世界の危機に学生が立ち上がる。カードゲームで課題解決

世界の危機に学生が立ち上がる。カードゲームで課題解決

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持続可能な社会をつくるために世界ではSDGs 達成への取り組みが進むが、日本ではSDGs があまり知られていない。そんな状況を変えようと、SDGsを広めるために活動する学生がいる。金沢工業大学の学生を中心とする「SDGs Global YouthInnovators」は、楽しく遊べるカードゲームを開発し、SDGs の啓発活動を続けてきた。代表を務める島田高行さんと、彼らにアドバイスを行うSDGs 推進センターの平本督太郎センター長に話を聞いた。

取材・文 松平信恭(大学通信)

学生がカードゲームでSDGsの普及を促進

国連が設定した国際目標「SDGs(*1)」は、2030年までに全世界が17のゴール(目標)の達成に向けて取り組むことで、持続可能な社会をつくる第一歩を踏み出そうとするものだ。

このままでは地球環境を維持できず、人類の生存自体が危ぶまれるのではないか。SDGsの背景には全世界を覆うこうした危機感がある。日本でも近年、異常気象や自然災害が多発するなど、地球環境の変化を感じる機会が多い。

SDGsの前身である「ミレニアム開発目標(MDGs)」は先進国が途上国の課題を解決するというスタンスだった。だが、持続可能性という観点で見ると、先進国もまた未成熟であり、取り組むべき課題は山積している。SDGsはこうした前提のもとに作られており、全世界の一人ひとりが立ち上がり、全員で取り組むことを目指している。SDGsが「誰一人取り残さない」という考え方を重視しているのはそのためだ。

SDGsは日本でも徐々に広まりつつあるものの、一般的な認知度は低いと言わざるをえない。こうした状況の中、金沢工業大学(KIT)は第1回「ジャパンSDGsアワード」でSDGs推進副本部長(内閣官房長官)賞を受賞するなど、SDGsの分野で日本を代表する高等教育機関としてSDGs達成に向けた動きをリードしてきた。多くの研究がSDGsと結びつけられて進められるほか、SDGsの考え方を社会に広めるための活動にも積極的だ。

KITの「SDGs Global YouthInnovators」は、SDGsで社会を変えようと活動する学生団体だ。THE SDGs Action cardgame「X(クロス)」というカードゲームを、クリエイティブな視点から社会課題の解決を目指す株式会社リバースプロジェクトと共同で開発。ゲームをインターネットで無償公開している。

Xは「トレードオフカード」「リソースカード」の2種類のカードを使用して、SDGsの達成に向けたアイデアの創出を目指すゲーム。難しく捉えられがちなSDGsの理解や、目標達成のためのアイデア創出に、楽しみながら取り組むことができる。

 

島田高行さん

彼らの活動は開発だけに留まらず、Xを使ったワークショップを国内外で数多く実施してきた。こうした活動は社会から高く評価され、クラウドファンディングで支援を呼びかけたところ300万円を超える金額が集まった。その資金をもとに製品版を制作。現在はリバースプロジェクトのオンラインショップや大阪駅の蔦屋書店で販売されている。

SDGs Global Youth Innovatorsの代表を務める、金沢工業大学情報フロンティア学部経営情報学科4年の島田高行さんは、ゲームをつくった理由を次のように振り返る。「SDGsに出会う前は将来が不安で明るい未来を描けなかったのですが、SDGsに出会って未来は変えられると感じられるようになり、人生が楽しくなりました。そのSDGsをもっと多くの人に知ってほしいという思いがあります。

世界にはたくさんの問題があります。その解決を他人任せにしていいのでしょうか。SDGs世代である若者が中心となって未来を変えていく必要があると思いますし、そのために日本におけるSDGsの認知度をもっと高めないといけません。誰もが遊べるXがきっかけとなって、全世界にSDGsのアクションを広げていきたいですね」

アイデアに優劣はない全ての意見を尊重する

Xが最も大切にしていること。それは、プレイした人全員が「取り残される」ことなく「楽しめる」ことだ。Xがカードゲーム形式になっているのは小さな子どもでも楽しめるための仕掛けであり、「プレイ中はBGMを流す」「最後は拍手で終わる」といったルールを設けているのも、楽しむための「場」を演出するためだ。

SDGsはみんなが幸せになる社会をつくるための取り組みだ。それなのにSDGsを検討しているのが「息が詰まるような空間」であるのは間違っている。みんなが笑いながら取り組むためにはどうしたらいいのか。そのためのルールメイキングが最も苦労した部分だと島田さんは振り返る。

