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文理14学部を有し、関西屈指の私立総合大学である関西学院大学。2039年に迎える創立150周年という大きな節目の年を視野に入れ、同学では近年、ダイナミックな改革を進めてきた。
2020年からはコロナ禍の影響で、大学を取り巻く社会環境も大きく変化している。このような状況のなかで、同学は何に注力し、どのような未来を見据えるのか。これまでの取り組みを振り返りつつ、村田治学長に話を聞いた。
関西学院大学学長
村田 治(むらた おさむ)
関西学院大学を卒業し、1985年より同大学経済学部で助手・専任講師・助教授を務めたのち、1996年に教授就任。
教務部長、経済学部長、高等教育推進センター長を歴任。2014年4月に学長就任。2017年より中央教育審議会委員。
あしなが育英会の副会長やチャンス・フォー・チルドレンのアドバイザーも務める。
―新型コロナウイルスの影響は長引いています。現在、学生へはどのような支援を行っているのでしょうか。対面授業への切り替えなど、今後の見通しはどのようにお考えでしょうか。
学びの環境を支える方策としては、パソコンとWi-Fiの無料貸与を行っています。また、コンビニエンスストアなどで利用できるネットプリントサービスの補助も行っています。経済面での支援としては、本学独自のヘックス型奨学金をはじめとした、各種の奨学金制度を設けています。これらは昨年度から継続した支援です。
感染の拡大状況や国の方針などによって左右される部分は大きいですが、本学としては、授業は可能な限り対面で行うことを基本方針としています。とはいえ、昨年度以降のオンライン授業の導入によって、オンラインならではのメリットもわかってきました。対面を基本としながら、オンラインも組み合わせてより良い教育を提供するという「ハイブリッド型」になることが、今後の可能性のひとつだと考えています。もちろん、どこまでをオンラインにするか、どのように組み合わせるかという議論は、今後も深めていく必要があります。
――神戸三田キャンパス(KSC)では2021年4月に理系4学部が開設されたほか、総合政策学部もカリキュラムのリニューアルを行いました。KSC再編の手応えをどのように感じておられるでしょうか。
非常に大きな手応えを感じています。
KSCでは、SDGsをキャンパス全体での学びや研究のテーマにしています。それをさっそく実践してくれたのが、学生団体「CAMP×US」によるマイボトルの取り組みです。アウトドアのトップブランドの株式会社スノーピークと共同で開発した本学オリジナルのマイボトルは、KSCに在籍する1年生のうちすでに7割が所有しています。この普及を後押ししたのが、企業と学生との出会いの場を創出しながら、飲み物を無料で提供する「BiZCAFE」の仕組みです。株式会社エンリッションとの連携で生まれたBiZCAFEにより、キャンパス内で消費されるペットボトルを約10万本削減し、サステナブルなキャンパスを実現するという取り組みは大きく加速しました。
KSCは、サステナブルエナジーの一大研究拠点となることを目指しています。その具体的な取り組みの1つとして、工学部の金子忠昭教授は「SiCウエハの平坦表面処理技術」を完成させました。この技術は、SiCデバイスの実用化を加速させ、自動車や機器の省エネ化を可能にするものです。
KSCで開講されている、アントレプレナー育成に向けた授業も順調な滑り出しを見せています。200名ほどの受講生がいるのですが、その約6割は理系の学生です。KSCでは文系・理系という枠を取り払い、起業家マインドを持った理系人材の育成に努めています。本学にはIT分野で起業している卒業生も多数おり、そういった人たちが講師を務めてくれる授業でもあります。この取り組みを通して、イノベーションを起こす学生が育ってくれるものと期待しています。
―KSCにおける中長期的な展望についてお教えください。
2022年度中の完成に向けて、新棟を建設中です。新棟には事務機能を集約して学生の利便性を向上させるほか、天体望遠鏡を設置します。本学の理学部は物理・宇宙学科を有しており、天体望遠鏡の設置によって学びと研究がさらに活発化するものと期待しています。KSCのある三田市は空気が澄んでいて天体観測には適した場所であることも、研究を後押しするでしょう。
