【湘南学園中学校高等学校】湘南・鵠沼の風土が育む、自由な校風―「ありのままの自分」を伸ばす6年間

【湘南学園中学校高等学校】湘南・鵠沼の風土が育む、自由な校風―「ありのままの自分」を伸ばす6年間

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取材:井沢秀(大学通信)

軍国主義の足音が響く中 
保護者たちが作った新しい教育の場。

湘南学園中学校高等学校が位置しているのは、小田急江ノ島線と江ノ島電鉄の2線にゆるやかに囲まれた閑静な住宅街、神奈川県藤沢市の鵠沼松が岡。湘南の別荘地として早くから開拓が進んだこのエリアには、その名の通り松の林に囲まれた古い歴史をもつ邸宅が点在し、町の空気に独特の落ち着きをもたらしています。近隣には高層の建物がないため晴れた日には青い空が視界いっぱいに広がり、時おり南風に乗って1.5キロほど離れた鵠沼海岸から潮の匂いが運ばれてきます。そんな立地も影響しているのか、校内を行き交う人は生徒も教員も穏やかでリラックスした表情が印象的です。

今回、ユニヴプレスWebの取材に集まったのは湘南学園中高の校長である伊藤先生と教頭の吉川先生、そして現場代表として有薗先生(社会科)・斉木先生(保健体育科)・太田先生(理科)の5名。若手からベテランまでさまざまな立ち位置から湘南学園中高について語り合う座談会、という形で行われました。教員どうしの間の関係性もとてもフランクなようで、和やかな空気のなか最初に伊藤校長が口火を切る形で始まりました。

伊藤校長  まずは私から湘南学園の成り立ちを説明しましょうか。創立したのは昭和8年、この鵠沼の地にお住いの方々が学校をつくろうと土地などを寄付してくださって発足しました。初代校長は小原國芳先生といって、玉川学園の創立者でもある方です。当時の日本は国際連盟から脱退し、どんどん軍国主義に傾倒していた時代です。でも、近隣にお住いの保護者の方たちは「これからを生きる子どもたちに本当に必要な教育とは何か」と考え、自分たちで理想の教育のあり方を追求しようとしたそうです。最初は幼稚園と小学校だけの小さな学校でしたが、戦後に中学校・高校と徐々に出来あがっていきました。

校長の伊藤眞哉先生(国語科)

有薗先生  小原國芳先生は大正自由教育運動の流れを汲んでいるんですよ。保護者の方々がその姿勢に共感していたということは、地域にそれを受け入れる土壌があったのでしょうね。大陸侵略など徐々に戦争に向かいつつあった日本で「ひとりひとりの個性を大事にしよう」なんて言いにくかったでしょうし、おそらくバッシングなどもあったかもしれません。そう考えると、小規模ながら当時としてはとてもパワーのある学校だったのではないでしょうか。

企画主任の有薗和子先生(社会科)

吉川教頭  きっと“鵠沼”の文化的な風土の影響もあるかと思います。たとえば志賀直哉や武者小路実篤は、文学誌『白樺』の発刊にあたって鵠沼の旅館・東屋で話し合いをしていたことが知られていますし、表紙や装丁を担当した画家・岸田劉生も鵠沼に居住し、よく近隣でスケッチをしていたそうです。また哲学者の和辻哲郎も鵠沼に数年間住んでいて、そこに多くの学者や作家が訪れて交流をしたりと、町には自由で文化的な空気が色濃く残っていたと思います。

教頭の吉川謙太郎先生(社会科)

保護者、教員、生徒どうしも “話し合う”
創立時より受け継がれる自治の精神

創立時の世相に目を向けると、当時は治安維持法によって国体に反する思想が厳しく取り締まられていて、作家・小林多喜二は昭和8年に逮捕され亡くなっています。ドイツではナチスが政権を掌握し、ヒトラーがドイツの首相に就任しました。

そんな時代のなかで保護者自らが「全人教育」(※)を理想に掲げた小原國芳を招聘し、次世代の子どもの教育のために誕生した湘南学園。こうした成り立ちは、おのずと湘南学園に発達した「自治文化」を根付かせることになりました。