Xには「人のアイデアを否定してはいけない」という重要なルールがある。経営学においては、一見すると不正解に思えるものを結びつけて一つのストーリーにまとめあげる力が、課題解決につながる新たなイノベーションを生み出すには不可欠だとされている。どんなアイデアも良いアイデアとなる可能性があって、アイデアに正解、不正解はないということだ。

こうしたXのアイデアの出し方は、国内はもちろんのこと、欧米の人からの評価も高い。欧米ではディベートに代表されるように意見をぶつけあってアイデアを出すのが一般的であるため、他人のアイデアを否定しないことが斬新に感じられるようだ。

2019年5月にドイツで開催された国連イベント「SDG GlobalFestival of Action」では、島田さんらが行うXのワークショップを体験した多くの参加者が、「仲良くなりながら良いアイデアを出せるんだ」と驚いていた。

THE SDGs Action cardgame「X(クロス)」は、株式会社リバースプロジェクトとKITの学生団体「SDGs Global Youth Innovators」が共同で開発したカードゲーム。「トレードオフカード」と「リソースカード」の2種類のカードで構成されており、トレードオフの問題に対して、さまざまなリソースから課題解決に向けたアクションアイディアを楽しく創造していく。

純粋に楽しみながら遊びSDGsの理解を深める

社会問題や国際平和を扱うゲームは往々にして難解で押しつけがましくなりがちで、自由な時間にやりたいと思えるものは少ない。対してXは参加者が「楽しめる」ことを第一義として作られているので、難しいことを考えずに遊ぶことができる。

これまでSDGs Global YouthInnovatorsにアドバイスを続けてきたKITのSDGs推進センター平本督太郎センター長は、XはあくまでもSDGsを理解するためのきっかけ作りに過ぎないという。

「カードには途上国に対する政府開発援助(ODA)や企業のビジネスでよくあるような、リアルなトレードオフ(*2)の話が書いてあります。Xは難しいことを考えずにアイデア出しを楽しむことができますが、内容は本質的なことに触れているので、それらを改めて調べてみることでSDGsの深い理解につながります。導入が楽しければ、SDGsにも楽しみながら関われるのではないでしょうか」

Xのもう一つの特徴は、基本パッケージにプラスしてオリジナルのカードを作れることにある。それぞれの地域や組織の実情に沿った「トレードオフカード」や「リソースカード」を作ることで、自分たちの課題を主体的に解決するためにXを活用できるのだ。

SDGs未来都市に参画する石川県白山市では、すでに白山市版のカードが正式に作られている。白山市の市民や職員がそれを実際に遊びながら、地域の課題解決に取り組みはじめている。海外でもベトナム版やインド版の制作がはじまっているそうだ。

課題解決に挑む人も取り残してはいけない

SDGs には17の目標と169のターゲットが設定されている。これまで社会課題の解決にはボランティアが大きな役割を果たしてきたが、それだけでは解決が難しいほど多くの課題が現代社会には存在している。こうした状況では企業の協力も重要で、SDGsのゴールとして民間企業の参画を促しながら持続的な仕組みをつくることも規定されている。

 

平本督太郎センター長

SDGsでは課題解決を行う中で「同時に利益を生み出す」意識が大切になる。どんなに良い活動でも利益がなければ継続できないからだ。 日本では自己犠牲を払って良いことをするのを「美しい」とする文化が根強いために、社会課題に取り組む人々が「取り残される」事態が続いてきたと平本センター長は話す。

「SDGsの定義は『誰一人取り残さない』です。つまりSDGsに取り組む人も、取り残されてはいけないのです。NGOやNPOの運営でもそこに課題があり、財務的な健全性が改善できないことから従業員がその活動だけでは食べていけなくなる。結果的に優秀な人が集まりづらく、日本の課題解決が進まない現状があります。社会貢献のみに興味がある人だけでなく、グローバルビジネスにも関心があるような人が、こうした領域に増えるといいですね」

現在はSDGsの普及活動に取り組む島田さんだが、もともとはゼミでグローバルビジネスの分野を学んでいた。「社会課題に取り組むことが仕事につながるイメージはなかった」という。島田さんがSDGsに興味を持ったのは、ボランティアという形ではなく、しっかりと自分が食べていきながら社会課題を解決できることを知ったからだ。「将来仕事をする中で社会課題を解決していく方が、自分たちも楽しいし、社会も良くなっていくと思います」(島田さん)

