多く、高校だけで完結することが難しいことが実情である。そこで求められているのが高大連携だ。高校教諭は通常の授業を行い、専門的なことは大学の教員が行うという、お互いにできないことを接続して一緒にすることが高大連携であり、探究活動は高大連携の基本と言えよう。

探究活動の発表の場となるリサーチフェスタ

甲南大学は積極的に高大接続を展開しており、高校生と大学生・大学院生が交流する文理融合の場として、自由なテーマで発表できる「リサーチフェスタ」を開催している。18年12月に実施された2回目となる「リサーチフェスタ2018」は、高校生や大学生・大学院生など747人が参加。

発表テーマは文系・理系を問わず192件の発表があった。運営に関わった甲元教授は言う。「探究活動をしている高校生はとても伸びる。特に高校低学年の生徒の着眼点は素晴らしく、その芽を文系と理系の隔たりなく、他校の生徒や大学生・大学院生と交流する中で伸ばしてあげたい。

文系・理系というくくりは日本独特のもの。学校では文系と理系という教科の壁があり、企業においてマネジメントは文系、開発は理系という構図があるが、グローバル化が進む社会では、文系と理系が合致しないと成り立たないので、自由なテーマ設定としているのです」 現状では、探究活動を行っても学外で発表する場は多くない。

特に文系生徒の発表の場は少なく、探究の面白さやその先に見えるものを知らない状態で終わる生徒が少なくないと言う。甲南大学はそうした高校生に成長の場を提供しているのだ。 リサーチフェスタは高校生が大きく成長できる場とするため、さまざまな工夫がされている。その一つはポスター形式の発表を行うこと。口頭発表はたくさんの人に成果を伝えるのに有効な手段だが、質疑の時間が限られているので深い議論ができない。ポスター発表ならじっくり意見交換ができる。

また、発表は前発表と本発表の2回行う。前発表は聴衆の反応や受け答えの仕方について試す場と位置付けられ、発表の間に疑問に感じていることや悩んでいることをその場で相談し、本発表で実践することができる。 もう一つは、自分たちの発表や他者の発表で気づいたことを「気づきノート」に書くという、発表以外のワークも行っていること。発表しない生徒もワークに参加することで、さまざまな気づきが共有できる。気づきは人それぞれ。

その中から本発表に生きてくるヒントが見つかるだけではなく、その後の探究活動に生きてくるという。高校生と大学生・大学院生が入り混じって、初対面のメンバーが他者の気づきノートを相談しながら評価するワークも行っている。高校教員の指導力で決まる探究活動の成否探究活動はディスカッションを通して深まることから、リサーチフェスタでは途中経過のポスターも発表することができる。

また、ディスカッションを活発にするため、ポスターには見てほしいことや聞いてほしい点など、発表のポイントが書かれている。また、ポスター賞は大学教員と高校教員で構成される審査員セレクトの賞や、聴衆セレクトの賞など、さまざまな視点から審査される賞が用意され、発表者の大きなモチベーションとなっている。ポスター賞は高校の偏差値に関わらずさまざまな生徒が受賞している。

甲元教授は言う。「テーマを見つけることはどの高校生も同じで、誰もが分け隔てなくアイデアを出します。その一人の生徒が投げた石の波紋を周りの生徒に波及させることが、探究活動の運営の仕方。探究活動がうまくいくかどうかは、高校の先生の指導方法にかかっているのです」

最後に、探究活動について今後の可能性を聞いてみた。「誰もが〝なぜ?〞と思うことがあります。これまでは、自発的に調べられる生徒だけが身につけられていた能力を、教育の一環として探究を取り入れることで、全体の生徒が力を伸ばす可能性が広がります」 探究活動を通じて、いわゆる「学力の3要素」を伸ばすために大学が果たす役割は大きい。甲南大学のリサーチフェスタの今後に注目したい。

高校生・大学生・大学院生が自由なテーマで研究発表する

時間帯 イベント 内容
9:30-10:00 受付  
10:00-10:20 ガイダンス プログラムや配布物について説明を受ける。
10:20-10:50 自由閲覧 発表会場内を巡り、聞きたいポスター選ぶ。
10:50-12:00 前発表  
(20分×3コマ) いずれか1つの時間帯で発表を行う(発表時間帯は指定される)。他の2つの時間帯では、他者の発表を聞き、気づきをワークシートにまとめる。  
12:00-12:30 ワーク1 ワークシートを完成させる。
12:30-13:30 休憩  
13:30-15:10 本発表  
(30分×3コマ) いずれか1つの時間帯で発表を行う(発表時間帯は指定される)。他の2つの時間帯では、他者の発表を聞く。  
15:10-15:20 休憩・移動  
15:20-16:00 ワーク2 参加者のさまざまな「気づき」を全体で共有できるグループワークを行う。
16:00-17:00 表彰式・交流会 ポスター賞の表彰と交流会を行う。

