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2018年4月、金沢工業高等専門学校は「国際高等専門学校(以下:国際高専)」に改名し、白山麓キャンパスを新設して、まったく新しい学校としてスタートした。「高専」という言葉自体なじみがない人も多くいるが、「国際」がついた上に全寮制と留学、さらには大学との共同研究がある極めてユニークな学校だ。全ての授業を英語で行うなどの特徴あるカリキュラムの魅力も手伝って、日本だけでなく海外からも入学者が集まっていることが、さらに学校の特徴を色濃くしている。ほんの少しだがこの学校生活を体験する機会があったので、旧来の学校教育のみ受けてきた一保護者からみた、新しい教育が盛りだくさんの国際高専を紹介してみる。
スケールの大きい教育をオールイングリッシュの授業で実践
国際高専の白山麓キャンパスは金沢の街中から1時間、石川県白山市の雄大な自然の中にある。キャンパスの広さは約6万8000㎡(サッカーコート約10面分)で、校舎、学生寮、トレーニングジム完備の体育館に加え、温泉施設まで備えられている。
国際高専の学生は、まず1、2年生の間を全寮制のこの白山麓キャンパスで過ごす。3年生になるとニュージーランドの国立オタゴポリテクニクに1年間留学。そして4、5年生になると金沢工業大学と共有する金沢キャンパスで、大学生と共に研究やプロジェクトなどに取り組む。5年間のうちに寮生活・留学・大学生との共同研究と多彩な学習環境が用意され、通常の高校生活では決して得られない体験が詰まっている。
国際高専の大きな特徴はもう一つ、英語で行われるSTEM教育だ。STEMは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとったもので、これらを総合的に学び、将来、科学技術の世界的発展に寄与できる人材育成が目的と、スケールの大きい教育を実践している。
STEM教育の例として、2年生の化学の授業を見学した。教授陣は黒板だけでなく、プロジェクターなども使ってテンポよく授業を進めていく。熱による状態変化を説明するくだりでは、身近にある瞬間冷却パックを取り出す。
「これは叩くと冷たくなるよ。なぜかな?」
「周りの熱を吸収するから」
「そう! 吸熱反応というんだ」
教員と学生の活発な掛け合い自体が今までの座学中心の授業とまったく違うのだが、さらに凄いのはこのやり取りが英語で行われていること。「全員がついていけるのかな」という不安が頭をよぎるが、英語の理解だけでなく専門分野を含めて、わからない時は近くの学生がさりげなく教えあっている。教員には聞きにくい初歩的な質問も学生同士なら気軽にやりとりできるので大変効果的だ。実はこの「学び合い」は極めて有効な学習システムとして昨今着目されてきており、併設校の金沢工業大学でも取り入れられている。
1年生の生物の授業の模様。
教室の後ろには別の教員の姿も。授業中、学生たちの理解度を観ながら都度、その場でサポートを行っている
続いて「エンジニアリングデザイン」の授業を見学。これは国際高専のカリキュラムの軸になる授業で、学生自身が問題を発見し、その解決を図るアイデアを形にしていく過程を通して、ものづくり全体の枠組みを学ぶ教育だ。1年生のエンジニアリングデザインの授業では、学生たちは、ユーザー役を務める教員に「どんな商品が欲しいか」「どんな問題があるか」を英語でインタビューしながら、集めた意見をまとめる作業をしていた。その課題や思いついたアイデアをポストイットに書き出して、教室の窓やホワイボードなどあちこちに貼って整理し、ディスカッションをしている。これらの授業では知識の習得はもちろんだが、対話から生まれる新しい考えを尊重している。先の化学の授業もそうだが、コミュニケーション力が重要視され、自分から発信していかなければならない環境なので、少々引っ込み思案な子であっても、自分の意見を積極的に述べる姿勢へ変わっていくことができる。昔は大勢の中で挙手して発言できるかどうかが積極的な学習姿勢とされていたが、ここではそのような見方は無用。多感すぎて内にこもりがちな学生にも魅力的な授業である。
