大学選びに就職の情報は欠かせなくなってきている。将来のことを考えながら、大学・学部を選ぶのはごく当たり前のことになってきた。その時に気になるのは就職率と、どこの企業に就職しているかだろう。就職に強い大学はどこか探った。
大学新卒者の就職状況が好調だ。2008年秋のリーマンショックによる不況を脱し、大学生の就職戦線は売り手市場になっている。今年の卒業生は就活スケジュールの変更に混乱した世代でもある。経団連の「採用選考に関する指針」によると、企業の採用活動に関する広報解禁が前年までの3年生の12月から3月に変わった。面接などの選考は4月から8月へ後ろ倒しになった。就活による学業への影響をできるだけ小さくしようとの狙いだった。
しかし、現実には経団連に加盟しない企業などが早めに内定を出し、8月を待たずに内定を獲得する学生が増えた。内定の分散化が進んだのだ。そのため、重複内定を獲得する学生も多く、オワハラ(就活終われハラスメント)が大きな問題にもなった。企業としては学生に早く就活を終わって、入社を決めてほしかったのだ。企業側に売り手市場で、学生を早く獲得したい焦りもあったと見られる。学生の就活に詳しい専門家は「昔は大手、準大手、中堅、
中小の順に内定を出していましたが、期間が短縮されて一斉に内定を出すようになり、企業もダメなら次の手を打てるのに、学生が態度をはっきりしないため、オワハラが起きている面もあります」という。
当事者の学生にとって、就活は大変だったと見られる。こういった就活の中で就職を決めた学生はどれだけいたのか、大学別実就職率(就職者数÷〈卒業者数―大学院進学者数〉×100)ランキングを見ていこう。このデータは大学通信が全国の大学にアンケートし、568校から回収した結果をまとめたものだ。
【文系学部で実就職率が大幅に改善。文高理低の学部人気の大きな理由】
大学全体の今年の平均実就職率は86・3%で、前年を1・9ポイント上回り、6年連続アップとなった。5年前と比べると、全体で74・4%から86・3%へ11・9ポイントの上昇。特に文系学部では、経営が73・1%⇒88 ・2%、商が73・5%⇒86・8%、経済が72 ・8%⇒
86・7%、法が67・8%⇒83・7%、文・人文が67・5%⇒83・3%と大きく伸びている。
この文系学部が好調なことは、大学入試にも大きな影響を及ぼしている昨年入試から文系学部の人気が上がったのだ。2008年秋のリーマンショックから始まった不況で、企業は事務職を中心に採用を控え、文系学部の卒業生の就職に大打撃を与えた。2010年の入試では、文系学部の志願者が軒並み減った。その結果、理高文低の学部人気となった。不況にもかかわらず、理系学部の就職は堅調で、さらに就職に不安がない医や看護など、国家資格と結びついた学部の人気が高くなった。
近年、就職状況が大学入試の志願者に大きな影響を与える傾向にある。この背景には、中高でキャリア教育が熱心に行われるようになり、自らの将来を考えながら大学・学部を選ぶ傾向が強くなってきたことがある。就職が好調なことから文系人気がアップし、昨年から文高理低に変わった。
【小規模大学では理系の大学が強い。大規模大学トップは東京理科大】
そんな状況で、今年の大学別の就職状況はどうだったのか。各大学の実就職率ランキングを見ていこう。まずは表1の卒業生数500人以上1000人未満の小規模大学だ。
トップは長岡技術科学大の97・4%で、2位が高知工科大の97・0%、3位は東京薬科大、4位は東北工業大、5位は東邦大。トップ5はすべて理系の大学だ。
やはり理工系学部の実就職率は高い。総合大学でも理工系学部の実就職率は高いのだが、文系学部が理工系より低いために、大学として合計すると、どうしても理工系大学より低くなってしまう。一方、理系学部がない大学のトップは6位のノートルダム清心女子大の95・1%だった。文と人間生活の2学部だ。
小規模大学のキャリアセンターの職員は「学生が少ない大学では教職員と学生の距離が近く、学生に目が行き届き、就職指導をしやすい環境にあることから就職率が高くなります。なかでも理系の大学や学部の場合、実験、実習などで、学生が大学に来ることが多く、つかまえて指導しやすく就職率も高くなります」という。