「楽しい」に気づくことが世界を変える第一歩に

SDGs Global Youth Innovatorsでは2018年6月にXのプロトタイプを公開して以降、下は4歳から上は80歳まで、60回を超えるワークショップを学生主体で続けている。平本センター長は彼らの活動についてこう評価している。

「学生が自分たちの手で運営しながら、企業の経営者や管理職とも物怖じせずに対話をして、活動の価値を認めてもらっているのは素晴らしいこと。レベルの高い要求にもしっかり応えていて、成長する意欲がものすごく高いと関心しています」

島田さんはこれまでの活動を振り返って、「全員が楽しめるものになっている実感があるのが嬉しい」と言う。なぜそこまで頑張れるのかを聞いてみると、「みんなで楽しみながらやっているから」との答えがあった。このプロジェクトでは「楽しい」が大きなキーワードなのだ。

翻って、現代の日本社会はどうだろう。平本センター長は今の子どもたちに、大人や周りの意見に合わせる癖がついているのを危惧しているという。SNSでのコミュニケーションが主流になり、人に意見を合わせ、共感する能力は高くなったものの、自分にとって本当に「楽しい」ことを考えられなくなっているのではないか。

「私を含め、いまの大人たちはある意味『社会を崩壊させてきた世代』とも言えます。私たちがやってきたことがすべて合っていればSDGsは必要なかったのです。だからこそSDGsの達成は大人だけのアイデアでは絶対に無理だと思っていて、若者の『楽しい』『なんとかしたい』という思いを引き出して頑張ってもらうほかありません。

そのためには、大人と若者が同じ立場で、未来を一緒に考えていく必要があります。大人は自分たちが得てきた知識や経験を若者の活動のために提供しつつ、彼ら彼女らの中にある『大人が持っていないもの』を素直に認め、敬意を払えるかが大切になります」

今後のSDGs Global Youth Innovatorsはどのような活動を行うのか。島田さんは次のように話す。「これからの若者が明るい未来を描けるようになるために、教育関係へ活動の幅を広げていきたいと考えています。文部科学省から助成金を受けている正式なプロジェクトとして、X以外にも5つほどのゲームを制作中です。それらを一つの教育コンテンツとして『楽しみながらできる教育』を広めていきたいと考えています」

子どもたちの「楽しい」を引き出せる大人が周りにいれば、自分にとって何が楽しいかは自然と見つかるはずだ。自らの興味に自覚的になれば、将来を主体的に選択できるようになる。そうすれば進路選択についても、ネームバリューや偏差値で学校を選ぶのではなく、自分の「やりたいこと」に取り組む先生のいる学校を選ぶ形に変わっていくことだろう。

Xは楽しみながらSDGsについて学ぶとともに、子どもたちの興味関心を引き出すことができるツールとなっている。それぞれの教育現場に合わせた形で、柔軟に活用してみてはいかがだろうか。

THE SDGs Action cardgame「X(クロス)」遊び方

【1】ゲームの場に合ったBGMを流す。楽しくなるような曲がオススメ
【2】ファシリテーターが参加者に「リソースカード(課題解決に使えるアイテムのカード)」を3枚ずつ配布
【3】ファシリテーターが「トレードオフカード(課題が記載されたカード)」を1枚提示
【4】参加者は手元にある「リソースカード」を1枚用いて、「トレードオフカード」で示された課題への解決アイデアを考える
【5】アイデアを思いついた人から順に、「リソースカード」を場に提示して、考えたアイデアを全員に伝える
【6】参加者のアイデアをつなぎあわせながら、トレードオフの解決を目指す
【7】全員が「リソースカード」を1枚使用したら終了。最後にアイデアを取りまとめて、ファシリテーターにプレゼンを行う
【8】見事トレードオフが解決されたら、全員で拍手をして終了!

●ゲーム内での3つの約束
【1】人のアイデアを否定しない
【2】それぞれのアイデアを尊重し、良いところを積極的に引き出すようにする
【3】誰一人取り残さず、全員で協力してトレードオフの解決に全力で挑む
※これは全員で課題解決のアイデア創出を目指す「ビギナー版」のルールです。その他に、3~4人のチームに分かれてアイデアのプレゼン対決を行う「対戦版」もあります。
カードゲームのダウンロードはこちらから
https://www.kanazawa-it.ac.jp/sdgs/

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