伊藤校長  じつは湘南学園には特定のオーナーが存在しません。学校の運営について話し合う理事会は、保護者代表の保護者理事と教員代表の教員理事とで構成されています。幼稚園・小学校、そして中高の教育内容についても教員会議でじっくり話し合いますし、賛成も反対もお互いの意見を認め合ったうえで着地点を決めているのです。何事も話し合って決めていくという湘南学園の運営体制は、一般的な私立の学校からするとちょっと変わっているかもしれませんね。

太田先生  私はまだ着任して4年目なのですが、理事間や教員間で話し合って物事を進めていくという文化は生徒も同じだな、と思いました。例えば体育祭でどんなことを行うか生徒総会で決めるのは湘南学園では当たり前のことですが、たまに研修会などで他校の先生にお話しすると驚かれることがあります。“自分たちのことは自分たちで話し合って決める”という主体性を、生徒側もごく普通に発揮していますね。

太田桃代先生(理科)

吉川教頭  たしかに生徒の主体性はとても大事にしています。よく「湘南学園ってとても自由な学校ですね」と言われることがあるのですが、これは髪型や服装が自由という軽い意味ではないのです。生徒の主体性や自己決定をすごく尊重しているからなのです。生徒が自由に伴う自主性や責任をもち、自分で自分を管理できる。そういう本来的な意味でとても自由な学校だと思います。

斉木先生  僕は湘南学園のことを「自分で自分をデザインできる学校」だと思っています。一般的な学校では「中高6年間でこういう生徒を育成します」という“理想像”をよく語りますよね。うちでは部活をやりたい子はとことん部活に打ち込めばいいし、生徒会活動をやりたい子はそれに集中すればいい。グローバルセミナーで活躍したい子はそれを頑張ればいい。学校で決められたカリキュラムの教育だけではなくて、6年間に自分が取り組むことの方向性を、自分で選んで決められる自由があります。学校にとっての理想像に子どもたちを向かわせるのではなく、生徒ひとりひとりがありのままに伸びていけばいいという土壌があります。

斉木翔平先生(保健体育科)

有薗先生  自分で自分をデザインするって、いい表現ですね。でもなんで、こういうキャリアデザインが必要なのか。この先の人生においても、もしかしたら自分の就きたい仕事に就けないかもしれない。夢が叶わないことだってあるかもしれない。でもそういう時に、「自分はどういう生き方がしたいのか」「どんな風に世の中に関わっていきたいのか」湘南学園はそのような“生きる力”を育んでいける学校だと思います。自分で見つけて、自分でやってみて、時には失敗してもそこから何かをつかみ取る。教員が手取り足取り教えるのではなく、生徒に自ら考えさせることを大切にしています。

30年以上にわたる総合学習の取り組みが、
ESDとして湘南学園の新たな伝統に

そんな湘南学園が数年来学校をあげて取り組んでいるのがESD(Education for Sustainable Development)です。文部科学省のHPでは「持続可能な開発のための教育」と訳されていますが、これはいま世界にある環境、貧困、人権、平和、開発といったさまざまな問題を自分ごととして捉え、課題解決に取り組む人材を育む教育活動を意味しています。「湘南学園ESD」は教科教育や総合学習を軸に学校生活の全ての分野に展開されており、なかでも総合学習は6年間の発達段階に応じてフィールドワークや体験学習などのさまざまな経験を通じた人格形成カリキュラムとしてその根幹を成しているそうです。

2010年前後からさかんに取り上げられるようになったこのESDですが、じつは湘南学園で以前から独自に行ってきた特別教育活動などの取り組みと共通することが多く、とても親和性が高いものだったそうです。

有薗先生 「もともと湘南学園では1990年ごろから特別教育活動を始めていて、人権や環境問題などを扱ってきました。当初は生徒達にも『どうしてこんな教科以外の勉強をしなきゃいけないんだろう?』という空気がありました。でも問題意識を深めていくうちにとても生き生きと取り組むようになり、湘南学園に定着していったんです。そして2000年代に入ってMDGs(Millenium Development Goals)が取り上げられたり学習指導要領に総合学習が導入されたことで、教科を超えて生徒達の問題意識を掘り起こすことの大切さが世の中にも認知されるようになったんです。早くから取り組んできておいてよかったな、と思いました。

