農学部・先端理工学部協働 「アグリDX」人材育成の取り組みとは―龍谷大学

農学部・先端理工学部協働 「アグリDX」人材育成の取り組みとは―龍谷大学

<PR>

世界的に深刻化する気候変動を背景に、龍谷大学では2022年1月に「龍谷大学カーボンニュートラル宣言」を発出した。これは国が目標とする2050年に先駆け、創立400周年を迎える2039年までに各キャンパスでの温室効果ガスの排出がゼロとなる「ゼロカーボンユニバーシティ」を目指すことを宣言したものだ。農学部と先端理工学部が協働する「アグリDX人材育成事業」は、カーボンニュートラルの担い手となる人材育成に向けた取り組みの1つ。その概要について、農学部長の大門弘幸教授に聞いた。

取材・文 雫 純平(大学通信)

瀬田キャンパスならではの学部協働で多くのデータを活用

龍谷大学 農学部長 大門弘幸教授

―「アグリDX人材育成事業」を始めた経緯を教えてください。

近年、あらゆる産業でDX化、つまりデータやデジタルを用いた技術革新が推進されています。それは農業においても例外ではありません。本学部は2015年の開設以来、DXをけん引する人材を育成するために、従前の実習から一歩進み、作物の生育に加えて、気象や水質、土壌等に関する網羅的なビックデータを用いた実習を行いたいという考えを持っていました。

そうした中、ちょうど文部科学省による大学改革推進等補助金事業として、「デジタルと専門分野の掛け合わせによる産業DXをけん引する高度専門人材育成事業」の公募が始まったのです。これはまさに我々の考えと合致するものでしたので、先端理工学部と協働し「アグリDX人材育成事業」として応募し、採択された次第です。

本学の瀬田キャンパスは滋賀県大津市にあり、水田を中心とした広大な土地で多様なデータをとりながら、科学的な分析をできる人材を育成したいという思いを込めて取り組んでおります。

―事業の具体的な内容を教えてください。

農学部側には、1年次後期から2年次前期にかけて4学科全員の必修科目として、「食の循環実習Ⅰ」と「食の循環実習Ⅱ」があります。農作物の「生産(栽培・収穫)」から「加工」「流通」「消費」「再利用」に至る一連の流れについて学ぶ科目において、DXを用いて高度化した実習を行います。

例えば、生産の場面では水田センサーで測定した水位や水温データを無線経由でクラウドに蓄積し、スマートフォンのアプリで自由にアクセスしながら種々のデータと作物の生育の関係を解析していきます。また、加工の場面では酒類や味噌などの醸造について、pHや温度の変化、微生物の呼吸による二酸化炭素の排出などのデータを集めていきます。加工は職人技の領域でもありますが、職人の技術を数値化することで、高品質の食品加工ができる人材やその技術基盤を構築できる人材を育成していきます。

実習で使用している水田センサー

一方で、先端理工学部側では、「クラウドコンピューティング演習」の授業において、農場などで取った身近な環境データを使って演習を進めます。すなわち、作物の生育予測などに応用していきます。また、そのスキルを先端理工学部での分析をフィードバックすることで、農学部側でデータの取り方を変えるなど、これまでにはない取り組みが可能になります。

これからの社会を担うDX人材の育成

―「アグリDX」は、どのような人材を育成していくのでしょうか。

どの企業でもDXをけん引する人材を欲している反面、企業内での育成は難しいのが現状です。本学の立地する近畿地方には多数の企業がありますので、それらと連携し、既存の技術にDXを活用し、新たな技術を開発できる人材を育成することを大きな目標としています。卒業後の進路としては、食品・飲料業界や化学・医薬品業界など、農業に関連する様々な企業への就職が想定されています。

また、コロナ禍や東ヨーロッパ情勢の緊張など目まぐるしく社会情勢が変わる昨今、原料価格が高騰するなど、安定した物資の確保が脅かされています。我々人類が生きるために必要な食糧や衣類を作り出すことも農業の役目です。DXを活用して生産物を確保し、流通させ、再利用させるような役割を担う人材を育成している学部だということも、知っておいていただきたいことの一つです。

―最後に、高等学校の進路指導教諭に向けてメッセージをお願いします。

龍谷大学の農学部と先端理工学部は、滋賀県の緑豊かな地区に学び舎を構えています。大学の授業も遠隔で行うことが増えて便利にはなりましたが、対面で学ぶことによって得られることが多くあります。本学部は、学生自らが生産、加工、流通の現場に出ていき、我々の命の基となる「食」がどのように作られているのかを目の当たりにするような学びを提供していきます。

学生インタビュー

龍谷大学 農学部 植物生命科学科 2年 板谷秀隆さん

▶農学部で学ぼうと思ったきっかけを教えてください。
高校の授業で遺伝について学び、とても興味深いと感じました。大学選びにあたっては「植物遺伝学」について深く研究できる学部を探し、龍谷大学の農学部への進学を決めました。

▶「食の循環実習」に参加し、どのように感じましたか。
普段は接することの少ない他学科の学生との合同実習でしたので、他分野の学びに接することができ自身の成長につながりました。班ごとに野菜の栽培に取り組む中で、キュウリが病気になり、うまく生育しなかった理由を様々な方向から考えました。気象庁のデータや計測した地温、湿度などから、病気との関係を調べるなど、数値に基づいた仮説の検証を行い、新しい発見が多くありました。

▶今後の目標を教えてください。
私は将来、研究職に就きたいと考えています。膨大なデータを手軽に入手できる時代だからこそ、データの活かし方や取捨選択の方法を大学で学んでいきたいです。

龍谷大学大学院 農学研究科 修士課程1年 嶋田君晴さん

▶農学研究科で学ぼうと思ったきっかけを教えてください。
高校時代は文系でしたが、ご縁があり龍谷大学の農学部に入学しました。もともと体を動かすのが好きな性分ですので、座学だけでなく農場で実習や研究活動を行う機会が多い農学部が合っていたようです。野菜の栽培で、省力化や安定化に大きく貢献する単為結果性のメカニズムを解明すべく、農学研究科に進学し、トマトを用いて研究に取り組んでいます。

▶「食の循環実習」とはどのように関わっていますか。
大学の新しい取り組みに携わってみたいという思いから、TA(ティーチングアシスタント)として参加しています。実習に参加している大学1、2年生は当然分からないことが多いですので、そのサポートが主な役割です。実際の農場等の現場では、教科書や資料の記述にはないこともあるので、学びの楽しさにつながるような丁寧な対応を心がけています。

▶今後の目標を教えてください。
いくつかやりたいことがありますが、その中の1つが農業高校の教員です。私自身が文系出身ながら大学で農業の魅力を知ったように、生徒たちにも新しい農業の魅力を気づかせることができるようなアプローチを考えてみたいです。

ユニヴプレスMAGカテゴリの最新記事

ユニヴプレス