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1891(明治24)年、明治の英傑・榎本武揚(❶)が設立した徳川育英会育英黌農業科に端を発し、わが国初の私立農学校である東京農学校を前身とする東京農業大学。初代学長・横井時敬(❷)が唱えた「人物を畑に還す」を建学の精神とし、理論と実践を重視する「実学主義」の伝統が教育・研究の中に深く根付いています。現在、東京世田谷、神奈川厚木、北海道オホーツクの3キャンパスに6学部23学科、6研究科を擁する国内最大の農学・生命科学系総合大学に発展。日本全国を網羅するフィールド施設を生かし、「総合農学」の視点により、SDGsへの貢献をはじめ世界の人々の暮らしや命、地球環境を支える人材を育成しています。さらに、教育研究の成果を世界に還元するため、国際化とアントレプレナー教育を推進するさまざまな取り組みが始動しています。
取材 井沢 秀(大学通信)
「実学主義」の伝統を次なる130年につなぎ世界に有為な人材を輩出
1891(明治24)年、東京農業大学の原点である私立育英黌農業科の創立は、日本が国際社会で競争力を持つには安定した農業生産が欠かせないとの榎本武揚の想いから始まりました。当時、官立(国立)の農学校が理論優先の教育を行っていたのに対し榎本は、「教育とは、セオリー(理論)とプラクティス(実践)の二者が車の両輪のように並び行われることで、初めて完全なものとなる」とし、農場実習や農家支援などの実学教育の必要性を強く唱えました。その精神を継承し、実学に裏づけられた実践的な高等教育に心血を注ぎ、大学令による大学昇格へと育てたのが、日本の近代農学の開拓者であり初代学長の横井時敬です。建学の精神を表した「人物を畑に還す」や、「稲のことは稲にきけ、農業のことは農民にきけ」など、横井が発した多数の言葉に込められた「実学主義」の姿勢は、今なお東京農業大学の教育・研究の根底に息づいているのです。
創立130周年を迎えた昨春就任した江口文陽第13代学長は次のように語ります。
「本学の教学と研究の基礎は、北から南まで日本各地に設置されたキャンパスとフィールドであり、それは他大学にはない〝誇るべき宝〟です。特に農場などのフィールド施設を核として、学生と教職員が〝フィールドを知り、フィールドに学び、フィールドと暮らす〟ことで多くの新発見を手に入れてきました。本学の持つフィールドを生かし、〝人物を世界に輩出する〟というビジョンこそが確固たる『農大ブランド』を構築し、強靭な組織力を持った大学になると確信しています」
「地球環境」と人々の「生活」を支える「総合農学」の教育・研究を展開
そして江口学長のもと、7つの分野の施策を推し進めています。
このうち、1つ目の施策は「総合農学」を牽引する教育・研究です。
「受験生は農学と聞くと、どのようなことを思い浮かべるでしょうか。農家の方が、畑を耕している姿でしょうか。それも間違いではないのですが、美味しいものを食べる、暖かい衣類を纏うなど、人類の身近な幸せは農学や生産学が作り上げていることをまずは知っていただきたいです。『総合農学』とは、山の頂上から海洋までのフィールドに展開される農林水産業とその関連分野、環境や生活と深く関わる領域であり、自然科学、社会科学のみならず、それら以外の幅広い分野をカバーする総合的な学問です。すなわち、私たちの日常生活と最も密接した学問であり、世界が目指すSDGs(持続可能な開発目標)に貢献しています。まさに『人間が生きるため』『生活環境をより豊かにするため』『食料問題や飢餓をなくすため』『平和な世界を創出するため』などすべての人々が何よりも先に考えなくてはならない実学分野です。『豊かな生活』『命を守る』『地球環境を守る』ための最先端科学である『総合農学』をさらに推進し、その魅力を世界中に発信することが本学の使命だと考えています。そのためにこの一年間は、学生や受験生、保護者の方など多くの人と出会い、対話をし続けてきました」(江口学長)
あらゆるフィールドで自然の変化に気付く五感を養う
2つ目の施策は、フィールド科学を重視した実学教育です。
東京農業大学は、都市に位置する東京世田谷、田園地帯の神奈川厚木、大自然の北海道オホーツクの3つのキャンパスに加え、北は網走寒冷地農場から南は宮古亜熱帯農場まで、全国に実学の拠点を擁しています。