インキュベーション施設と学生寮を合わせた複合施設の整備も計画しています。これは兵庫県および三田市と連携した事業です。施設内では、起業家と学生との交流も生まれるでしょうし、本学学生が事業を立ち上げてインキュベーション施設に入居することもあるでしょう。もちろん、地元企業や地域住民と学生が交流するという場面も生まれるはずです。それらの機会を通して、兵庫県や三田市の課題解決に挑む起業家を育てていきたいと考えています。
本学の建物は、明治から昭和にかけて活躍し、日本の建築史に名を刻むウイリアム・メレル・ヴォーリズの手によるものです。ヴォーリズ建築は、本学の宝であると同時に、国の宝とも言えます。建築学部の開設を機にこの貴重な宝に関する資料を収集し、研究を行っていくことを目的として、建築学部内に「ヴォーリズ研究センター(仮称)」を立ち上げます。研究にあたっては、ヴォーリズ建築の設計図を保管する株式会社一粒社ヴォーリズ建築事務所との連携を予定しています。
―2019年度から始まった「AI活用人材育成プログラム」が、大きな反響を呼んでいます。
初年度春学期は入門編を定員240人でスタートしたところ、800人の受講希望がありました。そこで2年目には定員を450人に拡大。しかし受講希望者は1100人に上りました。このような状況を受け、学生の「学びたい」という声に応えるべく3年目である今年度からは、3科目をeラーニング化しました。これにより、2100人に及んだ受講希望者全員が学ぶことのできる環境となりました。
受講生に占める文系学生の割合は非常に高いです。これには驚くと同時に、非常に嬉しく思っています。なぜなら、文系・理系の垣根なくAIを学ぶことの重要性へ、理解が浸透しているからです。学生のなかには、このプログラムを受講したいから本学へ入学したという人もいるぐらいです。また、今年夏にはプログラムを構成する10科目すべてを修了した学生も誕生しました。プログラムの最終段階では、企業が抱える実際の課題に対してAIを使って解決策を提案するという、ハイレベルかつ実践的な科目に挑みます。この経験を通して、技術や知識を身につけると同時に、アントレプレナー精神を養ってくれたことでしょう。
本プログラムは、企業や自治体職員の研修教材としての提供も開始しました。兵庫県と連携し、県下の中小企業の社員が本プログラムを受講する際は、県が費用の補助を行うという仕組みの導入も進めています。国が定めたAI戦略では、学生は年間50万人、社会人は年間100万人が、AIについて学ぶ必要があると提言しています。本プログラムは、この提言を実現するための一翼を担う存在になると考えています。eラーニング化や県との連携も、AI活用人材をさらにハイペースで育成していくための方策です。
―西宮上ケ原キャンパスと西宮聖和キャンパスでもカリキュラムのリニューアルが進められています。
商学部では、AI活用人材育成プログラムをはじめとして、AIやデータサイエンスをふんだんに取り入れた学びを展開していきます。経済学部でもAI・データサイエンスは重要なテーマです。
AI・データサイエンスは、それらを単体で理解しているだけでは十分ではありません。「ドメイン」という言葉がしばしば使われるように、「どの領域(ドメイン)でAI・データサイエンスを活用するか」が重要です。すなわち、商学や経済学という専門領域をしっかりと理解し、それぞれの領域に応じたAI・データサイエンスの活かし方を学んでいく。これが、両学部におけるカリキュラムリニューアルの考え方です。
法学部では、法律学科と政治学科という2つの学科を横断して学ぶことができる5つのコースを設けます。そのなかでも特修コースは、学部と法科大学院を合わせた一貫型カリキュラムを設定。5年間で司法試験に合格することを目指し、法曹・企業法務・公務のスペシャリストを育成します。
教育学部では中・高一種免許(英語)が取得できる課程を新設しました。また、小学校教員免許と中高英語科、または中高社会科・高校地歴科公民科の免許との併有を可能にする教育課程を整備。さらに、国際理解、海外ボランティア実習、世界の幼児教育、第二言語習得などを幅広く学べる、「国際共生科目」を設置しました。
―2021年の実就職実績も、卒業生数5000人以上の大学で1位となりました。コロナ禍においても高い就職実績を誇る理由を、どのようにお考えでしょうか。
以前から注力していた2つのことが、コロナ禍において図らずとも力を発揮しました。
