人文系や社会科学系、学際系―。グローバル人材はあらゆる分野で求められており、新型コロナウイルス禍でもグローバル系学部の人材育成に対する期待値は下がらない。多様なグローバル系学部の中から適した学部を選ぶポイントについて、入学時に求められる語学力や留学制度などとともに見ていこう。
徐々に再開し始めている海外留学
「グローバル化は向こうからやってくる。グローバル化が無関係と言える人はいない」こう話すのは、グローバル系トップ大学の学長経験者。新型コロナウイルス禍にある今は国境を越えた人の流れが制限され、グローバル化は停滞している。しかし、コロナ禍以降の世界はグローバル化が加速化することは間違いなく、アフターコロナの時代に対応できる、グローバル人材の養成が求められている。
実際、欧米におけるワクチン接種が進んだこともあり、昨年まで主流だったオンライン留学から、海外留学へと徐々に移行し始めている。慶應義塾大や上智大、明治大、立教大、龍谷大、近畿大、関西学院大など、渡航先の感染症危険情報レベルやワクチン接種など一定の条件をクリアした学生の海外留学を認める大学がでてきた(表A)。
21年入試では、留学ができないなどのネガティブな理由から、グローバル系学部の人気が下がったが、海外留学が進む中で、再び注目度が高まる可能性が高い。
多様なグローバル系は学部内容の十分な精査が求められる
多様なグローバル系学部の中から生徒に適した学部を選ぶのは意外に難しい。専門分野が多岐にわたっており、学部名だけで教学内容を判断しにくいケースが多いからだ。そこで、表B「主な国際・外国語系学部」では、「人文学系」「人文・社会科学系」「学際系」に分類してそれぞれの主な学部を掲載した。
「人文学系」は、国公立大では東京外国語大や大阪大。私立大では、獨協大や上智大、拓殖大、神奈川大、岐阜聖徳学園大、名古屋外国語大、京都外国語大、西南学院大、熊本学園大など、外国語学部が中心となっている。語学力を全面に打ち出したグローバル人材の養成が大きな特徴で、教学内容が比較的わかりやすい系統といえよう。
「人文・社会科学系」を見ると、国公立大では、筑波大の社会・国際、宇都宮大・国際、東京外国語大の国際社会と国際日本、新潟県立大・国際地域など。私立大を東日本から見ると、青山学院大の国際政治経済と地球社会共生、学習院大・国際社会科、上智大の総合グローバルと国際教養、昭和女子大・グローバルビジネス、中央大・国際経営、武蔵大・国際教養など。西日本では、愛知大の現代中国と国際コミュニケーション、南山大・国際教養、京都橘大・国際英語、立命館大の国際関係とグローバル教養、龍谷大・国際、追手門学院大・国際、近畿大・国際、関西学院大・国際、立命館アジア太平洋大学(APU)のアジア太平洋と国際経営などがある。
これらの学部のうち、22年に開設する武蔵大・国際教養の経済経営学専攻は、日本にいながら武蔵大とロンドン大の学位が取得できる「パラレル・ディグリー・プログラム」があり、既存の立命館大・グローバル教養は、全員が立命館大とオーストラリア国立大の学位取得を目指すなど、海外大学と自大学の複数の学位を取得できる学部もあるので、生徒の希望に応じた指導をしたい。
「学際系」は、カバーする分野が広く、文系と理系はもちろん、大学によっては芸術系までフォローする学部もある。この系統の草分け的な存在は国際基督教大。単科大学ながら30を超えるメジャー(専修分野)があり、多様な科目を履修し関心がある分野を見極めた上、3年次になる前の段階でメジャーを選択する。その際、一つのメジャーに絞るほかに、二つのメジャーを同じ比率で履修するダブルメジャー、比率を変えて履修するメジャー・マイナーの3種類の選択方法がある。この系統を持つ私立大には、中央大・国際情報や早稲田大・国際教養などがある。
国立大では、千葉大に文理融合型で留学を重視する国際教養がある。同大は、20年度の入学者から、全学部生の留学を必須としている(第1〜3タームのプログラムは全て中止(表A))。神戸大・国際人間科は、グローバル社会で起こりうる災害や民族対立、経済格差などの課題を解決できる人材を養成。九州大・共創は、文理の枠を超え、共に構想して新たなものを創造することから名付けられた学部だ。
オールイングリッシュについていけるのか見極めが重要
グローバル系学部を志望する上で、次に押さえておくべきなのは、英語による授業の比率。表Cの「オールイングリッシュで授業を行う主な国際・外国語系学部」を見てほしい。全ての授業をオールイングリッシュで展開する大学には、国際教養大や上智大・国際教養、法政大・グローバル教養、早稲田大・国際教養、立命館大の国際関係・グローバルスタディーズ専攻やグローバル教養などがある。
