金沢工業大学が「KIT×KAJIMA 3D Printing Lab」を開所
大型3Dプリンターで「カーボンネガティブ」な構造物を製作

金沢工業大学が「KIT×KAJIMA 3D Printing Lab」を開所<br>大型3Dプリンターで「カーボンネガティブ」な構造物を製作

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地球温暖化や労働人口の減少など、現代社会が直面する課題の解決に向けて新技術への期待は大きい。金沢工業大学は二酸化炭素を吸収するコンクリートを材料に、3Dプリンターでデザイン性に優れた建造物を製作する共同研究を開始。大学と企業が互いの強みを融合させて、技術革新と社会実装を目指している。

建 学の綱領の一つに「雄大な産学協同」を掲げ、企業との共同研究へ積極的に取り組む金沢工業大学(KIT)。2022年4月からは、土木建設の分野で幅広い知見を有する鹿島建設株式会社との間で、セメント材料を用いた3Dプリンティング技術に関する共同研究を開始。研究の拠点として、KITのやつかほリサーチキャンパス内に「KIT×KAJIMA 3D Printing Lab」を開所した。

鹿島建設では数多くのKIT。の卒業生が第一線で活躍中だ。両者の間では22年度から「KITコーオプ教育プログラム(※)」が開始され、建設業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)と脱炭素を推進する人材育成に協力して取り組んでいる。共同研究も盛んに行われてきた。こうした深い関係性を背景に今回のプロジェクトがスタート。多様な3Dプリント技術を開発してきた「KITの経験と実績」と、「鹿島建設の業界随一のコンクリート技術」という両者の強みを生かす形での共同研究の実施が決まった。

同ラボには全長約4メートルのロボットアーム式3Dプリンターを設置。アームの先端からセメント材料を吐出し、積層を重ねることで、ロボットによる自動での部材製作が可能だ。

共同研究にはKITや鹿島建設の研究者に加え、土木、建築、機械、ロボティクス、応用化学など、さまざまな専門を持つ学生が複数の研究室から参加している。学生同士が分野を越えて意見を交わしながら研究が進められており、研究開始からわずか2カ月で早くも大きな成果を出している(下記参照)。同ラボの所長である宮里心一教授は、学生が研究における「戦力」であることを強調する。

「本学は社会実装を通した教育研究に取り組んでおり、本研究にも学生が全面的に参加しています。何に対しても『やればできる』と思っている『新しい探求者』である彼ら・彼女らだからこそ、驚くべき成果を短期間で出せたのだと思います。失敗が許される学生時代に多くの経験をして、良い技術者へと育っていってほしいですね」

3Dプリンティング技術は近年飛躍的な発展を見せており、建設分野では住宅や歩道橋などへの応用が期待される。この技術が実用化され、図面作成から部材製作までの一連の作業がデジタルで完結できるようになれば、「型枠組み立て」「コンクリート流し込み」などの人手がかかる従来工法の自動化が可能に。業界の課題である技能労働者不足や生産性向上に向けた解決策として期待されている。

高度成長期に作られた日本のインフラは老朽化が進む。メンテナンスが必要なものも多く、劣化具合など各現場の状況に沿った対応が必要となる。将来的には、AIによる画像診断と3Dプリント技術を組み合わせることで、こうした作業の効率化も目指している。

学生が大きく貢献した成果物を紹介する宮里心一教授

CO2を吸収する材料で構造物を地球に優しく

3Dプリンティングの材料には鹿島建設らが開発した環境配慮型コンクリート「CO2-SUICOM®」を使用。カーボンニュートラルの実現を同時に目指す研究となっている。

一般的なコンクリート製品は、製造時に1立方メートルあたり288キログラムの二酸化炭素を排出する。それに対しCO2-SUICOM®は、技術革新により二酸化炭素を資源として活用することに成功。「セメントの他材料への置換」と「コンクリートの炭酸化」により1立方メートルあたり306キログラムのCO2を削減・吸収し、製造時に実質ゼロ以下マイナス18キログラムを実現している。ちなみに、高さ20メートルの杉の木が一年間に吸収するのは14キログラムだ。

二酸化炭素は主にコンクリートの表面から吸収される。3Dプリンターではコンクリートを少しずつ積み重ねながら形を作るので、表面積が大きく、複雑な形状をした資材を作るのも比較的容易。素材と技術の相性は抜群だ。

コンクリートは地球上で水に次いで使用量が多い材料なので、作れば作るほど地球環境への負荷を低減する「カーボンネガティブ」な材料を用いることによる波及効果は非常に大きい。二酸化炭素を資源として捉え直すことで、グリーンイノベーションを実現する一つの事例といえよう。

KITは技術の社会実装にも力を入れており、今回の共同研究でもその姿勢は変わらない。3Dプリンティングの普及のためには技術の認知度向上が必要との考えから、北陸地方の近隣自治体との「産官学の連携」を模索。開発した技術を用いて、公園に置けるベンチや、観光資源となりうるユニークなアートなどの造形物を製作する予定で、23年度中に実際の成果物を公共の場に設置することを目標としている。

基礎技術の開発など「シーズ」の研究から、実際の社会に実装する「ニーズ」を満たす部分まで一貫して取り組むのが本プロジェクトの一番の特徴。さまざまな専門を持つ研究者と学生の融合による、地球環境に優しい新たな技術の誕生に期待したい。
 

最先端の研究に推進力をもたらす学生のトライ・アンド・エラー

研究に携わる学生たち。報道機関向けの開所式では参加者へ研究内容を紹介した。左から、工学部環境土木工学科4年の森田登成さん(南砺福野高校)、同4年の池田響さん(加茂高校)、大学院工学研究科機械工学専攻1年の松本渉さん(金沢伏見高校)。カッコ内は出身高校。

金沢工業大学は「KITコーオプ教育プログラム」へ積極的に取り組むなど、数々の産学協働の取り組みを教育の場と位置づけている。今回の共同研究にも、複数の研究室から学生が全面的に参加。学生、教員、企業研究者といった多様なバックグラウンドを持つ人々の知が融合することで、新たなイノベーションの創出を目指している。研究は始まったばかりだが、2カ月という短期間で、すでに学生による大きな「改善」が実現したという。

セメント系の3Dプリンターが難しいのは、材料が柔らかすぎると崩れてしまって形が作れない一方、固すぎるとノズルから材料を押し出すことができない点。時間が経つにつれ固まっていく材料を用いるので、吐出に適した状態を保つ工夫も必要となる。研究に参加する学生は、「材料であるモルタルを練ってからの時間が限られており、30分も経つとポンプへ送るのが難しくなってしまう。材料と機械のチームでタイミングを合わせ、途中で中断することのないように連携して取り組むのが大切」と話す。

最初は材料をスムーズに出すのすら難しく、途中で千切れてしまうことも多かった。デジタルでのシミュレーション技術が発達したとはいえ、こうした部分の課題解決はアナログでのトライ・アンド・エラーも重要になる。

「モルタル自体が基準値を満たしていても、ポンプに送る途中で固まってしまうこともあります。送る時に柔らかい状態を保つために、絶えず手動で振動を与えるよう工夫して、ようやく上手くいきました。作品は一つですが、完成までには何十回ものチャレンジがありました。失敗を恐れずにチャレンジし続けることが大事だと思います」(学生談)

最先端の研究に関わる機会が学部生時代から豊富に用意される金沢工業大学。主体的な挑戦を通して成長を続ける学生の力が、研究の推進力となっている。

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