1年生の「エンジニアリングデザイン」。出されたアイデアをポストイットに書き出し、分類していくことで解決策を考える。
このチームは温泉施設における「カメムシ退治」用ロボットの試作機も製作していた。
校舎は弓型形状の2階建てで、高い天井と、木材が多く使われた広々とした空間が特徴だが、最大の特徴は学生が身を置くスペースが幾つもあること。1階には、図書館を併設しテーブルや椅子がいくつか配置された「ライブラリー&ワークコモンズ」、2階にはおしゃれなカフェのような雰囲気の「リビング・コモンズ」があり、どちらも、学生の交流の場としてだけではなく、個人学習やグループ学習の場所としても使われている。学生たちは自分たちにとって最も居心地の良い空間を選ぶことができるわけだ。このことは学校としてかなり重要な点で、中学校・高校から大学に至るまで、生徒(学生)が落ち着いて学習や課題に没頭できるスペースの充実が、学校として高い満足度につながることが現在は当たり前のことになっている。国際高専は学校としてかなり高い水準を持ち合わせているということだ。
ものづくりに力を入れる国際高専ならではの施設は、1階に設けられた「メーカースタジオ(工房)」だ。ここには3Dプリンタやレーザーカッター、材料の表面を加工する「汎用フライス盤」、穴あけ加工をする「ボール盤」などの工作機械や工具がそろい、授業ではもちろん、ロボコンに参加する学生たちのロボット制作などでも利用できるようになっている。一転してここでは最新かつ高度な施設設備を駆使できる、ものづくりが好きな学生にとってたまらない場である。先のフリースペース充実に加え、高い技術が揃っていることも国際高専ならではの特徴だ。
授業を終え、夕食が済んだ19時30分になると、学生たちが続々とリビング・コモンズに集う。全学生必修の課外学習「ラーニングセッション」が始まる。このセッションでは、ラーニングメンターと呼ばれる外国人の担当教員のアドバイスの下、学生は自発的にグループになって21時30分までの2時間を授業の予習・復習に充てる。各々のグループは、ライブラリー&ワークコモンズとリビング・コモンズの好きな場所に移動して、真剣に議論したり、教えあったりしている。全学生が一斉に参加でき、学生同士で共通の課題を一緒に考えて解決していくことで、一人での自主学習では得られない知識や理解の定着を図ることができる。これは全寮制ならではの長所だといえる。
エンジニアリングデザインの授業の復習をしていた1年生グループの一人に国際高専での学びの感想を聞くと、「興味あることばかりで面白い。英語の授業は難しいが、毎日の授業で必ず使うため、英語の力が伸びているのを実感している。将来はIT系の会社で働きたい」と夢を語ってくれた。その際隣にいた学生が「○○君(話を聞いた学生)は入学当初全然英語ができなかったのに、今ではかなりしゃべるようになった。〇〇君凄いですよ」と自分の成長のように紹介してくれた様子が印象深かった。仲間と一緒に学習するとはこういうことかと認識できた一瞬だ。
学びに集中するため、衣食住も快適に
寮の1室で宿泊することで寮生活も体験できた。1、2年生が共同生活を送る学生寮では、1ユニットに6人が生活する。部屋は個室で、ユニット内には机と椅子がある共用スペースがあるほか、シャワーや洗面、トイレが共用になっている。そのほか、各階で共同使用するリビング部分にはテレビ、キッチン、冷蔵庫、電子レンジなどの生活家電が置かれている。また、寮は男女別で、寮の出入り口には学生証(カードキー)による認証システムを完備。防犯カメラも設置してあり、セキュリティも万全だ。
