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学習院大学の教育学科は2013年の開設以来、小学校の教員採用試験で9割超の合格実績を誇り、志望者のほとんどが教員としてキャリアをスタートさせている。しかも、教育現場の厳しい環境が指摘される中、学生時代に確かな実践力と柔軟な対応力を磨くことで、低い離職率を継続させている点も大きな特長だ。教育現場に貴重な人材を輩出し続ける同学科の取り組みについて、岩﨑淳教授と伊藤亜矢子教授に伺った。
取材・文 鈴木秀一郎
大人の尺度だけで子どもを判断してはいけない
岩﨑 淳 教授
早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程満期退学。学習院中等科教諭を経て2013年より現職。専門は国語教育。著書に『「新しい国語科教育」基本指導の提案』(さくら社)、『授業改善をめざす』『古典に親しむ』『言葉の力を育む』(いずれも明治図書)などがある。
―まずは小学校教育の現状からお聞かせください。
岩﨑 公立小学校で土曜日の授業が段階的になくなっていきました。単純計算で年間35週間が授業週の目安ですが、土曜日の4コマが35週間減れば1年間で140コマの授業がなくなることになります。私の専門は国語教育ですが、この流れの中で当然ながら国語の授業数も減っています。私立の小学校では土曜授業を継続させているケースもありますので、学力格差を懸念する保護者を中心とした私立人気も頷けるわけです。
また、国語に関連するトピックとして、若者は“厳格に言葉を使うこと”を尊ぶよりも、同年代の仲間とだけ通じ合えて楽しめるような、いわゆる“ネットスラング”や、極端に省略された隠語などを用いた閉鎖的なコミュニケーションに重きを置いている印象です。一方で、日本の文化を学びたいという意欲や、古い言葉で記述された古典作品への興味などは薄れているように感じます。そう考えると、学校教育の出発点である小学校での国語教育は責任重大であるとともに、やりがいも十分あります。もちろん新しい時代には新しい教育が必要であるという大原則のもと、10年ごとを目安に学習指導要領が変わり、重点項目の変化も見られます。それでも、変わるべき部分と、本質的には不変的な部分のバランスを取りながら子どもを育てていくことが、小学校教育の役割だと思います。わかりやすい変化では、タブレット端末の導入がありますが、きちんと文字を書けることも大切です。二者択一ではなくバランスが重要です。
他方、海外にルーツを持つ児童が増えてきているため、児童にとっては多様性の実感につながり、小学校教育に新たな可能性が生まれていることも確かです。だからこそ教育学科にも日本語教育の授業がありますが、それ以前に児童の差別的な意識をなくしていじめを防止する対策や、適切なケアを行える体制づくりも重要になります。
―そこは伊藤先生のご専門とも関わると思います。
伊藤 亜矢子 教授
東京大学大学院教育学研究科博士課程満期退学。臨床心理士・公認心理師。お茶の水女子大学生活科学部准教授などを経て2024年より現職。専門は学校臨床心理学。著書に『エピソードでつかむ児童心理学』(ミネルヴァ書房)や『学校で使えるアセスメント入門』(遠見書房)などがある。
伊藤 私は臨床心理士、公認心理師として不登校やいじめなどの教育課題に向き合いながら、臨床心理学の知見を用いて、多様な児童・生徒を学校が支援する方法について実践研究を進めてきました。これらは教員を目指す学生にもぜひ真剣に考えてほしいテーマです。その点、現在の学生は当たり前のように特別支援教育がある環境で小中高を過ごしてきた世代であり、多様なルーツを持つ仲間など現代的な学校を体験しています。その上で、例えば「特別支援教育論」という科目などでは、多様な事例に触れながら精神分析に関する理論を学んだり、ロールプレイをとおして実践的な対応力を磨いてもらいたいと考えています。教員の対応次第で子どもたちの反応や行動は変わりますので、まずは子どもの状況を理解し、子どもの気持ちを理解するために相応しい声かけ方法などを学んでいくことが重要になります。
―声かけにはどのような点に注意が必要なのでしょうか。
伊藤 教員の客観的な捉えと、子ども自身の主観的な認識には、時に隔たりが生じます。そのことも踏まえて、子どもが生きている世界を、子どもの視点から理解しようとすることが大切です。教育学科には、「学校カウンセリング論」や「教育相談論」といった科目もありますので、どのように子どもと関わり、どのように子どもを理解していけばいいのかを学び、さらにはスクールカウンセラーとの連携方法なども学びます。これらは学級経営に役立つ内容でもあります。
なお、スクールカウンセラーと教員は、緩やかに役割分担をしつつも、協力しながら子どもと関わっていくものです。近年は対応すべき課題のバリエーションが広がり、求められる対応も変化してきていますが、教員としてできる最大限のことをできるようになってほしいと考えています。日本社会の未来は、現在の子どもたちがつくっていくわけですから、学生には、子どもの気持ちをしっかりと理解した上で、適切に対応できる教員をめざして努力してほしいです。
学生時代の準備こそが自分を信じる力の礎となる
―教員に求められる資質自体が変化しているのでしょうか?