一般的な高校を卒業した学生にとって、全ての授業がオールイングリッシュというのは大きな負担となる。そこで、低学年次に徹底的に英語を学び、徐々に英語中心の授業にシフトする学習院大・国際社会科のように、国際的な活躍を望みながらも英語の能力が追いつかない学生の語学力を伸ばした上で、専門性を身に着けたグローバル人材になるための道筋をつけるケースもある。愛知淑徳大のグローバル・コミュニケーションも低学年次に英語力を育成した上で専門科日を英語で行うなど、英語による授業の実施状況は大学によって異なる。オールイングリッシュの授業頻度と語学力向上プログラムのバランスを見ながら、授業についていけるのか判断した上で志望校を選択したい。
期間、内容、奨学金制度など、留学制度も千差万別
グローバル社会で活躍することを前提としたグローバル系学部は、語学力と共に専門性や多様な価値観を理解するための海外留学が大きなウエートを占めるが、各大学によって留学の時期や期間などは異なる。表Dの「留学が必須となっている主な国際・外国語系学部」の留学期間を見ると、国際教養大や東洋大・国際のグローバル・イノベーション学科、立教大・GLAP、早稲田大・国際教養、京都橘大・国際英語、同志社大のグローバル・コミュニケーション、関西大・外国語、近畿大・国際など、1年間が多くを占める。
これらの大学の中で留学時期に特徴があるのは近畿大。一般的な大学では、語学力や一般教養を修得した後、2年次以降に留学をするケースが多いが、同大は1年次後期から留学に送り出す。1年次後期から2年次前期の1年間をかけて語学や、コミュニケーション、文化について学び、国際的なビジネス社会で通用する人材育成を行う。
留学期間以外にも、語学留学なのか深く専門分野を学ぶのか。また、留学費用に対する奨学金支給対象者の人数や支給額など、大学によって留学制度は千差万別なので、志望校の状況を押さえておきたい。
留学で気になるのは単位不足による留年だが、多くの大学は単位の読み替えにより4年間で卒業が可能だ。さらに、就活も気になるところ。3年次に1年間留学すると、就活スケジュールに乗り遅れることを危惧する生徒もいるだろう。しかし、留学経験者を対象に選考する大手企業は数多くあるので、留学がデメリットになることはない。むしろ、企業は留学経験者を求めているほどだ。
ところで、グローバル系人材養成の要ともいえる留学について、前述の通り、条件付きで留学を許可する大学もでてきたが、コロナ禍にあって、海外留学に出にくい状況に変わりはない。国際教養大や青山学院大、中央大、東京理科大、早稲田大など、オンライン留学を継続する大学も多い(表A)。各大学の海外留学に対するスタンスは異なってきているので、大学の対応にアンテナを張っていたい。
日本語禁止の学内留学スペースでコミュニケーションカを磨く
授業や留学以外に、グローバル人材を養成する環境整備に力を入れている大学もあり、特にコロナ禍の今、注目したい。そうした大学をまとめたのが表Eの「主な学内留学施設」。大半の施設が日本語禁止で、外国人留学生やネイティブ教員と一緒に語学力やコミュニケーション能力を養う。東洋大のECZも英語が公用語で日本語は禁止。読書や昼食、テレビ・DVD鑑賞などを留学生とともに楽しむことができる。様々なイベントの他に、毎日決まった時間に交換留学生が英会話スタッフとして常駐しているので、英会話力に磨きをかけられる。学内留学施設は、全ての学生が異文化コミュニケーション能力を鍛えられる場であり、オールイングリッシュの授業についていけるよう、学生を個別にフォローするスペースとして活用する大学もある。こうした施設は、秋田大や千葉大、法政大、明治大、岐阜聖徳学園大、立命館大、龍谷大など数多くの大学が用意している。
留学生と一緒に寮生活をすることで、多様な文化背景の人とのコミュニケーション能力を身につける大学も増えてきた。APUは半数が海外からの留学生。キャンパスライフが留学と同じ効果を生むと同時に、1年次に敷地内の学生寮(APハウス)で留学生と同室の寮生活も可能なことが、異文化理解力を深める。学生寮を留学生との交流の場として積極的に活用している大学には、国際教養大や早稲田大、国際基督教大、流通科学大などがある。
新型コロナ禍で国境を越えた往来が制限されている中、グローバル系学部を目指すことを躊躇する生徒が増えているようだ。しかし、22年度の入学者が卒業する頃には、コロナが終息して再びグローバル化が進んでいる公算が強い。将来を見据えた時、グローバル系学部を目指す意義は大きい。学問分野や授業形態、留学制度など、各大学の教育環境を十分に理解した上で、最適な志望校を選びたい。