ポストコロナ時代に向けたオンライン授業で進化した伝統の少人数教育-フェリス女学院大学

ポストコロナ時代に向けたオンライン授業で進化した伝統の少人数教育-フェリス女学院大学

未曾有のコロナ禍でどの大学も試行錯誤を重ねた2020年。そんな中、小規模大学のフットワークの良さを活かしたさまざまな施策で学生の要望に応えてきたのがフェリス女学院大学だ。いかに学生の生活を守りながら、伝統あるフェリスの学びを維持してきたのか。この1年のフェリスの歩みとこれからの展望について、荒井 真学長にお話をうかがった。

フェリス女学院大学学長
荒井 真(Makoto Arai)
上智大学法学部法律学科卒業。上智大学大学院法学研究科修了。
国際交流学部教授を経て学長。専門は比較法、ヨーロッパ法史、ヨーロッパ大学史。

アウトリーチ型学生支援と迅速な短期奨学金の設立

―荒井先生はコロナ禍が本格化した2020年4月、学長に就任されました。どのような舵取りで対策を進めてきたのでしょうか?

直前の3月に学内で新型コロナウイルス感染症対策本部会議を立ち上げて本部長に就任後、卒業式と入学式を中止して前期授業をオンラインで行うことを決定しました。当時はこのウイルスについて未知の部分が多かったので、学生と教職員の健康を最優先しつつ、フェリス生の学修機会を最大限確保するためです。しかし授業を遠隔で行うというのは初めての試みで、多少の準備期間が必要でした。

まず学生にアンケートを取りWi-Fi環境やPCの所有等について調査し、ルーター・PC・ヘッドセットなどオンライン授業で必要な機器の無償貸出を行いました。なるべく学生の学びを止めないよう必要なインフラを準備するのと並行して、教員にはソフトの講習会を何度も実施し、4月22日に遠隔授業をスタートすることができました。

その後も学生へのアンケートを行って問題点や足りないものをヒアリングして、コンビニのプリントサービス締結など解決策をその都度講じました。ただ、本学には音楽学部などオンラインでは十分な学修効果を上げられない、あるいは大学の施設を使わないと履修できない授業が存在します。それらについては十分な感染対策を取った上で例外的に対面授業を認めました。現在は対面とリモートのハイブリッドで授業を実施しています。

―かなり細やかに学修支援に取り組んできたことがわかります。そのいっぽうで、大学からは見えづらい生活面はどう対策したのでしょうか。

長期にわたる自粛要請の影響でアルバイトができなくなり収入源を絶たれたという学生が大勢いたため、経済支援も不可欠だと判断しました。学業優秀者を対象とした給付型奨学金もありますが、それとは別により多くの学生の生活を守るために新たに設けたのが1人につき月額上限5万円を貸し出す「フェリス女学院短期奨学金」です。この金額は、アルバイトの平均的収入が月額5万円程度というアンケート結果で設定しました。希望者は全員利用できて無利子、当面の返済が難しい場合は卒業後15年以内の返済とするなど、できるだけ利用のハードルを下げて大勢の学生に行き渡るようにしています。

また学生課では日本学生支援機構の貸与型奨学金、および給付型の「高等教育の修学支援新制度」の申請支援を行っています。

―学業と生活の両面から学生をサポートしてきたのですね。これらの対策を経て1年が経過しましたが、どんな手応えがありましたか?

そうですね、困難な状況が続きましたが、結果として例年より退学者は減少しました。家計が苦しいと退学を相談してくる学生を「奨学金はすぐに返済しなくてもいいので、大学を卒業して職に就いたほうがいい」と引き止めたこともありますね。短期奨学金を誰でも利用でき長期間で返済可能な設計にしたのは、そういう背景によるものです。

あとはゼミやクラスの担当教員が、一人一人の学生とこまめにコンタクトを取って気にかけてくれました。これによって学生の不安もずいぶん和らいだようです。小規模大学ならではの学生と教員間の敷居の低さが奏功したと思います。

コロナ禍で進化した伝統の語学教育

―フェリス女学院大学は英語を中心とした伝統ある語学教育で知られています。授業のオンライン化で語学教育にはどのような変化があったのでしょうか。

本学では英語の他に初習外国語としてフランス語・ドイツ語・スペイン語・中国語・朝鮮語などを学べるようになっています。オンライン授業のための講習会も、ネイティブの教員向けに各言語で行ってきたので、技術的な面はかなりサポートが行き渡ったと思います。

授業はGoogle ClassroomやZoomを利用しながら、なるべく双方向のやり取りを行う環境を整えています。例えば少人数に分かれたグループワークを教員が巡回することもできますし、映像資料なども容易に共有できますね。またライティングのクラスでは黒板で行ってきたブレインストーミングを、20人くらいの学生が同じ画面にアイデアを書き込む形で再現するなど、先生によっていろんな機能を使いながら従来の学びを発展させているようです。

―新しい授業形態になったことで、むしろさまざまな進化が起きたのですね。学生側も慣れるのは大変だったと思いますが、どんな反応がありましたか?

