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移り変わる世の動きに合わせるように、大学市場はめまぐるしく姿を変えてきた。女子大もまた例外ではなくその変化はトレンドの学部学科や実学志向の学びだけではなく時に共学化にまで及んだ。今年で創立57年目を迎える伝統を誇る白百合女子大学は、この変革の時代をどう捉えているのだろうか。髙山貞美学長にお話をうかがった。
学長
髙山貞美
教皇庁立グレゴリアン大学大学院神学博士課程修了(神学博士)。上智社会福祉専門学校校長、上智大学神学部教授を経て、2020年上智大学名誉教授。同年4月より白百合女子大学学長に就任。専門はキリスト教人間学、比較宗教学。
現代だからこそ必要な人文学的感性と共感力
一般的に女子大学は共学と比較して規模が小さく、少人数制教育を実践しているところが多い。そのため「面倒見が良い」「きめ細かなサポートで就職率も高い」と評価されることが多く、女性の高等教育の場として大きな役割を果たしてきた。いっぽうで近年の女子大学は、少子化・男女共同参画・ジェンダー平等などの影響で、共学化・実学化など大きく方向転換したところも少なくない。そんな中、改めて建学以来の伝統である人文学的な知性・感性の涵養を「技術革新の時代にこそ必要とされ活かすべきもの」として、時代のニーズとの融合を試みているのが白百合女子大学だ。髙山学長は教育の特色をこう語る。
「本学は1965年の設立以来長きに渡ってマ・スール方(シスターのフランス語)が学生の教育面・精神面で太い支柱となって学生を観察し見守ってきました。キャンパス内には思索に適した緑豊かな森が広がり、“恵まれた環境でマ・スールの愛情に包まれて過ごした4年間はかけがえのない時間だった”と懐かしむ卒業生も多いです」
キリスト教精神に基づく全人教育を実践する同大では、文学部・人間総合学部ともに4年間の宗教学(1・2年次はキリスト教学)を必修としている。また1つのキャンパスで全学部・全学年の学生が学べる環境を活かしてリベラルアーツの学際的な学びに長く取り組んできた。
「近年リベラルアーツは思考力や判断力を養う流行りの学問のように扱われることもありますが、そのような利己的な側面だけではありません。本来は自由な個として生き、固定観念や巷の情報に捉われず自ら考えて判断し、より良い社会を創造していくための学問なのです。本学のリベラルアーツは、基礎的素養や学問的作法、そして多角的な視点を身に付けるだけでなく、卒業後も自立した女性として豊かに生きて行くためのライフデザインに関わる学びを展開しているのが特長です。また在学中を通じて宗教学科目を学びますが、これも歴史や文化に対する視野を広げるとともに、超越的な存在に気づき、自分を客観視し、他者と世界に開かれることにもつながっていくと思います」
リテラシーを活かし他者と「つながる」
2022年4月からは新たに「白百合 数理・データサイエンス・AI教育プログラム」を開講し、基礎的な情報分野知識の普及にも取り組んでいる。しかしこの試みは人間性を重んじる人文学的素養があって初めて意味を成す、と髙山学長は語る。
「たとえば経済効率や利便性を追求するなら、情報分野だけを専門的に学べばいいと思います。しかしそれは本学が育成する人材像、めざしている豊かな社会ではありません。例えばデータの向こうにある購買行動の背後を読む想像力。気づきや違いを大切にできる柔軟性。情報リテラシーを教育開発や困った人のために役立てたいと考える共感力や協働力。劇的な技術革新が進むほどに、技術と多様性に富んだ豊かな社会をつなげていくための人文学的素養がますます必要になってくると考えます」
白百合が大切にしてきた人文学的な感性を重んじる学びと新しく取り入れた数理・データサイエンス・AIにまつわる素養は、ともすると対極に位置づけられがちだ。しかし他者や世の中とつながる心を大切にしつつ、必要なツールとして時代に適応したリテラシーも修得する。双方の重要性を肯定しながら融合を図る独自の方針は、むしろどこにもない柔軟で進取の気風に富んだアプローチと言える。
「現代は語学やITスキルなどすぐに成果に結びつく学びが求められがちです。しかしそれだけが本当にグローバルでイノベーティブな能力と言えるでしょうか。むしろすべての活動の源泉となる他者の困難や世界の諸問題に目を向けて心を寄せる力(コンパッション)、時代の変革や困難にも折れずに適応して立ち直れる力(レジリエンス)、タイムリーに必要な行動が取れる機敏性(アジリティ)。本学ではこうした普遍的な力を育んだ上で、そこに時代に必要なリテラシーを融合していきたいと考えます。かつて海を渡って神様の愛を伝えに来た修道女のように、時代が変わっても恐れずに他者とつながり、共に幸せになれる道を見出し、勇気をもって必要な行動を取る。そんな“つながる力・つなげる力”を持つ女性を次世代に向けて育成していきたいですね」