いま、大学の真価が 問われるとき 多様な知、人とのつながり、テクノロジーの活用 困難のなかでも、着実に前へ-関西学院大学

いま、大学の真価が 問われるとき 多様な知、人とのつながり、テクノロジーの活用 困難のなかでも、着実に前へ-関西学院大学

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「Mastery for Service(奉仕のための練達)」のスクールモットーのもと、創造的かつ有能な世界市民の育成に邁進する関西学院大学。卒業生は国内外のさまざまな企業や団体で、社会をリードする存在として活躍している。同学では、社会から寄せられる大きな期待に応え続けるべく、絶えることなく変革に取り組んでいる。折しも今年は、大学入試改革の初年度。さらに同学では、神戸三田キャンパスにおいて理系4学部の新設も控える。そこに襲ったコロナショック。否応なく変化と危機への対応が求められるなか、どのような取り組みを行い、その先には何を見つめているのか。村田治学長にうかがった。
※本インタビューは2020年5月12日にリモート取材形式で実施。
 

関西学院大学学長
村田 治(むらた おさむ)
関西学院大学を卒業し、1985年より同大学で助手・専任講師・助教授を務めたのち、1996年に教授就任。
教務部長、経済学部長、高等教育推進センター長を歴任。2014年4月に学長就任。2017年より中央教育審議会委員。
あしなが育英会の副会長やチャンス・フォー・チルドレンのアドバイザーも務める。

―新型コロナウイルスの感染拡大は、大学での教育・研究活動にも大きな影響を与えています。各大学がさまざまな学生支援措置に取り組んでいますが、関西学院大学ではどのような施策を実施されているでしょうか。

村田 現在私たちは、「コロナ禍による退学者を1人も出さない」を肝に銘じながら、あらゆる措置を講じています。

授業などのオンライン化という点では、休校措置が決まった時点ですぐに教職員全員分のZoomアカウントを取得。インターネット経由で授業や面談が行える体制を整えました。学生のなかには、家庭で使えるパソコンがない人や、通信環境が整っていない人もいます。そこで、パソコン750台とルーター1600台を調達し、学生へ無償貸与を行いました。さらに、授業の受講に支障がでないよう、費用を負担する形で全国のコンビニエンスストアでネットプリントサービスも提供しました。

金銭面も大きな問題です。アルバイト先が休業になり、学費や日々の生活費に不安を抱えている学生もいます。家庭の事情で、大学で学び続けることが難しくなる可能性のある学生もいる。そこで、ヘックス(HECS)型と呼ばれる貸与奨学金の制度を設けました。利用できる金額は3万円から年間授業料相当額(約70万円~120万円)で、学生の困窮状況に応じて幅広い選択が可能であることが特徴の1つです。返済は、就職して年収が400万円を超えるまでの期間は猶予されます。ここがヘックス型奨学金の大きな特徴です。このほかにも40万円の特別支援奨学金を設けるなど、総額で10億円規模の支援内容になっています。

緊急支援策の実施にあたって、私は本学の底力のようなものを感じました。実は今回のコロナショック以前の本学のオンライン化は、必ずしも進んでいるとは言えませんでした。それが、わずか1~2カ月の間に現在の形を整えることができました。学生のことを大切に思い、尽力してくれた教職員の力に頭が下がる思いです。ヘックス型奨学金を導入できたのも、卒業生との緊密なつながりが要因の1つにあります。本学では卒業生にも定期的にアンケート調査を行っており、そこでは、年収もたずねています。多くの卒業生が就職後一定の期間で年収400万円を超えることも、この調査で把握していました。奨学金の利用が将来の負担になることは少ないという、ある程度の見通しが立てられたため、今回の導入に至ったのです。教職員の学生を思う気持ちと、卒業後も続いていく学生と大学との関係こそが、本学の大きな財産です。

―2021年春の新卒学生の採用人員を大幅に絞るなど、すでに企業の採用活動にはコロナショックの影響が出ています。この点に関して、関西学院大学はどのようにお考えでしょうか。

村田 就職活動が厳しくなることは間違いないですね。しかし、そんな状況だからこそ、きちんと学生を社会に送り出したいという思いを強くしています。ある意味で、この状況はキャリアセンターを中心として本学の腕の見せ所と言えるのかもしれません。

コロナ禍におけるキャリア支援という点では、個人面談が大きな意味を持ちます。本学では以前から1対1の個人面談に力を入れており、単なる面接指導やエントリーシートの添削にとどまらない指導を行ってきました。学生に寄り添い、学生が自分自身で答えを見つけていくサポートを行うというスタンスの面談は、こういう状況だからこそ力を発揮するのではないでしょうか。

面談は以前からwebでも行われており、今回のコロナショックでも大いに役立っています。それに加えて効果を発揮しているのが、日本IBMと共同で開発したAIによる「KGキャリアChatbot」です。学生の質問の意図をAIが汲み取って適切な回答を提示するチャットボットは、対面での質問ができない今の状況に最適なツールです。コロナを予期して導入していたわけではありませんが、「導入しておいて良かった」と、心から感じています。

―来年4月には理学部、工学部、生命環境学部、建築学部という理系4学部が新設されます。改めて、その狙いや4学部が設置される神戸三田キャンパスでの取り組みをお教えください。