「教室にいないぶん緊張しないで質問できた」「これまでより授業中にたくさん発言できた」という声が多く見られました。リラックスした環境で授業に臨めることで、普段は控えめな学生も積極的に授業に参加しやすくなったのだと思います。またこれまで紙で行っていた小テストなどもオンラインテストにして、最後に何でも書き込めるコメント欄を設けたら、たくさん感想や質問が寄せられるようになったそうです。もちろんこれまでも個別の質問などはありましたが、積極的な一部の学生だけではなく、より多くの学生と教員の間にやり取りが生まれているのは大変うれしい変化ですね。

ほかにも文法の解説や例文紹介などを板書する代わりに、PowerPointで資料を作成して授業に用いた先生もたくさんいました。「手書きの板書より読みやすい」と学生から好評で、対面授業になってもPowerPointを使用している先生が多いですね。高い教育効果を上げていると聞いています。

―英語を中心に、語学教育全体のカリキュラムが見直されるそうですね。

はい、時代のニーズに合わせて大学の語学教育も見直しが必要だと、数年かけて改革に取り組んできました。英語については「英語のLearnerからUserへ」をコンセプトに、インテンシブコースのカリキュラムを刷新しています。具体的に言うとスピーキングやリスニングといった個々の技能スキルを高めるだけではなく、より実際に使用する場面を想定した英語運用能力の養成を目指しています。

例えばさらに新しく加わったクラスに「プロジェクト」というクラスがあります。フェリスの少人数教育の利点を活かし、学生がグループごとに共通のテーマについてプロジェクトを行って、その成果をしっかり外国語で発表することを軸にしています。これからは学生が国際社会に出て行く際には英語力だけではなく、企画力・分析力・問題解決能力などが問われます。外国語学習と共に今後はこうした力を育てていきたいですし、これこそが大学ならではの語学教育の新しい形ではないかと考えています。

―英語以外の言語ではどのような変化があるのでしょうか?

初習外国語教育においても同様に、従来の読む・書く・話す・聞くだけでなく実際に使用して総合的に学ぶための授業を本年度から始めました。現在フェリスで初習外国語に携わる教員のほとんどが、言語のスペシャリストというよりも歴史や文化、政治経済、環境など専門の研究を行っています。「総合」のクラスではただの言語学習にとどまらず、その言語で先生が関わる専門分野をテーマに結びつけるアプローチで学びを展開しています。例えば、政治が専門の先生が担当するフランス語のクラスでは、マクロン大統領の演説を聞いたり、ル・モンド紙など現地の新聞を読んで時事問題からフランス社会を考察する授業が行われています。あとは横浜というキャンパスの立地を活かして横浜の観光案内のパンフレットをスペイン語で作成したり、中国語の先生が中華街や中華料理を通じて食・文化・歴史を学ぶなど、ほかにも各言語でバラエティ豊かな取り組みでアクティブラーニング形式の授業を展開しています。

時差を乗り越え活発化、オンライン国際交流

―コロナ禍の影響で多くの学生が留学に行けない状況が続いていますが、それについて何か取り組んでいることがあれば教えてください。

現在、世界的に留学は厳しい状況が続いています。しかし本学の国際センターでは、昨年特設サイトを立ち上げ、安全情報や危機管理情報を発信したりさまざまな国際交流イベントを企画したりしました。現在、オンラインを活用して海外の人びとと交流することへの期待は高まっています。フェリス女学院はアメリカ、カナダ、イギリスなど英語圏はもちろん、フランス、ドイツ、スペイン、中国、韓国、インドネシア、スロバキアなど世界各国に海外協定校のネットワークがあり、各大学や留学生との交流会やディスカッション、留学説明会などがオンラインで活発に行われています。

また2020年度後期以降は外務省や海外の在外公館の協力も得て、講演会や留学準備に役立つ講座など企画しています。7〜8時間の時差であればいろいろなオンライン企画が実現できるので、学生のみならず教職員も大いに学んでいます。留学ができない状況は残念ですが、これを機に本来であれば留学を考えていなかった、予定していなかった学生にも海外と接点を持つ機会を増やしてもらうべく、さまざまな計画が進行中です。

―近年はコロナ禍の影響もあり受験生が安定志向・地元志向になっています。最後に全国の受験生に向けてメッセージをお願いします。

フェリス女学院は2020年に創立150周年を迎えました。その歴史で語学教育と同様に大切にしてきたのがリベラルアーツ、つまり教養教育です。実学重視の日本においてはあまり役に立たないと見られがちでしたが、卒業生にアンケートをとると「大学時代に培った教養や知識が仕事で非常に役に立った」という声が非常に多く寄せられるのです。変革を続ける時代や社会の中で、自分はどう生きていけばいいのか、何が人間の幸福なのかが、先行きが見えない時代に生きる私たちには問われていますし、そのために求められているのが教養なのです。たしかに内向きにならざるを得ない状況かもしれません。しかし今回のコロナ禍で実感した人も多いと思いますが、私たちが日々直面している問題は地方や日本だけでなく世界中とつながっていて、国際社会全体で解決していかなければならないのです。私たち大学が最大限の努力でサポートしますので、ぜひ目を背けずに広い世界に関心を向けて挑戦を続けていってほしいと思います。

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