IB教育を学んだ新しい教員が日本の教育を変えていく―岡山理科大学

IB教育を学んだ新しい教員が日本の教育を変えていく―岡山理科大学

新学習指導要領のもとで日本の教育が変わろうとしている。今後は知識を覚えるだけでなく、「探究」や「総合」といった言葉をキーワードに、さまざまな分野をつなげた学びが大切になる。この教育改革で注目を集めるのがIB(国際バカロレア)の考え方。大学の学部生を対象にした「IB教員養成コース」を日本で初めて設置した岡山理科大学の当事者に話を聞いた。

生徒と一緒に学び、チャレンジする教員を育てる

教育改革の文脈でIB(国際バカロレア)教育が注目を集めている。IBの特徴は、生徒の力を総合的に評価する教育であること。そして、自分の意見を考える振り返りを重視することにある。IBは学習者を中心に置いた教育の形であり、大学のゼミで行われるような、物事を多面的に調べて発信する教育を、小中高の段階から行っているとも言える。

従来はインターナショナルスクールを中心に行われていたIB教育だが、文部科学省が先導する形でIBカリキュラムの学校は増えつつある。英語やスペイン語、フランス語ではなく、日本語で教えるIBプログラムも始まっている。

IB教員の養成が急務となる中で、岡山理科大学はいち早く学部でのIB教員養成をスタートさせた。2021年春には、IB教員資格を有した学部卒業生が日本で初めて輩出される。グローバル教育センター長の眞砂和典教授は、IB教育を通して育てたい教員像について次のように話す。

眞砂教授

「知識を詰め込む教育は変えていかないといけません。生徒と一緒に学び、チャレンジする教員を育てたいと考えています」

IBの授業では、グループワークやディスカッション、プレゼンテーションといった、自ら考えながら取り組む活動が多い。グローバル教育センター講師で、自らもIB教育を受けてきた髙木志保さんはこう話す。

髙木講師

「私は日本の暗記中心の教育では劣等生でしたが、IB教育によって、学ぶことや興味のあることを追求するのは楽しく面白いことだと感じられるようになりました」

IBでは生徒の能力をさまざまな側面から伸長する。試験は論文形式で行われ、細かなミスがあったとしても全体像が見えていればその部分はしっかりと評価される。教育学部中等教育学科のダッタ・シャミ教授は、「分析や探究を行うために、知識の量はもちろん欠かせません。ただ、そこで止まらないのがIB教育なのです」と説明する。

ダッタ教授

従来の日本の教員養成では、授業計画を立て、それを予定通りに終わらせる力が重視されてきた。一方でIBは、学習者に合わせた授業を展開していくため、状況が変われば授業計画を調整して対応する。「柔軟な対応を求められることが多い実社会に近い形で授業を進めていく力がIB教員には必要とされる」(ダッタ教授)のだ。

岡山理科大学ではIB教育を受けてきた教員を数多く揃えることで、IB校で小中高生が受けるのと同じ雰囲気の中で学べる環境を作り出している。

「固定概念から逸脱してクリエイティブに考えるための工夫をしています」(髙木講師)

学生は授業を通して、自分の意見を持ち、自分で考える力を養っていく。一般的な日本の教育で育ってきた人が大半ではあるが、徐々に意見を発信できるように変わっていくそうだ。

IB教員養成コースは全ての学部生が履修可能

岡山理科大学のIB教員養成コースは2年次から始まる約2年半のプログラムとなっており、学部学科に関係なく、すべての学生が受講できる。さまざまな専門性を持つ学生が一緒に学ぶ、多様性ある環境となっている。

導入科目である「国際バカロレア概論」は一般教養として履修が可能。そこで興味を持った学生が本格的にIB教育について学んでいく。「教育課程論」「教育方法論」「教育の評価」といった理論的な授業を学び、その後は岡山理科大学の特徴である教科に特化した授業が行われる。化学教員の内容に特化した「DP化学」を履修した学生は、「授業でIBの教科書と日本の教科書を比較して、IBが知識の修得に留まらないことを教科書の面からも実感できた」と振り返る。

4年次には実践研究として、IB校での教育を実体験する。今年は新型コロナウイルスの影響で学校に行く機会が用意できなかったが、これまでに参加したIBに関するフォーラムやシンポジウム、海外研修などでの学びを学生同士が共有する発表会を実施した。

IB教員養成コースでは、IB教育を学びたいと考える現職教員を、授業に受け入れる取り組みも進めている。実際の教育現場を知る教員と共に学ぶことは、学生にとって大きな刺激となる。また、キャンパスの隣に位置する岡山理科大学附属高校では、今春からIB教育がスタートした。すぐ近くにあるIB実践校と連携することで、授業では理論を学び、附属校で実践や観察を行う、充実した学習環境が整いつつある。

現在、日本語で教えるIB校は約30校しかなく、IB教員の資格を取得した卒業生全員がIB教員になるわけではない。ただ、教員採用試験での加点や、IB資格取得者の別枠採用があるなど、資格取得によるメリットは少なくない。面接の場でIB教育の話が出て採用につながることも多いそうだ。

IBを学ぶ一番の利点は、楽しみながら生徒と学び続ける教員になれること。IBの教育手法を学んだ卒業生が、普通の日本の学校で教育改革の先頭に立つことを期待していると眞砂教授は言う。

「自分が受けたのと同じ教育を行っていては、既存の学校を再生産するだけになりがちです。本学は超エリート大学ではなく、さまざまな経験や失敗をしてきた学生が多い。その経験を生かしながら、既存の教育とは異なる考え方としてIB教育について学ぶことで、新たな学校を作っていってほしいという思いで学生を育てています」

岡山だけでなく西日本、ひいては全国のIB教員養成の拠点として、岡山理科大学は新しい時代を牽引する教員養成を続けていく。

IB教員養成コースの1期生に聞きました

Q. IB教員養成コースを履修しようと思ったきっかけは

田尾 最初は資格が取れるメリットの部分が大きく、興味本位なところもありました。

表 国際資格が取れることや、IBコースの1期生になれることが魅力でした。

Q. IBを学ぶ中で印象に残っていることは

表 すべての授業が楽しく、考えさせられるものでした。特に、クリティカル・シンキングを学んだことで、日常的に当たり前を疑って、自分の考えをしっかりと持てるようになりました。
2週間の海外研修でマレーシアとシンガポールのさまざまなIB校を見学した際、生徒や先生が楽しそうに授業をしている様子が印象的でした。日本の先生よりも生徒のことを思っているようにも感じられて、自分もそういう先生になりたいという思いが強くなりました。

田尾 (IB教育を行う系属校の)英数学館の生徒へインタビューを行った時に、ある女子生徒がIBのことを「人生革命」だと言っていました。「IBによって別人になることができて、今の自分に満足している」と話す様子を見て、IBの力を実感できました。

Q. 今後の展望や将来の夢を教えてください

表 大学院に進学して、数学について専門的に学んでいきたいです。IBについて学んだことも生かしていければと考えているので、両立できる道を探せたらと思っています。

田尾 教職大学院に進学して、自ら課題を見つけて研究を進めるアクションリサーチの手法を身につけたいです。IBの先生たちのように、常に学び続ける教員になりたいと思っています。
理科が好きなので、生徒が楽しいと感じられる探究型の授業を行うことで、理科離れの問題を解決したいです。教科の専門性と授業力の両方を伸ばしつつ、IB教育で得た知識を周りと共有しながら、新しい学校づくりに寄与していきたいです。

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