少子化の中で志願者は7%増の私立大
今年の私立大は約7%志願者が増え、12年連続の増加となった。高校卒業生は昨年に比べて約1万4千人も減っているのにもかかわらずだ。一方、国公立大志願者は昨年に比べて1.1%減で、7年連続減少だった。
これだけ私立大が人気になった理由は大きく二つある。一つは、受験生の学部志望動向が文系人気になっていることだ。これは文系学部卒業生の就職が改善したことが大きく、15年から文系人気になった。08年秋に起きたリーマンショックで不況になった時に、文系大学生が就職氷河期になった。理系大学生の採用数は、それほど大きくは減らなかった。さらに国家資格に直結した医、薬、看護などは理系だ不況になると、理系人気が高く、文系人気が低い”理高文低”になる。景気がいい時は逆で”文高理低”だ。理高文低から今は文高理低に変わっていることになる。来年卒業見込みの学生にとっても売り手市場が続き、就職は好調だ。
就職は入試に大きく影響する。今年の入試でも文系人気が高かった。文系学部は私立大に数多く設置されている。国公立大は理系学部が多く、受験生に人気の社会科学系学部はあまり設置されておらず、私立大人気が高くなる。
もう一つの理由は、文部科学省が進める入学定員の厳格化だ。これは地方創生の一環として実施されている国の政策だ。大都市の大規模大学が地方から学生を集め過ぎているため、これを抑制することで、地方の受験生が地元の大学に進学し地方創生につながるとの考えだ。
15年には定員の1.2倍まで入学させても国からの助成金がもらえた。これを徐々に減らし、18年には1.1倍までに減らしたさらに来年はもっと厳しく1.0倍だから、定員通りに入学させることになる。来年はこれを超えると助成金を満額もらえない。助成金は平均で大学の収入の約9%を占めている。助成金をもらえないと経営は厳しくなる。国公立大では大きく定員を上回って入学させている大学はなく、いずれも1.1倍未満に収まっている。
定員厳格化対策で併願校を増やす受験生が増加
入学者を減らすことは合格者を減らすことにつながる。そのため、16年から合格者を減らす私立大が続出した。受験生は今年も合格者が減るとの見通しで、対策として併願校を増やした。この結果、少子化の中でも私立大の志願者が激増したのだ。高校の進路指導教諭も、昨年より併願校数を増やす指導をしたこともあったと見られる。
受験生の予想は的中し、今年も各大学の合格者減少数は昨年を上回った。以下の表を見てほしい。主要大学の志願者、合格者の増減の表だ表中の36大学を合計すると、合格者数は17年と18年を比べると3万8561人減だ。定員の厳格化が始まる前の15年と今年を比べると、合格者は5万3776人減っている。その一方で、志願者数は17年と18年を比べると、11万4877人増で2年連続の増加だ。志願者が増えて合格者が減ったのだから、私立大の入試は当然ながら厳しくなった。特に今年は、合格者を増やした大学は3校にとどまっている。
15年と比べて、合格者数を大きく減らしている大学も少なくない。立命館大は5853人、早稲田大は3749人、南山大3445人、関西学院大は3244人など、大きく減らしている。
倍率(志願者数÷合格者数)も15年と比べて、京都産業大が4.0→8.3倍、学習院大は2.9倍→5.8倍、青山学院大は5.9→8.6倍にアップしている。この4年で倍率が大きくアップしたところが多いまさに激戦だ。首都圏の進学校の進路指導教諭は「スベリ止めと考えて受けさせた大学が、スベリ止めにならず、例年なら合格しそうだという生徒がことごとく不合格になり、必ず合格すると確信した生徒しか合格しなかった」と嘆く。
また、関西の大学で首都圏からの合格者が増えている。一般入試の1都3県(東京、埼玉、千葉、神奈川)からの合格者が占める割合を10年前の08年と比べると、関西学院大が1.1→2.7%、関西大が0.6→1.6%、立命館大が3.0→4.1%、京都産業大が0.8→2.1%に増えている。首都圏の受験生は、東京の大学の難化で関西の大学を志望校に考え始めたようだ。予備校の関係者は「大都市圏の受験生は、大都市圏同士は移動しますが、地方の大学にはなかなか行きません」という。
この上位大学の合格者の絞り込みは思わぬ余波も生んでいる。今の受験生は現役進学志向が強いが、MARCHの難化で浪人生が増えているという。ただ、ほとんどの受験生は、経済的な面から現役進学を目指すそのため、大都市圏の私立大で、これまで定員を割っていた大学への入学者が増え、定員割れが改善する事態になっている。日本私立学校振興・共済事業団によると、16年の定員割れ私立大は44.5%だったが、17年は39.6%に減っている。
繰り上げ合格の連絡に注意を払うことも大切
受験生は合格確保に大変な思いをしたわけだが、その一方で、大学側も入学者確保に苦心した。1人多くても助成金をもらえないため、いかに許されている上限ぎりぎりまで入学させるかも、大学経営を考えた時には大切なことになる。志願者が増えると入学手続き率が良いとされ、多くの大学で当初合格者の発表を少なめにした。繰り上げ合格候補者も発表し、合格者の入学手続き状況を見ながら、順次繰り上げ合格を発表する方式が主流だ。
しかし、受験生にとっては、来るのか来ないのか、わからない繰り上げ合格には期待できない。そこで、すでに合格している大学に入学手続きを取る。その後、繰り上げ合格の連絡が来ても、経済的に余裕がない家庭では保護者の反対にあい、最初に学費を納めた大学に泣く泣く進学する受験生も少なくないという。入学しなくても、入学金相当額は戻ってこないからだ。入学金は文系で平均23万円。繰り上げ合格が来て入学を決めると、この金額が無駄になる併願で無駄金が出ないように工夫しても、合格後に無駄金が出る場合があるという状況だ。
また、大学によっては、入学候補者を絞るところもある。期待を持たせて連絡しないのはかわいそうだという配慮からだ。しかし、入学候補者を全員繰り上げ合格にしても、定員割れが予測される場合も出てくる。そうなると、不合格者にいきなり「合格」を連絡するケースもあるという。これは電話で行われる。ほとんどの大学はネット出願にしており、メールでもよさそうなものだが、大学関係者は「不合格になった大学のメールなど受験生は見ない」という。そのため、電話で順に連絡していくことになる。
中堅の大学では、上位大学が追加合格を出すたび、入学辞退の連絡が入り、そのつど繰り上げ合格を行わざるを得ない。上位大学が繰り上げ合格を出せば、下位の大学まで広がる。こういった合格発表は大学、受験生ともに負担が大きい本来、喜びいっぱいのはずの合格通知が、受験生にとっては複雑な気持ちの連絡になるケースもあるようだ何とかならないものか。
さて、このような合格発表だが、入学者が減っても、大学の経営に大きな支障はない。大学は定員を充足すると経営が成り立つ仕組みだからだ来年は1.0倍が目途となるため、さらに合格者が絞られる可能性は高い。そうなると、来年の一般入試でも、併願校を増やす受験生が増えると見られる。一般入試においては、例え不合格になったとしても、大学からの連絡には注意しておくことが大切だろう。
その一方で、年内に合否が決まる推薦入試やAO入試が人気になる可能性が高い。特に専願制の試験でその傾向が強くなると見られ、指定校推薦を活用する受験生も増えそうだ。
主な私立大入試結果