吉川教頭  私自身もいまから10数年くらい前、今後の教育の方向性について模索していた時期があり、いろんな講演会やシンポジウムに参加していました。国連がSDGsを定めたように、いま人類には解決すべきさまざまな課題があります。それらを根本的に解決できるのは教育なのだという話を聞いたとき、当時は非常に考えさせられました。いま日本では大学入試改革も含む教育改革が行われていますが、これもきっと同じ思いで進められているのだな、と思いました。そして持続可能な未来の担い手を育てるESDの取り組みは、まさにこれまで湘南学園がやってきたこと、そしてこれからも目指していく方向に合致しているのではないかと気がついたのです。

斉木先生  ESDという名前がつくと何だか難しいもののように感じてしまいますよね。僕自身も特別教育活動や総合学習を通じて、人の尊厳や地域文化の学習に取り組んできました。その際に高齢者施設のデイサービスを見学したり、ハンディキャップについて学ぶために支援センターから車椅子を借りたりして、地域の方々との繋がりができていきました。ある学年では中2のときに鵠沼海岸でビーチクリーンを行ったのですが、清掃後に江ノ島にあるサーフショップの協力でなんとクラス40人が無料でサーフィンのレッスンを受けさせていただいたのです。自分たちがきれいに清掃した海でサーフィンをする。これも地元の文化を守ることにつながっているーー、と子どもたちにも深く理解してもらえたようでした。これもESDの理念(Think globally, act locally)につながっていますよね。10数年間ここで教えてきた僕にとっては、もともと湘南学園が取り組んでいた学びにESDという名前がついたという感じで、特別新しいものに感じていないというのが正直な実感ですね。

太田先生  そんな経緯があったのですね。私が湘南学園に来たときにはもうESDということばは当たり前に使われていたので、最初は馴染みがなくて戸惑いました。いまは生徒と一緒に学びながらここまでやってきたのですが、湘南学園では生徒が物事をとても深いところまで考えていることにいつも驚かされます。ESDを通じて人や社会を見る目が養われ、問題意識が高まっていくのでしょう。

伊藤校長  湘南学園は2013年にユネスコスクールに加盟したのですが、これもESD導入と同じような流れでした。ユネスコの理念とか、そういう指標に合わせて自分たちをアジャストするのではなく、いま自分たちがやってることが既に同じ方向を向いていた。だから特別に何かを調整したり努力する必要もなかったんです。

児童労働の改善、地域の活性化、歯ブラシ回収によるゴミのリサイクルなど、湘南学園中高ではいまも有志生徒によるさまざまな取り組みやプロジェクトが立ち上がっているそうです。生徒達は学校という狭い世界にいながら、「湘南学園ESD」を経てその目線は徐々に県境も国境も超えて未来の社会を見据えていく様子が、こうしたプロジェクトからもよく伝わってきます。

“湘南学園だから行きたい” の気持ちを受け止めたい。
ありのままの自分でのぞむ「湘南学園ESD入試」

そして湘南学園では「学力だけでは測れない、子どもたちひとりひとりが持つ豊かな力を発見したい」という思いから「湘南学園ESD入試」を2019年よりスタートしました。これは「小学校時代に取り組んだこと」「湘南学園で挑戦したいこと」をテーマに本人が語る90秒間の動画の提出、そして「記述・論述」試験の2つで総合的に合否を判定するものです。この入試をスタートした当初は動画の提出という独自性が注目されましたが、これには若手を中心とした現場の先生方の強い思いがあったそうです。

伊藤校長  これは湘南学園だからこそ入学したい、と思ってくれている受験生にもっとフィットした入試を作ろうと、現場の先生からの強い要望で導入したものです。子どもたちの熱意や湘南学園で発揮できる力をどうやってすくい上げられるのか、若手の先生がプロジェクトに加わって積極的に意見を挙げてくれました。この入試では子どもたちのどんな力を測りたいのかをとことん話し合って、現在の動画50点、論述50点という形式に落ち着いたのです。動画提出という物珍しさもあり、学習塾の関係者からは“なんか変な入試をやってますね”とが“対策が立てづらい”などと言われることもあります(笑)。でも、これは自分の考えたことや感じたことをまとめたり、それを相手の心に届くように文字やことばで伝えるといった、教科ごとの試験では測れないあなたの力を見たいんだよ、という湘南学園からのメッセージなのです。

