リベラルアーツは、自然科学の学びにおける欠かすことができない“ブースター”―国際基督教大学(ICU)

リベラルアーツは、自然科学の学びにおける欠かすことができない“ブースター”―国際基督教大学(ICU)

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社会の課題が多様化・複雑化する今、学問領域の垣根を越えて知見を融合させ、新たな技術や価値を創造することの重要性が高まっている。そこで改めて注目が集まっているのが、リベラルアーツ教育だ。世界初の同時通訳可能な音声翻訳システムの開発者であり、国際基督教大学(ICU)で教授を務める北野宏明氏に、自然科学分野を学ぶうえでのリベラルアーツ教育の 重要性と、同学で学ぶ意義について伺った。

取材 松平信恭(大学通信)

専門分野以外での体験が、後の研究に大きな影響を与えた

オスマー記念科学教授
北野宏明 (きたの ひろあき)
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長。エンタテインメントロボットAIBOの開発に携わり、自律移動型ロボットによる国際的な競技大会である「ロボカップ」を立ち上げるなど、日本におけるAIの牽引者。世界で初めて同時通訳可能な音声翻訳システムを開発したことでも知られる。1984年、国際基督教大学(ICU)理学科(当時)卒業。2021年から同学オスマー記念科学教授を務める。

―ICUの卒業生である北野先生はどのような学生生活を過ごされていましたか?

ディベートに熱中していました。議論のテーマは、日本のエネルギー政策や食料政策、土地利用、海外への援助など、政策に関するものが多かったです。専攻していた物理学とはまったく違う分野なのですが、データをたくさん集めて分析し、ロジカルに議論することが楽しくて仕方ありませんでした。知らないことを調べて新たな知識を得るという行為も好きでした。

物理学の学びもとても楽しかったです。ICUでは、当時から少人数・対話型教育が実践されていたので、教員や学生たちとじっくりと議論することができました。卒業研究の指導教員はキャンパス内に住んでいらっしゃる、イギリス暮らしの経験のある方でした。毎週水曜日に先生のご自宅にお邪魔し、アフタヌーンティーを楽しみながらご指導いただいたのは、とても良い思い出です。いずれの先生も、どのような質問にも丁寧に答えてくださり、対話を通して理解を深めることができました。ときには私の質問を、その分野に詳しい別の教員に取り次いでくれたこともありました。物理学に関する学びはもちろんですが、先生方の人生経験やそこから得た考え方など、さまざまな話を聞かせてもらえたことは良い経験です。

現在の私に大きな影響を与えることになった出来事の1つが、一般意味論をご専門とするコミュニケーション学者で、同時通訳者の斎藤美津子先生との出会いです。斎藤先生には、たっぷりと同時通訳の指導をしていただき、斎藤先生からのご紹介で、通訳の仕事をしたこともあります。そういった経験が、AIに同時通訳をさせるシステム開発をする際の考え方のベースになりました。

こうやって振り返ると、AIをはじめとしたコンピューターサイエンスを専門にしている私が、学生時代にはまったく別の分野に熱中していたことがよくわかりますね。実にICUらしいと思います。

リベラルアーツがもたらす「違った視点」がブレークスルーを誘発する

―自然科学の学びや研究を行ううえで、リベラルアーツの重要性が注目されています。それはどうしてでしょうか。

現在の自然科学やテクノロジーというものが、1つの分野だけで完結していないからです。他分野と繋がり合っていたり、他分野から着想を得て成り立っていたりします。斎藤先生と出会って同時通訳を学んだことからAIによる通訳システムへとたどり着いた私の経験は、まさにその例だと言えます。

クリエイティブなアイデアを出す研究者というのは、ほとんどの場合、専門以外の分野の学びも経験しています。あるいは、専門分野を移ってきて10年以内の人であることが多いです。いずれのケースも、現状から先に進んでいくためには、専門分野とは違う考え方・物事の見方が必要なことを象徴しています。

幅広くさまざまなことに興味を持って探究し、知識を蓄積していく。その経験が、専門分野において新たな視点や考え方をもたらしてくれます。

自然科学を学ぶ人の多くは、大学院に進学し、専門分野に的を絞った学びや研究を行います。比較的時間にも余裕があり自由に学ぶことのできる学部時代に、視野を広げる学び、すなわち「リベラルアーツ」の環境で学ぶことが大きな意味を持つと思います。

