基礎力をつけて変化に対応し確かな専門性と人間力を磨く教育―日本工業大学

基礎力をつけて変化に対応し確かな専門性と人間力を磨く教育―日本工業大学

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成田健一学長

近年のグローバル化に伴い、日本の大学でも導入が進んでいるクォーター制。1年を4学期に分けるこの制度は、短期間で集中した教育を行えるとあって、今、注目を集めている。
日本工業大学では、2018年の大改組に伴い、工学基礎教育でクォーター制をスタートさせた。それにより、多様化する学生ひとり一人に、工学で必要とされる基礎力を身につけてもらうのがねらいだ。実工学を伝統とする日本工業大学のクォーター制について、成田健一学長にお話を伺った。

取材・文 安田賢治(大学通信)

クォーター制導入の背景

1年を4学期に分けるクォーター制は、最近では、日本の大学でも導入が進んでいる。グローバル化に伴い、留学しやすいこと、少ない科目を短期集中かつ積み上げ方式で学ぶことから、高い学習効果が得られるということで、注目を集めているのだ。

各大学での取り組みはさまざまで、日本工業大学においては、工学基礎教育でのみ採用。あとは2学期制を取り入れている。

この制度が取り入れられた背景には、工学を学ぶにあたり、基礎となる科目を苦手とする学生が一定数存在するため、進級時までに確実な基礎力をつけてもらうことにあるという。

「もともと工業高校出身者と普通高校出身者のバランスが半々になった頃、個々の学修歴に合わせたコース分けをした初学時導入プログラムを並行に走らせていました。しかし、工学は基礎が重要なのにもかかわらず、入試が多様化してくると、出身高校に限らず、理解が十分でない学生も増え、従来の方法では学生ひとり一人に合ったカリキュラムを続けることが厳しくなった。そこで、導入されたのがプレースメントテスト*というわけです」と成田健一学長は語る。

*学生の習熟度を測定し、適切なレベルのクラスに振り分けるためのテストのこと。

数学、英語、物理の基礎科目について、入学後すぐに行われるそのテストで学力を把握し、各自に合った科目から学習をスタートさせる。それぞれの科目は習熟度別に分けられ、下位をクリアしないと上位に進めないシステムになっている。工学基礎教育は、原則として1年次のプログラムであり、この単位を取ることが2年次進級への条件となっている。質を確保し、確実にステップアップするためには、半期ではとても追いつかない。そこで、1科目につき週2コマ7週間の授業で、1年かけて修了を目指すクォーター制が最適だった。実際、例えば数学では最も基礎のレベルからスタートした学生を含め、96%の学生が進級条件をクリアしている。

進級条件であるということは、学生は必死にならざるを得ない。その学生をサポートする体制は万全だ。数学で7名、英語で11名、物理で6名の専任教員を配置している。加えて、学修支援センターには専任の教員以外にも8名のチューターが授業以外でも質問を受け付け、わかるまで面倒をみる。また、授業はすべて少人数制でしかも座席指定があるという。欠席するとすぐにわかることから、ドロップアウトを防ぐため、学生相談室やカウンセラーとも連携し、学生の精神面を支えている。

こうして学生に明確な目標を与える一方、大学は責任を持って進級させるというセーフティネットも用意するという本学の取り組みは、学生はもちろん、教員・職員にとってもハードルが高い。しかし、それには意味があると成田学長は言う。

「学習する習慣をつけ、段階的にクリアしていくという方法が、成功体験を積むのに非常に役立っています。実際、九割近くの学生が予習・復習に取り組んでいるという結果が出ていますし、高校ではわからなかった科目が、大学に来たらわかるようになったという声もあります。それに効率重視だといわれる昨今の学生ですが、近道を選ぶだけでなく、コツコツと積み上げていくことの重要性を教えることで、社会に出てからもその体験はプラスに働くのではないかと考えます」

基礎から段階的に積み上げていく学習が工学の基本であるといわれるが、1年次できっちりと基本を身につけておけば、より幅広い専門を学ぶチャンスが広がる。

このシステムに関する学生の評価は上々だ。特に、実習には強いが、基礎科目を苦手とする工業高校出身者にとってその効果は絶大で、彼(女)らの成長には目を見張るものがある。成績上位者に与えられる奨学金を受けたり、トップクラスで卒業していったりするのが何よりの証だ。それらが就職率の高さにもつながっている。わかるまで学生と向き合い、とことん面倒を見る教育が功を奏したといえるのではないだろうか。

専⾨⼒につながる基礎を鍛える⼯学基礎教育

広大な敷地で育まれる人間力の高い現場技術者

埼玉県南埼玉郡に位置する宮代キャンパスは、東京ドーム約6個分の敷地に60もの施設を擁する恵まれた環境にある。そのため、学生が研究するための場が豊富にあるほか、実験用の機械を十分に置けるスペースが確保できる。つまり、シミュレーションではなく、実際の実験により、精度の高い実証データを収集することができるわけだ。まさに、手を動かし、ものづくりの精神を鍛える実工学そのものといえよう。また、互いに協力しあって結果を出す過程で感謝の気持ちが育まれ、人間力が養われる。こうした体験や人間力は、トラブルがあった際の問題解決能力の高さにつながり、企業の満足度にも反映されている。

東京ドーム約 6 個分の広⼤な敷地。敷地内には 60 を超える施設

手厚いサポートが就職率を後押し

基礎をしっかりと身につけた確かな専門性と技術力、教育による人間力は、就職率の高さに現れている。2019年3月度の就職率は98%を誇り、大学通信が実施した2019年の就職状況調査では、大学の規模別の実就職率ランキング(卒業生数500人以上1000人未満)で5位にランクインした。実就職率は大学の人材育成力を測る1つの指標であるため、取り組みが高く評価されたことになる。それは、学生ひとり一人に寄り添ったきめ細かい就職支援体制に支えられている。

例えば、学科担当制を設け、きめ細やかな個別指導を実現。就職支援課と各研究室が連携し、情報共有を行うことで、各学生の特性や状況に合った適切なアドバイスを提供することができる。また、3年次には年に数回、学内合同企業説明会を開催する。広大なキャンパスを存分に活用し、1企業につき1教室のスペースが割り当てられる。学生はあらかじめ予約して訪問するため、事前に学生の情報が十分に人事担当者に伝えられる。そのため、ミスマッチングが少なく、実際の就職先のうち、説明会に参加した企業の4割に学生が内定しているという。こうした強力なサポートが、高い就職率を後押ししている。

⼿厚いサポートが就職率を後押し

今後の就職活動を行うにあたり懸念されているのが、新型コロナウイルスの影響だろう。日本工業大学でも、ウェブ相談や就職支援ガイダンスの動画配信など、オンラインを活用した支援を行っている。

「中長期的には、常に変化が要求されるこれからの時代に、基礎力を鍛えることで得られる応用力に加え、人の痛みに共感できる人間的な幅を持たせる教育を行っていきたいと考えています」と成田学長。今後の日本工業大学の動向にますます注目が集まるだろう。

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