激変した2021年 入試と今後の展望

激変した2021年 入試と今後の展望

2021年入試は、大学入試改革にコロナ禍という異例の事態が重なった。振り回される格好になった受験生への進路指導にあたり、難しさを感じることも多かったのではないだろうか。本稿では21年入試に起きた変化を具体的に見ていくとともに、次なる入試改革が行われる予定の25年入試についても展望してみよう。

初実施となった大学入学共通テスト

初実施となった大学入学共通テスト(以下、共通テスト)は、11都府県に緊急事態宣言が再発令される中で行われた。従来のセンター試験は毎年2回行われていたが、共通テストはコロナ禍による3カ月近い学校の休校期間があったことを踏まえて特別に3回実施された。1月16、17日の本試験が第一日程で、同30、31日が追試験を兼ねた第二日程だ。さらに2月13、14日に特例追試験を実施。これは病気などにより第二日程を受験できなかった場合の救済措置で、既卒生は受験できない。

今年の共通テストの志願者数は53万5245人で、昨年のセンター試験志願者数と比べて4%減、2万人を超える過去最大の減少となった。特に減っているのは既卒生で、2割近く減っている。21年からの入試改革を敬遠し、現役で進学を決めた受験生が昨年は多かったからだろう。

志願者の内、第二日程を志望したのは、わずか718人で全体の0.13%に過ぎなかった。学業の遅れを取り返した学校が多かったことと、2月1日からは本格的に私立大入試が始まるため、連続受験となることを考慮して敬遠されたようだ。また、最終的に第一日程を受験できず追試として第二日程に回った受験生は1729人にとどまった。

共通テストの新傾向は、問題文が長文になったことだ。数学Ⅰ・Aの問題冊子は昨年より8ページ、数学Ⅱ・Bは4ページ増で、他に世界史B、「倫理、政治・経済」などでも問題文が増えた。

また、第一日程で公民と理科②の2教科で得点調整が実施されたことも特徴だ。得点調整は、教科の中の科目の平均点差が20点以上になった場合に、点数が低かった科目の得点をかさ上げするもので、31年間続いたセンター試験でわずか2回しか行われていない。共通テストは初めての実施ということもあり、出題が手探りで各科目の難易にばらつきが出たようだ。

センター試験以上に思考力や判断力が問われ、難化すると見られていた共通テストだが、平均点は意外にも高得点だ。コロナ禍で危機感を持って予想問題に取り組むなど、受験生が年間を通して頑張った成果が表れている。科目ごとの平均点を見ると数学と生物、倫理で大幅アップだ。大学入試センターから公表されない5教科7科目総合の平均点も文系、理系ともアップしたと見られている。

コロナ禍で地元志向が高まった

共通テスト平均点アップの結果を受け、受験生は国公立大に強気に出願した。最終的に志願者は42万5415人で、昨年と比べて3.2%減となっている。表❶は国公立大学の一般選抜志願者数ランキングだ。トップは千葉大で、6年連続となった。2位の神戸大と合わせた2校が志願者1万人超えで、昨年より志願者が増加している。

コロナ禍の影響で、国公立大、私立大とも地元大学の人気が高くなっている。感染が拡大している大都市の大学を避ける傾向が強まったのだ。逆に大都市の受験生も他地区への受験を敬遠するようになり、地元の割合が高まった。国立大で見ると、東大、京大、北海道大など全国区型の難関大の志願者が減り、地元勢中心の東北大、名古屋大、九州大の志願者が増えている。東大の合格者を地域別に見ると、北海道、東北、中・四国は減少だ。ただ、緊急事態宣言が出た府県を含む中部、近畿、九州では合格者は増えている。

私立の難関校である早慶の当初合格者で見ても、1都3県(東京、埼玉、千葉、神奈川)からの合格者は、早稲田大が76.8%で、昨年の73.2%よりアップ。慶應義塾大も74.8%で、昨年の73.3%よりアップしている。コロナ禍によって、地元志向が強まっていることの表れだろう。地方からの志願者が減っているのだ。ちなみに10年前の11年には、早稲田大は66.9%、慶應は65.1%だったから、東京の人気大学でも地元占有率が高まり、関東ローカル化が進んでいることが分かる。