「学生たちには机上だけでなく、フィールドに立って五感を使いながら学んでいただきたい。コロナ禍で移動が制限されたのならば、例えばベランダのプランターでも構いません。花や野菜があれば、そこには虫がいて食害や病害もあります。どこにいてもフィールドを感じる、鋭敏な心を養っていただきたいです」
学生にとって最も身近なフィールドであるキャンパスの整備も進んでいます。2020年4月には世田谷キャンパスに研究発信のハブ「NODAI Science Port」が開設しました。
さらに、3つ目の施策である「農」のある風景のキャンパスづくりについて、江口学長は説明します。
「世田谷キャンパスでは、大学の象徴である『農大の森』をさらに作り込んでいきます。野菜、果実、キノコの栽培を可能とするほか、正門には水田を作る計画があります。厚木キャンパスにおいては、学生や教職員が果樹を1年間管理し、収穫物は自由に使えるという試みを始めました。大自然の北海道オホーツクキャンパスに至っては、元から四季折々の農の風景が用意されています。そこに目を向けて、キャンパスをもっと楽しんでもらえるように学生たちの意識づけをしていきます」
「人物を畑に還す」から「人物を世界の畑に還す」へ
4つ目に掲げるのは、ブランド力発信のための即時戦略です。学長室の隣にスタジオを設け、大学が伝えたいことをすぐに動画として配信できる環境を整えました。
「本学の一番のブランドは、なんといっても学生です。学生一人ひとりの輝いている姿を映像に収め、発信していくことが本学のブランド戦略です」
そして、実学主義による総合農学の教育・研究の成果を世界に還元するための施策が、5番目の国際化の推進と、6番目のアントレプレナー教育です。
「国際化推進の大きな目標は、本学の誇る人材と治水、緑化事業などの技術を世界に発信し、植え付けていくことです。要となるのはやはり人材ですから、学内での国際化教育の強化のほか、海外研究機関、海外で活躍する卒業生との連携強化や、グローバルセンターの機能強化などを計画しています」
一方、アントレプレナー(起業家)教育では、学生が起業や就農する際の直接的な支援はもとより、企業との包括連携協定を活用した実学教育を実践。起業家としての素養を修得するためのカリキュラム改正にも着手しています。
最後の施策は、食育・栄養・メンタル・健康を強化増進する学生教育・課外活動教育です。ガストロノミーとは、料理の背景にある歴史や文化、自然の生態系などさまざまな分野について考察することをいいます。「東京農大ガストロノミー」と題し、栄養や食文化、免疫や飢餓など食をめぐる教育を充実。学生が提案したメニューを学生食堂で提供するなど、身近なところから食について考える試みも実施しています。
「大学での学びは、受動的ではなく能動的なものです。物事を知らないこと自体は、恥ずべきことではありません。知らないことを自覚し、知ろうとする好奇心が学問の面白さを生みだすのです。机上の論理だけでなく、実学から本物の知識と人格を育んでいただきたい。五感を研ぎ澄ませて得た気付きを自ら調べ、人に聞き、実験できる環境に身を置くことで、問題解決能力や壁を突破する力を養い、将来の可能性を広げていってください。東京農業大学はその部分について全面的に協力します」と江口学長は受験生にメッセージを送っています。
❶榎本武揚
1836年-1908年。江戸幕府の命により4年間オランダへ留学し、国際情勢と欧州の最新科学を学ぶ。帰国後箱館戦争を経て明治政府において逓信、文部、外務、農商務大臣を歴任し日本の発展に貢献。初代駐露公使、千島樺太交換条約の締結、帰路日本人として初めてシベリアを横断。農大精神である未知なるものにひるまず、困難に立ち向かう姿勢を「冒険は最良の師である」との言葉に残し、セオリー(理論)、プラクティス(実践)の重要性を唱え、農大の教育研究の理念を「実学主義」とした。
❷横井時敬
1860年-1927年。駒場農学校農学本科卒業、帝国大学農科大学教授。優良な稲もみを選別する「塩水選種法」を考案し、稲作収穫増に大きく貢献した。1895年、榎本武揚の招へいで東京農学校の評議員に就任。1911年、東京農業大学初代学長に就任。16年間にわたり大学を導き、実学主義に根ざした教育の基礎を築いた。