地域の課題解決は地域の人材育成から―東北公益文科大学

地域の課題解決は地域の人材育成から―東北公益文科大学

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取材:井沢秀(大学通信)

山形県の庄内地方は県北西部に位置しており、山岳信仰の聖地・出羽三山、山形県最高峰の鳥海山、そして日本海に囲まれた広大な平野を擁している。江戸時代より鶴岡藩の城下町として栄えてきた鶴岡市、貿易拠点として中世から発展してきた歴史をもつ港湾都市・酒田市など、合計5つの自治体で構成されている。

近年は稲作地帯の美しい田園風景に囲まれたホテル「スイデンテラス」の開業、山海の豊かな食材を活かしたフードツーリズムの興隆、バイオベンチャーなどの積極的な企業誘致など、庄内エリアがいま熱い注目を集めているのをご存知だろうか。

そんな庄内全域をキャンパスとして捉え、地域の課題解決に向けた幅広い学びを展開しているのが東北公益文科大学だ。開学20周年を迎えたいま、「公益」という大学名に込めた思いと新時代に向けた取り組みについて、神田直弥学長にお話をうかがった。

データサイエンスプログラムとダブルメジャー制で育成する、新時代の“異分野連携人材”

――現在、東北公益文科大学は日本において「公益」を学校名に掲げている唯一の大学です。なぜ公益を学びの軸とし、大学名に冠したのでしょうか?

神田学長 本学の始まりは、庄内に大学を設置してほしいという地元の強い要望がきっかけでした。そこで地域の自治体が大学を設置し、学校法人がその運営をするという「公設民営方式」でスタートしたのです。それが2001年、21世紀が始まる年のことでした。

この新しい大学をどんなものにしようかと20世紀を振り返ると、経済成長を優先してきた結果のひずみーーたとえば環境破壊や過当競争、あるいは格差社会といった深刻な問題が浮かび上がってきたのです。21世紀のスタートにあたり、こうした問題を解決して人々が幸せに生きていける社会を築いていこうと「公益」を大学名に掲げることにしたのです。

神田 直弥学長

かんだ なおや | Naoya KANDA
1974年生まれ 東京都出身
学位:博士(人間科学)
最終学歴:早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得退学(2002年3月)
職歴:早稲田大学人間科学部人間健康科学科助手(2002年4月)
東北公益文科大学公益学部講師(2005年4月)
東北公益文科大学公益学部准教授(2011年4月)
東北公益文科大学公益学部教授(2015年4月)、2020年4月から現職。
研究分野:交通心理学、人間工学

――学部は「公益学部」ひとつで構成されていますが、具体的にどんな学問を扱っているのでしょうか?

神田学長 公益学部公益学科という入り口はひとつですが、「経営コース」「政策コース」「地域福祉コース」「国際教養コース」「観光・まちづくりコース」「メディア情報コース」の6コースから成るさまざまな学びの切り口で、地域の課題解決にアプローチしています。

学生は最初からコース別に学ぶわけではなく、入学後はスタディスキルなどを習得してまずは4年間学問と向き合うための準備を整えてもらいます。同時にそれぞれのコースの詳細な説明や各専門の導入科目を履修して、自分の興味・関心がどこにあるのかじっくり見極めたうえで1年次の秋に所属コースを選択することになります。また開学当初からプログラミングが全学生の必修科目になっているのも本学ならではの特徴ですね。

――20年前にプログラミングが必修というのは、かなり先駆的な存在だったのではないでしょうか?

神田学長 そうですね、いまは重要性が高まっていますが当時はかなり珍しかったと思います。本学は社会科学系の大学ですが、これも大学名に掲げた「文」の字が示すようにサイエンス、すなわち文系理系問わず幅広く学んで地域の問題解決ができる人材になってほしいという思いからです。

そして今年度からは「データサイエンス教育プログラム」をスタートします。いまや地域課題のための研究や政策策定にもデータの利活用は不可欠です。1年次にプログラミングや基礎的なデータ処理など情報系必修科目で学んだことをベースに、2年次以降は「メディア情報コース」でAIやデータ解析などさらに深い領域を学ぶことも可能です。

――デジタル変革の推進は、地方自治にとっても大きな課題となっていますね。

神田学長 「公益」のための人づくりを目指す本学にとっても、デジタル変革やSociety5.0時代に対応する人材育成は急務だと考えています。そのための施策として、2021年4月からダブルメジャー制を導入しました。前述の「メディア情報コース」とそれ以外のコースを組み合わせれば、経営や政策などの専門性と高いITスキルを両立することができます。

また情報系以外の専門分野を組み合わせた場合でも、多角的な視点を持って異分野連携ができる人材の育成につながります。たとえば人口減少や税収減という課題をさまざまな自治体が抱えていますが、公務員を目指す学生でも経営視点で政策を評価したり、PDCAを回すスキルが今後は求められるでしょう。あるいは政策と福祉をセットで学んだ人材は、現場に出る仕事以外でも行政に進んで福祉政策のマネジメントを実現するというやり方もあるわけです。

ダブルメジャーで複数の学びを組み合わせることで、Society5.0の対応だけでなくより有為な人材の育成が可能になると考えています。

庄内全域へと学びの場を広げ、地域の人や課題と深く触れ合う

――東北公益文科大学では、庄内地域全体をキャンパスとして捉えているとのことですが、学外でもさまざまな学びを展開しているそうですね。

神田学長 教室の中だけだと学びの目的を見失ってしまうこともありますし、現場の課題を直接見てきたほうが学習意欲も高まります。「現場でどのように学問的な知見が活用されているのか?」「なぜいろんな立場の人の話を聞いて合意形成を図ることが大切なのか?」 こうしたことを理解するには、早いうちから社会に出て体感することが必要です。大学もそれを後押しするようなカリキュラム設計や制度づくりに取り組んでいます。