有薗先生 いままでの入試ってこどもたちの外側に“点数”という物差しがありましたよね。でもESD入試に挑戦してくる子は、自分の中に物差しを持っています。自分は12年の歴史の中でこんなことを頑張ってきた、ここまでできるようになった、だから湘南学園ではこれをやりたい。その思いを自分のことばで伝えられる。“頑張ったこと”の内容は子どもによって本当にさまざまです。子どもたちの発想の幅を狭めたくないので、入試説明会などでもあえて具体例を出していないのです。保護者との個別相談でもESD入試に関わる相談が多く「うちの子はこんなことをやっているのですが、いいでしょうか?」「特に表彰されているわけではないのですけど……」といった声が寄せられますが、いつも「それでいいですよ!」とお答えしています。一芸入試ではないので “頑張ったこと” は本当になんでもいいですし、むしろそれについて家庭で一緒に話し合ったりお子さんが自分でどう語れるかの方が大切なのです。

太田先生  私も最初はESD入試について「計算とか基礎学力とか大丈夫かな」と心配していた部分もありましたが、蓋を開けてみると入ってきた生徒たちはとても自主性に富んでいて問題解決能力が高いのです。私は理科教員なので理科研究部の部活動でその生徒たちと接することがあるのですが、次はどんな研究がしたいか問いかけると「次はこれをやりたい!」と真っ先に本を持ってきたりします。これからの時代を考えると、ESD入試がむしろスタンダートになっていくのかもしれない、と思いますね。

斉木先生  僕の経験から見ていると入学時から偏差値が高かった子より、学力的に厳しくても「なんとか湘南学園で学びたい!」と強い意欲をもって入ってきた子のほうが後伸びする印象があります。けっこう個性も強くて勉強面では最初のほうは苦戦するのですが、学年が上がると意外とその子たちの方が結果的に学力も伸びていく。だからESD入試についても、やりたいことや明確な目標を持つことの方が長い目で見るといい成果をもたらすだろうな、という印象をもっています。

有薗先生  そうですね。過去に2回このESD入試を実施してきましたが、塾に通ってないという子も毎年数名が受けてくれています。自分の考えや目標を持てる素質であったり、興味・関心に応じて積極的にやっていこうというプラスのエネルギーを持った子であれば、うちでどんどん伸びていけると思います。

また2021年入試では少し日程を変更してESD入試を実施します。まず2/1(月)の午前に30名定員でA日程の学科試験を行いますが、こちらは2科目でも4科目でも受けられます。そしてその日の午後にESD入試を15名定員で行うので、午前は学科試験、午後はESDと2つの入試を受けていただくことが可能になります。湘南学園を志望するお子さんになるべく受けていただきやすいようになったので、ぜひ両日程で挑戦していただきたいと思います。

詳しくはこちらをご確認ください。

伊藤校長  では、最後に私からのメッセージで締めくくりますね。よく個別相談などで「湘南学園ではどんな子に来てほしいか、どんな子が向いているか」という質問をされるのですが。そのたびに僕は「どんな子でもいい。その子のありのままでいい。」とお答えしています。お互いに多様性を認め合うというのは、ESDの一番のベースです。その子の個性であるとか、時には問題点もあるかもしれないけれど、それを前提にみんなが折り合いをつけながらやっていくのです。別にハキハキと明るく快活で、プレゼンテーションがうまい子である必要はありません(笑)。湘南学園はどんな子でも、6年間の学びのなかでみんながそれぞれの持ち味を磨いて卒業していける学校であるということを、一人でも多くの受験生に知ってもらえたらと思います。 

【学校DATA】

湘南学園中学校高等学校(代表) https://www.shogak.ac.jp/highschool/
〒251-8505
神奈川県藤沢市鵠沼松が岡4-1-32
TEL:0466-23-6611(代表)
受付時間 平日  8:20~17:00
     土曜日 8:20~12:00
    (日曜・祝日はお休みです。)

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