1つはwebを使った広報です。2021年4月の理系4学部新設に際しては、当初から広報活動の軸足をwebに置いていました。ここで得たノウハウなどが、コロナ禍における非対面での情報伝達などに活かされました。
もう1つはAIの導入です。具体的には、キャリア支援における、学生から寄せられる質問に対してチャットボットで自動回答するという仕組みです。従来は対面で行われていた相談や質問への対応が、この仕組みにより、コロナ禍以前からオンラインに置き換わっていました。また、多くの学生に共通する疑問や不安はチャットボットが回答し、職員は学生1人ひとりの個別対応に注力するという役割分担が出来上がりつつありました。これらの結果、「顔を合わせないから十分な支援ができない」という混乱が起こることなく、コロナ禍においてもきめ細かな学生支援ができました。
キャリアセンターの職員をはじめ、本学全体の教職員の努力の賜物として私が大変誇りに思っているのが、進路把握率の高さです。本学では毎年、進路把握率は約98%に及びます。本学規模の大学でこの数字は驚異的と言えるのではないでしょうか。進路把握率とは、学生と教職員との関係性の深さを示します。そして、学生1人ひとりを大切にする大学全体の姿勢を示します。これらのことが、実就職率1位という結果を生み出していると考えています。また、客観的な調査結果ではありませんが、本学学生の「就職満足度」はトップクラスだと自負しています。学生に寄り添い、教職員が一丸となって学生のより良い将来を考える姿勢が、満足度の高い就職を支えています。
―入試制度の改革も積極的に進めています。そこに込められた思いをお教えください。
近年、一般入試の枠を広げ、今年度の合格者は昨年度より2800人増えました。そこには、受験勉強を最後まで頑張る人たちの思いに応えたいという狙いがあります。総合選抜型入試などの各種入試では、名称の変更や試験の統合などを行い、よりわかりやすい制度にしました。入学手続きの締切日を変更し、国公立大学をはじめとした他大学との検討をしやすくするという改革も行いました。
これらに共通するのは、受験生目線で考え、受験生にとってより良い制度にしようという思いです。コロナ禍以前からこの考え方に基づいて進めていた取り組みが受験生や高校の先生方、保護者のみなさんに理解・評価されていたことが、コロナ禍においても受験者数が増加するという結果につながったと考えています。
―2014年に学長に就任され、現在、3期目を迎えています。さまざまな改革が同時進行で進んでいる一方、18歳人口の減少やコロナ禍など、外部環境は厳しさを増しています。今後、関西学院大学全体としてどのような点に注力していくのでしょうか。
1期目はスーパーグローバル大学(SGU)の推進に注力しました。そのなかで掲げた目標の1つが、本学から海外へ派遣する留学生の人数を日本一にしようというものです。当時は5位ぐらいでしたから、非常に高い目標だったと言えます。それが2期目の2018年度に、海外協定大学への留学者数で日本一を達成しました。この成果は、大学全体で非常に大きな自信になりました。またこの過程で、学部を巻き込んだ改革が進んだことは、その後の大きな財産になりました。
2018年には、創立150周年の年である2039年を見据えた長期戦略「Kwansei Grand Challenge 2039」を策定しました(※)。現在もこれに基づく改革が行われているのですが、計画は3年ごとに見直しを行っています。策定時には想定されていなかったコロナ禍が起こり、それによってSociety 5.0やDXが一気に目の前にやって来ました。そういった変化に機敏に対応し、時代に即した改革を積み重ねながら2039年へ進んでいきます。
※Kwansei Grand Challenge 2039
創立150周年を迎える2039年を見据えた、超長期ビジョンと長期戦略からなる将来構想のこと。2018年度に策定された。超長期ビジョンは、2039年の関西学院のありたい姿・あるべき姿を示している。この構想に基づき、中期総合経営計画が策定されている。
今後の大学、特に私立大学にとって、職員の能力は極めて大切な要素になると私は考えています。高い生産性を備えた職員を育成し、彼ら・彼女らが中心になって改革を進めて行く必要があります。それはすなわち、「職員が大学を背負っていく」時代になるとも言えるでしょう。すでに若手職員に対してITパスポートの取得を推奨しており、業務に役立つ資格を取得した際には報奨金を支給する制度を導入しています。このように、情報化の推進、仕事の効率化、人材の育成という3つを一体化させて改革を行っています。