もう1つのコロナ禍による大きな影響は、入試方式を変える国公立大が続出したことだ。早々と大学独自の二次試験を中止し、共通テストの成績だけで合否を決めるとした横浜国立大は、44.7%も志願者が減少し、今年最も志願者数が減った国公立大となった。二次試験での逆転がないため、共通テストの結果を見て出願を諦めた受験生が多かったのだろう。また、二次対策を取らなくてよいため受験しやすくなった反面、同時に志望校へのこだわりが薄くなった可能性もある。過去問などを解けば解くほど、志望校への思い入れは強くなるからだ。共通テストの成績が良ければ、志望校への思い入れが少ない分、別の大学に志望変更することも多いだろう。

今年になってから入試を変えた大学では、試験時間を短縮して午後入試にした東京外国語大、二次試験を中止して共通テスト利用方式に切り替えた宇都宮大、山口東京理科大などがあるが、いずれも志願者減だ。

私立大は戦後最大の志願者減、早大は49年ぶりの10万人割れ

私立大は主要な約100校を調査したところ、2年連続で一般選抜の志願者が減少し、しかも12%減で戦後最大の減少となっている。私立大学の一般選抜志願者数ランキング(表❷)を見てほしい。ほとんどの大手私立大が志願者減となっている。志願者トップは8年連続で近畿大だ。志願者が10万人を超えたのは2校だけで、8校だった昨年と比べて激減した。2位の千葉工業大は、コロナ不況を考慮し共通テスト利用入試の受験料を無料にしたことで志願者数を伸ばしている。

人気の早稲田大、慶應義塾大も、ともに志願者減。早稲田大は3年連続の志願者減で、1972年以来、49年ぶりに志願者が10万人を割り、9万1659人にとどまった。昨年より1万3千人近く、12%強の減少だ。慶應義塾大も4年連続の志願者減で、平成以降、最少の志願者数だ。MARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)では、立教大だけが志願者増。立教大が志願者を伸ばした要因は、入試改革だ。文学部の一部の方式を除き、英語を民間英語試験のスコアか共通テストの英語の成績利用に代え、大学独自の英語試験を廃止した。さらに試験日を連続して複数回設け、自分の併願プランにあわせて日程を選べる方式を始め人気を集めた。日東駒専(日本大、東洋大、駒澤大、専修大)では駒澤大だけが志願者を増やした。新しく共通テストに参加した上智大、学習院大も志願者が増えたが、このように志願者増の大学は数えるほどしかない。

一般選抜の志願者を減らす私立大が相次いだ原因は、先述の地元志向以外に大きく四つある。

ひとつは受験生数の減少だ。少子化により高校卒業者数は、昨年に比べて2.6%減少した。既卒生は2割減なのでさらに減り幅が大きい。既卒生は現役生に比べて併願校が多いため、既卒生の減少が私立大志願者数減に直結した。

二番目は、年内に合格を勝ち取った現役受験生が多かったことだ。コロナ禍の影響で、年明けに入試が行われるかどうかわからないという不安から、年内に行われる総合型や学校推薦型選抜で合格を決めた受験生が多かったのだ。ただし、それらの方式の志願者が大きく増えたわけではない。特に総合型選抜では出願資格に当たる様々な活動が、コロナ禍によって制限されたこともあり、出願資格が大学の条件を満たさなかった場合も多かった。ただ、大学側も年明けに入試が行えるかどうかという不安から、年内入試で多めに合格者を出して入学者確保を目指した結果、一般選抜の受験生が減ることにつながった。特に指定校制学校推薦型選抜が人気だったようだ。