キャンパス内での食事は、朝・昼・夜ともにカフェテリアで提供される。洋食、和食、中華、エスニックなど多彩な料理が日替わりで提供され、学生たちはセルフサービス形式で食事を楽しむ。世界の様々な国や地域から訪れている学生や教員のため、メニューは英語と日本語で書かれているほか、イスラム教徒向けのハラルフードも用意されているなど、食環境を通しても世界を意識することができる。
また、特筆すべきは、併設された温泉施設「比咩(ひめ)の湯」だ。キャンパス内に温泉施設があるとは、なんとも優雅だ。学生はもちろん自由に利用でき、一般の人も有料で使うことができる。「比咩の湯」で学生と地域の方とが交流することもあるといい、地域や社会の課題などを聞く大切な社交の場にもなっていた。ただし建物間は屋外なので、厳冬期は急いで移動しないと大変だろう。何しろ積雪量は数メートルに及ぶ地だ。
「同じ釜の飯を食べる」「寝食を共にする」という言葉がよく使われるが、共同生活は他で学べない体験が可能であるからこそ多用されるのだろう。
高レベルのものづくりに没頭できる金沢キャンパス
2日目は4年生と5年生が学ぶ金沢キャンパスを訪れた。金沢工業大学と共有する金沢キャンパスは、金沢駅からバスで約30分の野々市市にあり、歴史的価値のある建造物として評価された1号館がある一方で、VR(バーチャルリアリティ)やAR(拡張現実)などの最先端の技術を利用できるラボがあるなど、白山麓キャンパスとは異なる魅力に溢れていた。そもそも金沢工業大学自体が高い研究力と教育力で定評があり、高校教諭からは高い評価を得ている大学である。国際高専の学生は大学施設を共有して使用でき、自分の興味や関心に合わせて講義をセレクトし、専門科目を大学生と一緒に受講するなどして、プログラミングやAI、データサイエンス、ロボティクスなどの専門的な知識や技術を身につけることができる。
ここでは学生のものづくりを支援する3階建ての施設「夢考房」の存在が特徴的だ。この工房では、手工具から各種工作機械、制作に必要なパーツを取りそろえ、ロボコンに出場するロボットプロジェクトや太陽光を電気エネルギーに変換して走行するソーラーカープロジェクト、人力飛行機プロジェクトなどのプロジェクトに参加する学生たちが頻繁に利用している。実際に製作したロボットやソーラーカーがそこここに展示されているほか、2階と3階にはなんと試走用のコースを完備。ロボコンの競技フィールドが再現されているほか、ドローンの飛行に支障がないように天井が高く、コンテストに向けて万全の準備を整えることができる。
自身が理系に関心のない保護者であっても、これだけ充実した施設に囲まれ、楽しそうに研究や開発に没頭する学生を目の当たりにすると、自分の子供もこのように学ばせたいと思うのではないだろうか。あるいは自分がこの教育を受けてみたいと思うことから、子供の進学を考えるかもしれない。それほど高い教育環境だ。
二日間の体験を終えて国際高専で学ぶことのキーワードを考えてみた。
「ものづくり」「英語・国際」「座学中心ではない授業」「寮生活」「仲間と一緒に学ぶ」「大学との共同研究」「STEM教育」「プログラミング・AI・データサイエンス」「ロボット」「未来の技術で未来の職業」「グローバル」「ビジネス・新商品開発」などが浮かび上がるが、「従来の教育システムに対する不満・不安」、さらには入学後に熱中できることを見つけた学生もいることから「興味のあることを探す」ということもあるだろう。保護者の視点でみると、受験対策に終始する高校生活に疑問を持つ、あるいは現代社会に今の教育制度が対応していないと思うようなら、「こんな学校もありますよ」と教えてあげたくなる学校である。まずはぜひ一度学校ホームページや説明会で調べてみてもらいたい。
メーカースタジオでは日曜もロボット製作に取組む1年生の姿があった。ホワイトボードには大階段を登るロボットの手書き設計図も。15歳、16歳の段階でこうしたやりたいことに没頭できるのも国際高専の強みだ。
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