最新のAI技術で現代の課題解決に挑む|金沢工業大学

最新のAI技術で現代の課題解決に挑む|金沢工業大学

最新のAI技術で現代の課題解決に挑む

金沢工業大学

異常気象や貧困といった地球規模の課題解決のため、「SDGs」が掲げる国際目標に取り組むことの重要性が増している。金沢工業大学は昨年の第1回「ジャパンSDGsアワード」でSDGs 推進副本部長(内閣官房長官)賞を受賞するなど、日本を代表するSDGs 推進高等教育機関として積極的な取り組みを見せており、AI やIoTといった次世代技術の活用も進む。洗練された空間にさまざまなガジェットが並ぶ「AIラボ」で行われる、最新のAI 技術を用いた研究の数々を紹介する。

SDGsとは…持続可能な開発目標と訳される、国連加盟国が2030年までに達成を目指す国際目標のこと。世界を変えるための17の目標と169のターゲットからなる。


SDGSの17の目標(前記事参照)を達成して持続可能な世界を実現するためには、さまざまな分野の知見を組み合わせて課題に取り組んでいくことが求められる。金沢工業大学(KIT)では、分野横断的なテーマのもとで学科や教員・企業人・学生などの枠を超えて人々が集まる「クラスター研究室」がその中心を担っている。

クラスター研究室の活動拠点である「チャレンジラボ」の2Fには「AIラボ」が設置され、AIを活用した課題解決の研究が進む。AIラボの所長を務める工学部情報工学科の中沢実教授は、AI技術を取り巻く状況と、AIラボの役割について次のように話す。「3、4年ほど前から、さまざまな分野の先生がAIを適用して研究を行っています。ただ、本当にその研究がAIを使うべき内容なのかという点は、それほど議論が進んでいません。AIの適切な適用範囲や適用方法を研究するのがAIラボの第1の役割です」

工学部情報工学科の中沢実教授

AIには学術分野だけでなく、ビジネス領域でも大きな期待が寄せられる。中沢教授はこう続ける。「AIを利用して新しいビジネスを始めたい企業が大学を頼ってくるケースが多々あります。AIラボの第2の役割は、大学と企業の共同研究の窓口となることです。今後はこれまで主流だった情報系の企業だけでなく、機械や観光などの分野にもAIは広まっていくでしょう」

KITは2019年からAI教育を初年次教育に導入し、20年からそれを全学で必修化するべく動いている。すでに今年の後学期からは、それぞれの学部の研究内容に合わせたAIの使い方を学ぶ授業が始まっている。AIラボの第3の役割は、AI教育のためのコンテンツ開発だと中沢教授は言う。「建築や機械といった他分野への適用事例を示さなければ、1年生にはAIの使い方は分からないと思います。20年からのAI教育必修化に向けて、そうしたコンテンツを少しずつ準備しています」

AIラボにはドローンやAIスピーカー、小型ロボットなどの最新ガジェットが並び、学生はそれらを自由に使うことができる。コーヒーマシンのプログラムを書き換えて、AIスピーカーに声をかけるだけでコーヒーを淹れられるように改造するなど、日頃から遊び感覚でアイデアを試すことにより、偶然のイノベーションが生み出されることを狙っているのだ。

AIを活用して生まれる新しい課題解決のカタチ

中沢教授の研究室では、AIを活用してSDGSに貢献する数多くの研究が進む。その一つの成果が、前号でも紹介した自動目薬さしロボットだ。AIや音声認識技術、センサなどを組み合わせて作成され、上を向くだけで瞳を認識し、自動で目薬を落としてくれる。先輩が製作に取り組む様子を見ていた、現在4年生の栁澤理紗さんが説明してくれた。

4年生の栁澤理紗さん「設計、加工、組み立てを全て自分で行っているのがすごいと思います。オープンキャンパスなどの展示では老若男女を問わず興味を持ってくれて、目薬が一滴だけ落ちることに感心されます。現在は身体を動かすのが難しい人への応用として、医療機関のベッドに備え付けられないかを探っています」

栁澤さん自身はAIや画像認識といった技術に興味があり、自動車の自動運転を検証するシミュレーションシステムを、企業と共同で研究している。自動運転車は規制などの面で公道でのテストが難しく、開発を進める中でこうしたシステムが必要となる。KITでは世の中を一変させる技術に関わる研究を、学部生のうちから担うことになるのだ。

中沢研究室は脳波に関する研究が盛んで、前号のロボット車いすの他に、脳波の違いを利用した生体認証の研究にも取り組む。脳波を使った認証率はおよそ100%と高精度で、指紋や虹彩を使った認証方法に代わる技術として期待される。現在は実用化に向けて認証時間の短縮に取り組んでいる。

その他にも、AIを使ってフィッシングサイト(偽サイト)を見抜くシステムや、介護従事者の負担軽減を目指して介護計画をAIで自動作成するシステム。金沢市とKITが連携して、市内にセンサを配置するなどビッグデータを集積するメカニズムを作り、AIを活用して観光や災害対策に使えるサービスを創出する試みなど、幅広い研究に取り組んでいる。

中沢教授は、「人や自然が好きなので、それに関わる研究が多い」と話す。単に技術のみを追求せずに、それをどう活用すれば人々の役に立つかという視点で研究に取り組む姿勢が印象的だ。こうした意識が研究室全体に浸透していることが土壌となり、社会を変える研究が続々と生み出されている。

脳波で会話のできる世界を目指す

中沢研究室所属の山下正人さん(修士1年)中沢研究室所属の山下正人さん(修士1年)は、脳波でコミュニケーションを取るための研究に取り組む。研究の話に加え、学生の視点から見たKITについても語ってくれた。

―現在の研究内容は。

山下 頭の中でイメージした単語や文章を、テキストとしてディスプレイなどに表示する研究をしています。ALS(注)の患者さんには口が動かせない人も多いので、そういう人が脳波でコミュニケーションできればという思いがあります。

―なぜ進学先としてKITを選び、今の研究を始めたのですか。

山下 情報系のことをやりたい、数学の教員免許を取りたいという2つの希望があり、KIT はその両方を叶えられそうだったので選びました。中沢研究室に入ったのは、人の生活に関連した研究がしたかったからです。学部時代から、実世界とWEBをつなげて便利にすることに興味を持っていました。

―KIT はどんな大学だと思いますか。

山下 理論だけを学ぶのでなく、実際にものを動かして学ぶことまで、一貫してできる大学だと思います。自分でものを作って、動かすための設備も充実しています。課題が多いので、しっかり勉強するのも特徴です。

先生との距離はとても近いです。やりたいことや希望を言ったらすぐに応えてくれますし、頑張っている人にはいい環境を与えてくれます。

―今後の目標は。

山下 脳波は活用範囲がさまざまなジャンルに広がっていて、とても面白いです。もっと多くの人の脳波を測定して、今の研究が本当に実用化できるのかを探っていきたいです。最終的には、専門的な知識のない人でも動かせるものを作りたいですね。

(注)ALS=筋萎縮性側索硬化症。運動をつかさどる神経が障害を受けることで、手足・のど・舌の筋肉や、呼吸に必要な筋肉の力が無くなっていく病気。

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