三番目は既卒生だけでなく現役生も併願校数を減らしたことだ。昨年はオープンキャンパスや合同説明会などが開催されず、受験生は志望校の情報収集に苦労した。オンラインのオープンキャンパスは実施されていたものの、やはり対面式のオープンキャンパスほどの効果はなかったようだ。関心の高い第一志望、第二志望は調べていても、第三志望以下の押さえ校の情報収集の時間がなかったことで、併願校数が減った。また、感染予防の観点から何度も大学に受けに行くのを避け、共通テストの成績だけで合否が決まる方式や、全学部統一試験などを受ける受験生が多くなった。全学部統一試験とは、全学部が同じ問題で1日に試験を行い、その際に第二志望や第三志望の学部にも出願できる入試のことだ。一度の受験で、何度も合否判定が受けられるメリットがある。

最後は各大学のコロナ禍への対応だ。昨年の大学1年生は急遽、オンライン授業中心に変わった。前期の授業だけでなく、後期もオンライン授業の大学は首都圏を中心に多くなった。入学式も中止で、1年生がキャンパスを訪れる機会はほとんどなく、全く行ったことがないという学生もいたくらいだ。クラブ・サークル活動やアルバイトもできず、友人ができない1年生も多くいたことだろう。小中高などでは昨年から対面授業を再開しているが、大学だけがいまだにオンライン授業中心という状況だ。自粛というより萎縮が続いている。これが受験生に、地元の大学進学志向が強まっている理由でもある。受験生にとっては、この4月以降もオンライン授業中心なら、家を離れて大学進学する意味があまりないと考えるからだ。新型コロナに感染するのも避けたいとの考えもあるだろう。大学生活は授業を受けるだけではない。教育は目に見えないカリキュラムにこそ意義があるとも言われている。キャンパスでの友人や先生との対話も大切だし、課外活動も重要だ。しかし、その機会がないとしたら、地元の大学に進学して、実家にいたほうがいいということになりかねない。そこで気になるのが、各大学の4月からのコロナ禍への対応だ。入試前に「原則、対面授業」と公表した私立大で、志願者が増えたところが目立つ。上智大、駒澤大、龍谷大、関西学院大などだ。入試改革で志願者が増えた立教大も1年生は語学の授業など対面で実施と公表している。オンライン授業のメリットはたくさんあるが、学生はやはりキャンパスに通って授業を受けたいと考えるのだろう。このことも大手大学で志願者が減っているところが多い理由の1つと考えられる。

現・中学3年生が受験する25年入試でも改革が行われる

最後に、現・中学3年生が受験する25年入試についても触れておこう。教育内容が変わり、新学習指導要領に基づいて実施される予定だ。

25年1月実施の共通テストでは、今回、延期になった英語4技能(読む、聞く、書く、話す)の内の「書く」「話す」に関して、民間英語試験の成績活用を実施するかどうかが検討されている。実施になるかどうかは未定だ。同様に21年入試で見送りになった数学と国語の記述式問題は、今のところ25年も見送りの方向だ。一方、調査書の電子化はおそらく実施されるだろう。

新学習指導要領については、20年度に小学校1年生からプログラミング教育が、中学、高校では情報教育が必修になっている。高校の新学習指導要領では、理数探究、歴史総合など、分野横断型の教科が新しく増える。情報が共通テストでは必須科目になる可能性もありそうだ。ただ、共通テストで必須になったからといって、各大学が入試科目に採用するかは未知数だ。

確実に言えることは、今後は入試が多面的評価に変わっていくことだ。総合型選抜などでも高校での部活動や学校行事に力を入れているだけではなく学力を求められるようになってきているし、逆に一般選抜でも入試でいい点を取りさえすれば合格というのではなく、高校時代の活動歴をあわせて評価する方向に変わっていこうとしている。

高校では勉強だけではなく、部活動や学校行事、あるいは自分に興味ある分野、趣味などを深めていくなど、積極的に取り組むことが求められる。勉強だけをしていればいい、部活動さえしておけばいいという考えは捨て、高校3年間でさまざまなことにチャレンジさせるような指導が今後はさらに大切になってくるのかもしれない。

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