【立命館アジア太平洋大学学長出口治明に聞く】新型コロナウイルス禍の先に−加速するグローバル教育

【立命館アジア太平洋大学学長出口治明に聞く】新型コロナウイルス禍の先に−加速するグローバル教育

新型コロナウイルス禍で人やモノの移動が制限される中、グローバリゼーションはどこに向かうのか。国際学生(留学生)と国内学生(日本人学生)が半数ずつという環境でグローバル人材を育成する、立命館アジア太平洋大学(APU)の出口治明学長に、コロナ禍の影響とその先を見据えた人材育成の取り組みについてお伺いしました。


コロナ禍々がグローバル教育に与える影響とは?

—まず、グローバリズムの必要性とグローバル環境で学ぶことの意義について教えてください。

 現代の豊かな生活は化石燃料、鉄鉱石、ゴムの3つの資源の上に成り立っています。このことは、近代文明の象徴である自動車や飛行機を見れば明らかです。3つの資源のどれかを持っていれば自国ファーストでもやれますが、アメリカ以外のほとんどの先進国は3つとも持ってはいません。日本も全く資源がないので、他国とグローバルに仲良くやっていかなければ、今の豊かな生活を維持できないのです。

 グローバル人材の育成に向けてAPUが行っているのが、「混ぜる教育」です。1回生は国際学生全員、国内学生の7割が寮生活を行います。ほぼ半数ずつの国内学生と国際学生が混ざることで、世界にはいろいろな人がいることが学べます。APUの学生は約90の国・地域から来ているのでまさに地球の縮図であり、グローバル人材の育成にはうってつけの教育環境にあるのです。

—世界的な新型コロナウイルスの蔓延は、グローバル教育にどのような影響を与えますか。

 新型コロナウイルス禍は自然災害です。地球上が目に見えないとても大きな台風に襲われているような状況です。その中でも冷静でいられるのは、グローバリゼーションのおかげです。今年の経済成長率は大幅に下がり、戦後最大の危機といわれているのに株価が暴落しないのは、世界中の中央銀行が連携しているからです。被害がこれだけで済んでいるのも、WHOを中心に世界中がウイルス禍の情報を共有しているからです。『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリも「ウイルスとの闘いに勝つには、グローバルな連携と信頼しかない」と述べています。

 コロナ禍は短期と中長期的な影響という、2つに時間軸を分けて考える必要があります。みんながマスクをして頻繁に手を洗う、ソーシャルディスタンシングをとるといったニューノーマルが常態化するといわれていますが、それはおかしい。ニューノーマルは、ワクチンや薬が開発されるまでの短期的な影響です。中長期的にみれば新型コロナウイルスはワクチンや薬が開発されれば従来のインフルエンザと同じになるでしょう。

 グローバル教育についても、短期的には後退した印象を受けますが、中長期的には伸びると思います。過去のパンデミックは全てグローバリゼーションを加速しました。14世紀のペストでステイホームを行った象徴がボッカッチョの『デカメロン』です。郊外の別荘に閉じこもって生まれた思想は、神様に祈ってもペストは治らない、即ち人間を信じるしかないということであり、そこからルネッサンスが生まれて世界に広がったのです。つまりペストはグローバリゼーションを加速したのです。

受験生救済のために求められる9月入学

—短期的には受験生に大きな影響を与えています。

 僕なら、高校3年生に対して「来年から全大学に秋入学を導入するように指示します。春と秋の2回の受験機会があるから、今は安心してステイホームしてください」と告げるでしょう。中高については、5年くらいかけて徐々に移行すればいい。時間軸を分けて考えるのです。日本中の大学が秋入学と春入学を実施すれば留学もしやすくなります。人生の大きなウエートを占める入試が、風邪が流行する厳寒期という春入学ほどひどい制度はありません。高校3年生が一番不安になっている今は春に加えて秋入学を導入する絶好のチャンスであり、これからでも間に合うと思います。

—学生に対して、どのように対応していますか。

 上期の授業はZoomのオンライン会議システムを使って、100%オンライン授業を行いました。今のところ支障はありませんが、台風が吹き荒れている状況では今までと同じことはできません。飛行機が止まり留学もできませんが、人生には思い通りにいかないことが山ほどあります。コロナ禍は自然災害であり、これは一つの運命なのです。

 コロナ禍で問題になるのは、ステイホームしか方法がないことをいかに市民に納得させるか。ステイホームが出来ない医療従事者やスーパーで働く人などのエッセンシャルワーカーをいかにエンカレッジするか。ステイホームで所得が減った社会的弱者の支援をいかに迅速に実行するか。短期的には、この3つの課題をコントロールして実行するしかありません。こうした問題の本質を理解出来ればみんな少しは安心できるはずです。

多方面とのリンケージ強化による人材育成

—コロナ禍の先、今後のAPUの方向性を教えてください。

 コロナ禍が終息しているであろう2023年に持続可能な地域開発と観光を学べる学部の開設に向けて動いています。今までの観光は、お城巡りやディズニーランドに行くなど、箱物の発想が強かったのですが、これからは地域で生活をしてその地域の文化や生活に触れることが中心になります。新学部は持続可能な地域開発と観光をセットとして考え、サステイナブルに、かつSDGsに沿った絵が描ける地域開発、観光開発のデザイナーを育てたいと思っています。