リサーチフェスタ参加高校 教員の声

■学内の発表会と効果的にリンク

私立親和女子高校 大橋宏記先生

本校では「総合的な探究の時間」における取り組みとして、毎年年度末に校内で全体発表会を行っています。形式は質疑応答型のポスターセッション。リサーチフェスタと同様のものです。そういった共通点があることに加え、12月という開催時期が本校にとって非常に有益でした。というのは、この時期がちょうど、私たちにとっては研究の中間発表にあたる時期だからです。

10月下旬から始まる研究の最終目標を年度末に据え、その過程での1つの節目としてリサーチフェスタを位置づけることで、計画性をもって研究や発表の準備に取り組むことができました。 また、「完成された研究ではなくても発表していい」という、リサーチフェスタならではの性質もありがたいです。

前述のように、12月は本校の研究では中間地点。その段階で外部に向かって研究内容を発信し、フィードバックをいただけることは、その後の研究にとって大きなメリットを生み出しました。他校生や大学生との交流会やワークショップなどを通して新しい視点や考え方を獲得し、さらに人的ネットワークを広げられたことは、生徒のみならず指導を行う私たち教員にとっても大きな財産です。リサーチフェスタに参加して以降、研究へ取り組む姿勢が非常に前向きなものになったことも、発表や質疑応答を通して前向きな刺激を受けた成果だと感じています。

■研究のモチベーションアップにピッタリの機会

兵庫県立神戸高校 千脇久美子先生

リサーチフェスタでは、発表の時間に加えて、「振り返り」の時間が設けられています。通常はチーム内や学内だけで振り返りを行っているのですが、リサーチフェスタでは、他校生や大学生などからもフィードバックをもらうことができます。こういった、他との交流を通して学べることは非常に多く、有益な時間となりました。

甲南大学学長賞をはじめとして、各種の賞が設けられていることもリサーチフェスタの魅力を高めているように思います。本校において受賞を逃したグループの生徒たちは、そのことを非常に悔しがりました。そして、悔しさが次への挑戦意欲となり、研究内容の見直しやポスターの作り方、プレゼンの仕方などのブラッシュアップへとつながっていきました。

本校では、2年次に1年をかけてグループ単位で取り組む研究活動を行っています。11月には校内で中間発表があり、このときの内容を土台にして12月のリサーチフェスタに参加しました。生徒たちにとって、「12月に学外で発表がある」ということは、その時点までの研究成果をまとめる意味付けになります。

また、リサーチフェスタで刺激を受けることが、その後の研究へのモチベーションアップのきっかけにもなります。年間の研究活動にリサーチフェスタを組み込むことが、活動をより充実したものにしているように思います。

■生徒の新たな可能性と出会うことができる

兵庫県立川西明峰高校 松井健太朗先生

本校では、文系・理系という区分に加えて、特色ある教育活動を行う類型として「グローバルキャリア類型(GC 類型)」を設置しています。GC 類型では、グローバルな文脈で自己理解を深め、失敗を恐れずに自分を表現・発信する力を育成します。

リサーチフェスタの第一の魅力は、発表のテーマが文系・理系の枠組みにとらわれていないことにあります。参加することで日頃は接することのない異なる分野、新しい考え方に触れることができます。そして、GC 類型での授業内容とリサーチフェスタの参加に向けた準備が、リンクしていることも本校にとって大きな魅力となっています。

GC 類型での学校設定科目では、英語科教員、情報科教員、ALTによる授業が行われています。ここでは、ICT 機器を使用するスキルの向上や、英語・インドネシア語・韓国語を学ぶことをとおして持続可能な開発に対する理解の深化を目指します。また、オーストラリアの姉妹校をはじめとした海外の人とのオンライン会話や、本校で留学生を受け入れる校内留学体験を積極的に展開しています。

これらの学びで得た知識やスキル、好奇心を活かし、生徒が主体となってテーマを設定し、研究に取り組んで発表の日に臨みました。 学外で発表を行い、他校の生徒や先生、大学生や教授など多くの人からフィードバックをいただく過程で、学内にいるだけでは気づくことができなかった生徒の可能性に出会うことができました。生徒はもちろんのこと、私たち教員にとっても、非常に有意義な1日となりました。

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