次に表2の卒業生数1000人以上3000人未満の中規模大学128校の実就職率を見ていこう。
トップには福井大が2年ぶりに返り咲いた。実就職率は96・8%だ。これで8年連続国公立大トップだ。学部は医、教育、工の3つで、文理系学部が揃う総合大学としてもトップだ。この3学部は比較的実就職率が高い学部であることも、トップとなった理由だろう。きめ細かい就職指導には定評がある。新卒者の在職3年以内の離職率は、全国平均の31%をはるかに下回る7・1%だという。就職ありきではなく、学生の意思を尊重した就職指導を行っている。今年、国際地域学部を新設し、就職状況にも注目が集まる。
2位は昨年トップの金沢工業大で96・5%。北陸の2校が強い。首都圏から離れている地理的ハンデもあり、危機感が深いこともあると見られる。金沢工業大は就活で大都市の企業に行く場合、大学が交通費を負担する制度も用意している。
就職が良ければ入学者が増える傾向が強まっており、各大学とも力を入れている。3位は愛知工業大、4位日本福祉大、5位芝浦工業大と続いた。上位の大学は、いずれも昨年より実就職率がアップしている。工業大が上位を占めているのも特徴だ。
表3は卒業生数が3000人以上の大規模大学だ。トップは2年連続で東京理科大。昨年の92・4%から95・1%にアップした。理系の総合大学として知られ就職は好調だ。就職先を見ると、日立製作所25人、NTTデータ19人、三菱電機、NECソリューションイノベータ、野村総合研究所(グループ)が各18人など。東京理科大に続く2位は名城大、3位は新潟大、4位は名古屋大だ。愛知の2大学は、トヨタ自動車を中心に地元企業が好調なことが要因と見られる。
5位は青山学院大、6位は関西学院大だ。東西の大手大学ではやはりメガバンクへの就職者が多い。青山学院大の就職先トップはみずほFGの68人。関西学院大のトップは三井住友銀行の134人で、これは三井住友銀行の大学別就職者数トップだ。
【好調な東海・北陸・甲信越エリア。女子大の平均実就職率は88・9%の高率】
次に表4のエリア別の実就職率ランキングを見ていこう。これは卒業生数300人以上の大学の実就職率を大学の本部の所在地によってランキングしたものだ。
「北海道・東北」のトップは秋田県立大の96・5%。2位は東北工業大、3位は宮城大、4位は北海道文教大、5位は山形大となった。
「関東」トップは明治薬科大の97・8%、次いで東京薬科大、芝浦工業大、東邦大、電気通信大と続いた。理系学部が多い大学が強い。トップの明治薬科大は薬学部の単科大だ。女子大も上位に来ており、11位の昭和女子大、12位の女子栄養大、15位の学習院女子大など。6位に医療系の東京医療保健大、9位には教育、心理、社会福祉3学部の東京福祉大が入っている。
「東海・北陸・甲信越」では富山県立大がトップだ。工学部のみの単科大で、99・6%の実就職率は卒業生300人以上の大学でもトップだ。2位が長岡技術科学大、3位が福井大、4位が福井県立大、5位が金沢工業大で、トップ5のうち4校が北陸の大学となった。また、30位の大学の実就職率を比較すると、この地域の91・6%が全地域でトップだった。
「近畿」のトップは京都薬科大。2位が大阪工業大、3位が畿央大、4位が兵庫県立大、5位が京都女子大の順。理系大学が強いが、女子大の強さも目立っている。
「中四国・九州」のトップは高知工科大、2位が九州工業大、3位がノートルダム清心女子大、4位が福岡工業大、5位が熊本保健科学大の順となった。ここでも上位は理系の大学だ。
最後に表5の女子大の実就職率ランキングを見てみよう。
すべて私立大でトップはノートルダム清心女子大、2位が名古屋女子大、3位が安田女子大、4位が昭和女子大、5位が女子栄養大となった。昔は女子のほうが就職は厳しいと言われた時代もあった。しかし、今は大学全体で86・3%の実就職率だが、女子だけで87・3%、女子大に限ると88・9%の高率になる。女子大が就職に強いといわれる根拠だ。求人票ひとつをとっても、女子大には女子採用を考える企業からしかこないため、効率よく就活できるメリットも大きい。
<次回有名企業400社就職率に続く>
⇒【2016年度大学就職力データ②】有名企業400社就職率ランキング!