 次に、APUでは大学だけではなく地域でも勉強をする、民官学のリンケージの強化に力を入れています。九州が元気でなければAPUも元気になれないので、APUが九州の企業や市町村と連携して民官学のリンケージのハブになります。

 さらに入口と出口のリンケージ強化にも力を入れています。入口は、これからの日本に求められている、好きなことを徹底的に極める個性派育成の視点からの高大連携の強化です。これまでの偏差値教育だけでは日本はもたないという志を同じくする約30の高校と連携しています。出口は企業とのリンケージ。製造業に向く人材の5要素である「偏差値がそこそこ高い」「素直である」「我慢強い」「協調性が高い」「先生や上司のいうことをよく聞く」に秀でた人だけでは新しいアイデアは生まれず、日本はよくなりません。5要素と関係なく、尖った個性のあるAPUで学んだ学生を欲しいという企業とリンケージしたいと考えています。大学だけで教育をするのではなく、同じ志を持つ高校や企業と連携して、個性を大事にする教育をAPUから日本中に広めたいのです。

立命館アジア太平洋大学

—社会が求める人材育成に向け、入試も変わるそうですね。

 OECDが求めている学力は、探究力や問いを立てる力。技術進歩が速くなればなるほど役に立つ知識はすぐに陳腐化します。世界はどんどんスピードが速くなっているので、物事の本質を見極める力、探究力、問いを立てる力が大事です。日本における製造業のウエートはGDPの2割を切ろうとしています。世界を引っ張っているのは、GAFAやユニコーンに象徴される新しい産業で、これは全部アイデアから生まれるものです。日本を元気にするにはアイデアを出せる、考えることができる人材育成しかない。前述の5要素型の人間をいくら教育しても、閉塞感は強まるばかりです。

 こうした状況を鑑みて、21年度から、探究力の根幹となる自分の頭で考えられる、高い思考力を見極める総合型選抜(旧AO入試)「世界を変える人材育成入試」を実施します。最新の脳科学や心理学の研究によると、学習習慣や好奇心を身に着けるには18歳から19歳がピークといわれています。つまり、高校時代に一番大切なことは、物事を調べて知ることは楽しいという学習習慣を身につけることなのです。社会常識を疑うことは楽しいという教育をしなければなりません。

—最後に高校の先生にアドバイスをお願いします。

 まずは制服や校則を徹底的に見直してほしい。生徒からなんでこんな校則があるのか聞かれた時、説得できないものは全てパワハラだと考えてください。それが常識を疑うということです。校則一つ見直せなくて、どうして物事の根本から問いを立てる力や探究力を教えられるのでしょうか。大人ができないことを生徒ができるはずはないので、先ず自らの常識を疑ってほしい。

 第2に個性とはなにかを考えてください。個性イコールクリエイティビティなどという人が多いようですが、生徒全員にクリエイティビティがあるはずがありません。個性とは、顔が違うようにみんなの考え方が違って当たり前ということを認めることです。人間は好きなように生きていくのが一番素晴らしい。違って当たり前という自己肯定感を与えてほしいですね。

 3つ目は、広く世界の教育を勉強してほしいということです。そのために、アメリカについては、ロバート・D・パットナムの『われらの子ども』。ヨーロッパについては、ブレイディみかこ氏の『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』。日本については、松岡亮二先生の『教育格差』をお勧めします。先生方が自ら勉強しないと本当の教育は出来ません。自分の経験だけに頼る教育は根拠なき精神論に過ぎないので、この3冊でぜひ勉強していただきたいと思います。

【トピックス】探究的な学びを育成する総合型選抜を実施

「探究的な学びの必要性」

 新種ウイルスの世界的蔓延は、急速なグローバル化、AIの飛躍的な進展などとともに、私たちに予測困難な状況への対応力が必要且つ重要であることを強く認識させた。今後、困難な状況に耐え、他者と協働して最適解を求め、より良い世界を構築する力が一層求められる。APUは、総合型選抜で「世界を変える人材育成入試〜ロジカル・フラワー・チャート入試〜」を導入する。「ロジカル・フラワー・チャート」とは、自ら「問い」を立て、根拠となるデータ等を示して自分なりの仮説を検証し、自分なりの答えを導き出す訓練のための思考ツールである。

「ホームページ掲載の実際の解答用紙を用いた『解答のポイント』で事前対策もできる!」

 本入試では、この思考ツール(大学受験までに身につけてほしい部分)を活用して適切な「問い」を立て、根拠に基づいて自分なりの答えを示す力が身についているかを確認する。ホームページでは、この思考ツールとともに、実際の入試で使用予定の解答用紙(2ページ)を用いた「解答のポイント」を掲載し、各設問についてどの様に考えていけばよいか、何が問われているのかなどを示している。

解答のポイント(1ページ目)

「在学生の50%を占める留学生(4年間在籍)とともにより良い世界を構築してほしい」

 探究的な学びを身につけた学生は、様々な課題の解決に向けて、志や学力、英語力の高い(約90カ国・地域から学びに来ている)留学生と協働し、世界の中で自分の持ち場を見つけて、より良い世界を構築することが期待されている。 

公式ホームページ(http://www.apumate.net)

ユニヴプレスMAGカテゴリの最新記事