ICUは、進むべき人生の多彩な選択肢と出会える場所

―先生が感じるICUの特徴についてお教えください。

まずは何と言ってもリベラルアーツですね。分野を問わずさまざまな学びに接することができます。ICUは、教養学部1学部の中に、31のメジャー(専修分野)があります。どれか1つを選ぶ「シングルメジャー」に加えて、2つのメジャーを同時に組み合わせて学ぶ「ダブルメジャー」という学び方や、2つのメジャーを比率を変えて履修する「メジャー、マイナー」という学び方もあります。これは画期的なシステムで、文字通り自分の興味に合わせて自由自在に学びを組み立てることができるのです。「ダブルメジャー」や「メジャー、マイナー」にチャレンジする学生には、できるだけ異なった分野の学びを組み合わせてほしいですね。2つの学びが遠ければ遠いほど、得られるものは多くなるはずです。ちなみにICUのようなリベラルアーツの大学には文系・理系という概念はありません。文系・理系と分けることは、日本独特の習慣であり、変えていくべきだと私は考えています。学びや興味の幅を狭めてしまううえに、「文系だから技術のことはわからない」「理系だから経済はわからない」など、他分野への理解不足に対するエクスキューズ(言い訳)にさえなっているのです。このような意識では、新たな価値は生み出せません。ICUの31メジャーは、文系・理系といった区分に関係なく、人文、社会、自然科学にわたる多様な分野で構成されています。環境研究やグローバル研究といった学際的なメジャーもあります。文系・理系といった考え方を捨てて、思う存分、興味を探究することができます。

多様性もICUを語るうえで欠かせない特徴です。実は私がICUへの進学を決めたのも、多様性に惹かれたからです。ICUには、国籍、言語、文化的背景、学問的興味・関心、そして価値観も異なるさまざまな学生がいます。教員も同様に、さまざまな人がいます。そういった人たちが、活発に対話をしているのです。また、私は「Leave me alone」という雰囲気も気に入っています。どういうことかというと、議論して意見をぶつけ合うけど、押し付けることはないのです。多様性に満ちた環境のなかでたくさんの刺激を受けながら、なおかつ他者から価値観を強要されることなく自分の道を歩むことができるのが、ICUという環境です。私にはとても心地良いものでした。

また、日英バイリンガル教育もICUの特徴であり魅力です。日英両言語が公用語のため、当然日本語で行われる授業もあれば英語で行われる授業もあります。ディスカッションや日常の会話では、グループのなかに一人でも日本語が苦手な人がいれば、すぐに英語が飛び交います。留学や海外暮らしの経験がない学生は初めこそ戸惑うかもしれませんが、すぐに慣れて英語で大学生活を送れるようになります。日英バイリンガル教育は、自然科学を学ぶうえでも大きな力になります。これだけ技術革新が目まぐるしい現代において、英語で書かれた論文の原著に苦手意識があると、変化のスピードについていくことが難しくなります。研究者になるとは、英語で仕事をし、英語で生活をするということでもあるのです。論文執筆や学会発表、ディスカッションも、当然のように英語で行います。その素地を、ICUの日英バイリンガル教育はつくってくれます。

私は「空間は思考に影響を及ぼす」と考えています。その点において、美しいキャンパスを持つICUという環境は非常に秀でたものだと言えます。自然が豊富で広々としたICUのキャンパスは、物事をじっくりと考え、視野を拡げていくにはぴったりな環境ですよ。まだ来たことのない方は、ぜひ足を運んでみてください。

大学とは、学生に対して人生の選択肢を提供する場所であるべきです。学びの幅が広いほど、選択肢は増えます。多様な人と出会い、ともに活動するという経験も、多彩な選択肢につながります。世界中に広がっている卒業生や教育機関・研究機関とのネットワークも、選択肢を増やしてくれます。選択肢の土台になる要素が豊富にそろっている場所が、ICUだと言えます。

学部時代に基礎を固めることが、有意義な卒業後の進路につながる

―受験生へメッセージをお願いします。

ICUという多様性に満ちた場所で自分の興味を見つめ、自由に学びをデザインすることは、みなさんの思考力を確実に鍛えてくれます。生きていくうえでの基礎をつくることができるとも言えるでしょう。それは、卒業後にどのような分野に進むにしても、もっと言えば卒業後に続く何十年という人生における、大きな財産になるはずです。

現在、プロフェッショナルとして活躍するためには大学院を修了することがスタンダードになっています。研究を深めるために大学院に進学される方もいらっしゃいますし、ビジネスや法律の分野では、MBAやロースクールといった専門職大学院に進学される方も多くなっています。大学院で学ぶための基礎を築くのが学部での学びであり、リベラルアーツ教育です。分野を問わずさまざまな知識を得て、議論を通して理解を深めることが、大学院で専門分野を研究する際に、社会に出て課題に立ち向かう際に役に立つのです。

プロフェッショナルを目指すためには、異なる環境で学ぶことも大きな意味を持ちます。私は、学部と大学院、さらにポスドク(博士研究員)はそれまで学んできた場所とは違う場所にチャレンジしてほしいと思っています。新しい人に出会い、新しい発想や研究スタイルに出会うことが自分自身を成長させてくれるからです。

ICUには、リベラルアーツ教育で深く広く学び、ハーバード大学やスタンフォード大学など、世界をけん引する海外の大学院へ進学する学生もたくさんいます。

20歳前後の時代を過ごす大学というのは、言ってみれば「人生最初のブースターロケット」です。この時代に得られるものの多さや質の高さが、ロケットの推進力の強さになるのです。ICUのリベラルアーツ教育で確かな基礎を築くことは、推進力抜群のブースターを手に入れるようなものです。みなさんがそれぞれの道で興味を探究し、活躍するための第一歩として、ICUで学ばれることを楽しみにしています。

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