今、「大学のあり方」が問われていると私は考えています。単なる知識の提供であるなら、それは大学ではなく検索エンジンで十分でしょう。AIがますます進化すれば、その機能は完全に取って代わられてしまいます。しかしコロナ禍によって、学生と教員、あるいは学生同士が対話し、意見をぶつけ合うことで自分なりの新たな価値観を築いていくことこそが大学の存在意義だということが浮き彫りになりました。コンピテンシー、すなわち人間が人間との関係の中でしか身に付けられない知識・能力・資質を磨くのが大学です。
この考えに基づくと、今までとはまた違った意味での教員の質が重要になります。今後の大学教員は、研究さえしていればいいというわけにはいきません。学生のコンピテンシーを磨く指導、価値観の確立に導くことができるような教育が求められます。そこで2021年4月からは、本学に着任する教員に対して、授業の仕方やコンピテンシーを身につけるための学生との対話の仕方などについて学ぶ研修を導入しました。現在は15時間のカリキュラムですが、来年度以降はさらに拡充していく計画です。
コンピテンシーを磨くという点では、クラブ活動やボランティア活動など、学生が自主的に行っている課外活動も大きな役割を果たしています。そこで、課外活動の1つである体育会の活動を大学教育の一環として正課外教育と位置付け、活動を支援するための「競技スポーツ局」を2021年4月に創設しました。競技スポーツ局では、クラブ活動がこれまでにも増してチームワークやリーダーシップ、問題発見・解決能力などを身に付けられる教育的価値の高い活動となるよう、プログラムを再構築していきます。
―最後に、高校の先生方、そして高校生のみなさんにメッセージをお願いします。
長引くコロナ禍の影響で、思うに任せない高校時代を過ごしている人も多いことでしょう。しかし、必ず夜は明けます。そのとき、どのような社会になっていればいいでしょうか。今と比較して、どのように変わっていればいいでしょうか。このようなことを考えるのは、人間だけに与えられた力です。ぜひみなさんも、「コロナ後の社会」を考えてみてください。
いわゆる「Z世代」と呼ばれる現在の高校生や大学生は、それ以前の世代とは違ったすばらしい価値観を持っていると私は感じています。例えば、アイドルのような作り上げられた偶像ではなく、等身大で生身の存在に憧れや共感を持つ人が多いでしょう。新聞やテレビといった権威・権力が言うからといってやみくもに信じず、身近な人や信頼できる人、そして自分の考えを大切にします。大企業で働くことより、自分らしく働くこと、やりがいを感じながら仕事をすることに重きを置く人も少なくありません。このような、既存の価値観にとらわれないみなさんの考え方や姿勢こそが、日本の社会を変えていくと私は信じています。みなさんにはぜひ、理想を追い求めてほしいと思います。
理想を追求し、実現するには勉強しなければなりません。それは受験勉強やテストでいい点数を取るための勉強という意味ではなく、理想の実現に必要な知識や技術を吸収するための勉強です。この点において、本学はすばらしい環境が整っていると胸を張って言うことができます。権威・権力におもねることなく、より良い社会の実現のために行動したいという考えは、本学のキリスト教主義の教育やスクールモットーである「Mastery for Service(奉仕のための練達)」にマッチするものです。みなさんとともに学び、みなさんが新しい社会をつくるイノベーターとして羽ばたいていくことを楽しみにしています。
Kwansei コンピテンシー
関西学院大学では、使命である「“Mastery for Service”を体現する世界市民の育成」に向けて、すべての学生が卒業時に身に付けるべき知識・能力・資質を10項目からなる「Kwanseiコンピテンシー」として定めています。Kwanseiコンピテンシーは学部の区別なく大学の教育に通底するものとして位置づけられています。また、各学部の教育課程やそれを補完する全学科目などの「正課教育」だけでなく、クラブでのスポーツ・文化・芸術活動、ボランティア活動、寮生活などの「正課外教育」、さらには友人関係、教員・職員との交流、キャンパスの豊かな自然も含めた大学の多様な「環境」によっても育まれるものとしています。