岩﨑 以前の教員養成と比較すれば、時代の変化に応じて学生時代に身につけておくべき内容は変化してきています。これまで教育現場で慣習的に行われてきたことが、現在では批判の対象になるケースもありますので、学生時代はもちろんのこと、教員免許取得後も学び続ける姿勢が不可欠です。ただ、これは着任後の話にはなりますが、授業準備などの通常業務もある中で、誠実で向上心のある教員ほど自発的に学び続け、その分多忙を極めてしまうことも確かです。それが心身が疲弊する要因となり、休職や退職を余儀なくされてしまうケースもあります。
そこで意識してほしいのは、“周囲の話を聞き過ぎないこと”です。着任からの年数が浅ければ、社会人として謙虚な姿勢を持たなければいけないものの、その一方では“自分を信じる力”を持ち続けてほしいのです。他人の話に何ら耳を傾けず、自分の考えこそが正しいとする姿勢は褒められたものではありませんが、周囲のアドバイスをすべて受け入れようと頑張り過ぎることで、かえって自分が追い込まれていくような状況は回避してほしいのです。
伊藤 その点、教育学科には教員自身のメンタルヘルスに関する授業もあります。どのようなトラブルが起こり得るかを予測して、どのようなメンタルコントロールを行い、どのような制度を活用できるのかなどを学びます。学校に限らず、どんな職場でも何かしら危機が訪れるものですので、いかに備えるかという実践力の向上を目指します。例えば、いわゆるモンスターペアレントへの対応方法について、ある程度の予備知識があれば、心に余裕を持って対応に臨めるでしょう。従来の教員養成では扱われてこなかったテーマであり、現場に着任してから“見よう見まね”で対応していたような内容ではありますが、これを学生時代に学び、現場感覚と実践力を養うのです。きちんとした知識を持って対応すれば、教員も児童も保護者も納得のいく解決方法が見出せるものなのです。しかも、指導に当たるのは現場を熟知した教員です。それが本学を卒業した小学校教員の低い離職率につながっているように思いますので、教員志望の受験生にはどうか安心して入学してほしいと思います。
大学全体が有するノウハウを教育学科に還元
―学科の枠を越えたプログラムについてもお聞かせください。
岩﨑 まず、大学として新宿区とインターンシップの協定を結んでいるため、学生はスクールボランティアやスクールサポーターとして現場のサポートを経験するチャンスがあります。加えて、学習指導補助員と呼ばれるスタッフを募集している自治体もありますので、学科で情報のとりまとめと受け入れ先の紹介を行っています。
また、教育学科が主催して「教職セミナー」という全学的なイベントを実施しており、他学部他学科から教員になった卒業生や教育行政に携わっている卒業生などと交流ができます。小学校教員の養成を目指す教育学科は2013年開設の新しい学科ではありますが、他学部他学科における中高の教員養成は長い歴史と実績がありますので、そのノウハウや卒業生ネットワークが教育学科にも還元されています。
伊藤 教育現場における課題が多様化し続けている中で、現場を知る卒業生がサポートしてくれるシステムです。また、もちろん教育学科の教員も多彩な顔ぶれであり、国語や算数などの教科別の指導方法を専門とする教員もいれば、教育学や教育行政などの研究者もいます。こうした教員陣と深く関わり合いながら、実践的なノウハウを幅広く学んでいけることが教育学科の強みですね。
独自のホーム制が強固な仲間意識を形成
―学びの面以外での教育学科の魅力をお聞かせください。
岩﨑 本学科は1学年の定員が50名というコンパクトさに加え、さらに学生を6人程度のグループに細分化する「ホーム制」を設けています。このホームがあることで、学生には常に話し相手がいる状況が生まれます。まずはホーム内で交流を深め、段階的にホームの垣根を越えて交流の輪を広げられます。ホームのような枠組みがないと、集団に溶け込めずに“浮いて”しまう学生が出てしまいがちですが、ホームという自分の居場所が確約されていますので、何でも話せる関係性が自然と築かれていくのです。