そのひとつが学外の地域や企業で実習を行う「SDGs探究プログラム」で、1年次から現場に出て実践的に学びながら、社会の仕組みを理解したり問題意識を養いながら視野を広げていくことを目的としています。内容は庄内の特産品の認知度向上のために東京のアンテナショップに出向いてPR方法を考案したり、グローバルに関心があれば海外で書道を教えたり庄内の外国人に日本語を教えるなど、本人の問題意識でいろんな取り組みが可能です。

大学はその調整やマッチングを行うとともに、交通費や宿泊費などの助成を行っています。このプログラムは「ギャップイヤー選抜」という入試と連動して参加者を募ってきましたが、今後は一般選抜の入学者にも広げていく予定です。2年次以降は「長期学外学修プログラム」を利用して2カ月の実習に参加することもできますね。

――学生が地域課題に取り組む機会を増やすとともに、大学自らが実習先の地域や企業との調整役も担っているということですね。

神田学長 その通りです。いろんな地域のニーズと大学を結ぶ窓口として「地域共創センター」を設置していて、そこに上がってきた課題に学生が挑戦するということもありますね。授業以外でも学生が自主的に見つけてきた課題があればそのプレゼンテーションを行って、一定評価に達したものには「学生活動支援助成金」として資金助成も行うなど、機会・費用の両面で積極的にサポートしています。

――実際に学外実習を行った学生には、どんな変化があるのでしょうか?

神田学長 やはり最初に刺激を受けることでその後の大学生活に活発に取り組んでいける学生が多いように思います。入学時の希望を叶えて福祉分野の行政職で働いたり、起業に進んだ人もいましたね。あるいは当初は別にやりたいことがあったのに、被災地域に出ていろんな人と触れ合ったことで方向性がまったく変わったという人もいます。そうした変化も含めて将来の選択肢を増えるという点ではプラスに働いていると思います。さらに視野を広げるために留学やインターンシップに挑戦したいという学生のニーズも高まってきたので、クォーター制の導入にも踏み切りました。

――クォーター制の狙いと、導入後の効果についても教えてください。

神田学長 もともと留学のニーズはあったのですが、セメスター制の授業だと夏休みを利用した1か月の短期留学や半年や1年という単位の留学しか選択肢がありませんでした。その点クォーター制にすれば第1クォーターで授業を受け、第2クォーター+夏休みで約3か月の留学が可能になります。クォーター制は2015年に導入しましたが、さらに2018年からは105分授業も導入しました。授業時間を90分から105分にすることで16週間かかっていた授業が14週で終えられるので、夏休みを2週間増やすことができます。この2週間で留学期間の延長だけでなくインターンシップもできるので、導入後はインターンシップ参加者が約2倍に増加しました。また社会福祉士を目指す学生は現場の配属実習に充てたりと、さまざまな使われ方をしているようです。

また、105分授業はアクティブラーニングにも非常に有効でした。一方的な講義ではなく学生が主体的に考えられるような双方向型の授業を行うと、90分は少し時間不足でしたが、105分にすることでグループワークやプレゼンテーションを行ったり、授業中にじっくり討論することもできるようになりましたね。

主体性をもつ人材を育むことが、大学と地域の活性化につながっていく

――インターンシップや学外実習など、早くから社会の仕組みや現場の課題に触れさせる仕組みが充実しています。就職やキャリア支援についてはどのような取り組みを行っているのでしょうか?

神田学長 1年次は大学生活を充実させたり、実習・現場体験を通じて刺激を受けながら自分の向き・不向きを知ることも大切です。とは言え就職を自分ごととして考え、しかるべきタイミングで活動ができるように、1年次はキャリア入門科目を設定しています。2年次以降はキャリアと人生について学ぶ必修科目でワークライフバランスについて学んだり、先輩がどのように仕事を選んでいったのかなど話を聞きながら、自分の働き方について考える機会を増やしていきます。3年次は進路に応じてキャリア開発センターの職員が具体的なキャリア相談に乗ってくれます。就職活動の進め方のアドバイスやエントリーシートの添削など親身なサポートが受けられますし、個別面談を実施して学生ひとりひとりの希望や状況を細かく把握していきます。もし大学に求人があれば本人の希望に基づいて学生につなぐということもありますし、学生数が少ないので細やかなサポートが可能です。

――就職の実績はどのように推移していますか?

神田学長 令和3年5月時点のデータで92.2%の就職率となりました。地元庄内の企業を中心に就職するほかに公務員に進む人も多いので、学内では公務員講座も含めて就職筆記試験対策講座を年間530時間に渡って開講しています。

――インターンシップや学外実習を経験した学生は、就職活動にどんな影響が見られましたか?

神田学長 やはり学外での活動を熱心に取り組んでいた学生は希望の職種や企業に進めていたり、内定が早いなという印象があるので良い相関関係があるように思います。もちろん学生には個人差や個性もありますし、大学が用意するさまざまな制度やプログラムも学生が自分から取り組んでいくものです。頑張っている人たちの雰囲気が他の学生にも浸透することで、主体性を持つ人材が本学だけではなく地域全体に広がって活性化していくといいなと考えています。

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