伊藤 私の授業ではグループワークを多く取り入れているのですが、入学直後の1年生でもグループ内で活発にコミュニケーションを取っています。ホーム制によって対人コミュニケーションへのハードルが低くなっているからだと思いますし、日々の交流をとおして仲間意識が強まっていくように感じます。
岩﨑 また、本学では上級生とも深いつながりが生まれます。各学年に青ホームや白ホームといったホームがあり、各年次の同じ色のホーム同士が交流し、上級生からアドバイスを受けられる機会もあります。
伊藤 学科内のスポーツ大会は学年を縦断したホーム対抗で行われますし、何か機会がなければ対話が生まれないと思われるような、タイプの異なる学生同士が親密に話している場面も目にします。
岩﨑 男子校や女子高出身だと「入学前までは異性と話しづらかった」という学生もいるのですが、ホームは性別のバランスも考えています。入学後の「オリエンテーション合宿」から、「自然体験実習」や「社会体験実習」などの体験型学習まで、いつの間にか男子グループと女子グループに分かれてしまうようなこともありませんし、親近感や信頼感を高めてくれているように思います。
伊藤 また、学科内では教員志望の仲間と密に関わりながら、部活動やサークル活動などをとおして、他学部他学科の学生とも交流を深められるのが、ワンキャンパスである本学の魅力です。教員養成大学ではないからこそ、多様な学生との関わりの中で視野を広げながら、成長していけるように思います。
教育は“光”であり未来を預かる仕事
―教育学科には独特の雰囲気もあるのでしょうか。
岩﨑 本学全体に当てはまるように思いますが、何か突出した才能を持つ学生だけを称賛するのではなく、「誰しもそれぞれいい部分がある」とお互いを尊重しあう雰囲気です。良識的であたたかく、大らかな学生が多く、教育者として子どもに接する際にも生かされる資質です。また、自己形成においても他者との関わりにおいても、バランスの良い考え方の学生が多いですね。
伊藤 私は複数の大学で学生指導をしてきましたが、学習院の他者の意見に耳を傾けられる柔軟さ、他者のことを考えて行動できるやさしさがありますので、接していて気持ちがいいですね。また、私も学生の優れたバランス感覚を感じます。小学校の教員は全科目の授業を担当しますので、特定の教科だけに専門特化した指導力よりも、多教科をバランスよく教える力が必要です。学生たちは、性格的なバランスの良さと、スキルとしてのバランスの良さを兼ね備えており、小学校教員に適したオールマイティーな資質を感じるのです。バランスの良い学生がバランスよく学んでいける環境は居心地がよさそうですし、学生たちは楽しみながら自信を高めていけるのだと思います。
―最後に教員志望の受験生にメッセージをお願いします。
伊藤 私は「医者は命を預かる。銀行はお金を預かる。教育は未来を預かる」と考えています。教員として直接教育現場に身を置くわけでなくても、企業における人材育成や、文部科学省などで教育行政に携わることも、日本の未来、子どもたちの未来に寄与することになります。ぜひ教育学科での4年間で教育に関する専門的な知見と広い視野、そしてバランス感覚を磨いてくれることを願っていますし、それを将来、幅広いフィールドで発揮してほしいですね。
岩﨑 私は「教育は光、教育は希望である」と考えています。個人の未来も社会全体の未来も、教育によって切り拓かれていくものであって、教育は非常に価値ある仕事だと思います。ただ、入学後に教員以外の道に方向転換することになっても、決して引け目に感じる必要はありませんし、それまでの学びも決して無駄にはなりません。中には一般企業に就職してから教員になった卒業生もいます。まずは4年間で教員免許の取得を目指してほしいと思います。それが将来の選択肢を広げ、自らの可能性を広げることになりますので、興味があればぜひ飛び込んできてほしいですね。