村田 今、新型コロナウイルスの感染拡大が世界的な危機になっている状況下で、理系4学部が新たに誕生すること、そして総合政策学部とともに神戸三田キャンパスで教育や研究が展開されることに、なんとも言えないめぐり合わせを感じています。というのも、一見すると新型コロナウイルスは、医学をはじめとした自然科学、すなわち理系の問題であると言えます。しかし、感染拡大防止のための経済活動の引き締めやその後の緩和は、経済学や公共政策の問題でもあります。つまり私たちが暮らす社会は、理系や文系という垣根はなく、それらが融合して動いているのです。神戸三田キャンパスでは、理系4学部と総合政策学部がともに学ぶ機会が豊富に設けられています。日常的な交流を通し、専門分野にとらわれることなく知識を得ていくことができるでしょう。そうすることで、「自分はどう考えるか」「自分はどう生きるか」という、判断基準や価値観を養うことができます。こういった力を養うことこそ、大学教育の本来の役割であると私は考えています。その意味において、神戸三田キャンパスに理系4学部と総合政策学部を配置したことは正しかったと、今、確信しています。

―「ポストコロナ」の時代において求められる人材や、大学のあるべき姿について、どのようにお考えでしょうか。

村田 まず言えるのは、前述のとおり多様な知識を身につけたうえで、自分の判断ができる人材が求められるでしょう。そして、そのような人材を育てることができる大学が求められると考えています。

もう1つ、別の観点から見ると、AIがキーワードになると思います。現在の学校やビジネスのオンライン化の先には、AIがより具体的に視野に入ってきます。AIを開発する人材はもちろん大切ですが、同じように、AIを使いこなしてビジネスをする人の重要度も増します。このような社会を見越し、本学では「AI活用人材育成プログラム」を日本IBMと共同で開発。2019年度から開講しています。まだまだ始まったばかりの取り組みですが、コロナの状況を見るにつけ、本学が進んでいる道は間違っていないという思いを強くしています。

本学では、すべての学生が身につけるべき知識・能力・資質として、10項目にわたる「Kwanseiコンピテンシー」を定めています。ここには、「対立する価値を調整する力」「困難を乗り越える粘り強さ」など、いままさにこの状況下において求められる素養が掲げられています。「Kwanseiコンピテンシー」は、本学が設立150周年を迎える2039年を見据えて策定した将来計画「Kwansei Grand Challenge 2039」に基づいています。いま、私は、「Kwanseiコンピテンシー」や「Kwansei Grand Challenge 2039」は、ポストコロナの社会でこそ求められるものだと確信しています。

今後の大学の姿という点では、コロナ以前から言われていたことではありますが、「探究型」がキーワードになるでしょう。現在、高校では探究型の学びが広がっています。学ぶ内容や、高校生のチャレンジの対象もどんどん多様化している。大学はそれをしっかりと受け止め、伸ばしていく存在であるべきだと考えています。

また、これからの社会では、イノベーションを起こす人材の重要性がますます高まるでしょう。では、どのようにしてイノベーションが起こるかというと、異なる複数のものが組み合わさったときです。理系と文系の融合はその一例です。本学では体育会の部活動に所属する学生に、「成績が基準を満たさないと試合には出さない」という規定を適用しています。これも、スポーツと勉学という、異なるものの組み合わせです。また、「ダブルチャレンジ制度」として、留学、他学部での学び、社会での学び(ハンズオンラーニング)を推奨しています。留学に関しては、海外協定大学への留学者数で日本一()を記録するほど、取り組みが浸透しています。これらはすべて、「異なるもの」と出合い、融合することでイノベーションを起こしていこうという狙いが根底にあります。

―来年度はいよいよ入試改革元年です。関西学院大学では、どのように入試が変わるのでしょうか。また、その狙いは何でしょうか。

村田 本学でもさまざまな入試改革に取り組んでいますが、特に注力しているのは、先ほどもお話しした「高校における探究型の学びをいかにして大学へ連携させるか」という点です。高校での学びを通じて得た問題意識や興味に私たちがしっかりと目を向け、評価し、受け止められる仕組みづくりを行っています。

具体的な入試制度としては、「探究(課題研究)評価型入学試験」を新設しました。これは、従来の入試制度を引き継ぐ「スーパーグローバルハイスクール(SGH)対象入学試験」「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)対象入学試験」に加わる新たな試験で、探究活動(課題研究)を通じて身につけた多様な能力や豊かな人間性を評価しようという入試です。SGH、SSH以外の高校生も対象としており、「高校での学びそのものをアピールできる入試」と言えるでしょう。

受験生の目線に立ち、利便性を高めたことも本学入試改革のポイントです。例えば、「総合選抜入学試験」では、私大では珍しいのですが、他大学との併願を可能とする仕組みにしました。「一般選抜入学試験」では、併願をすれば、一度の受験で2回合否判定​を受けることができたり(理系学部に限る)、大学入学共通テストを併用する入試方式では、大学入学共通テスト後に出願が可能な仕組みを導入しました。さらに、入試日程の拡大、受験会場の拡充、入学手続き期間の延長など、細部にわたって受験生にとっての利便性向上を主眼においた改革を行いました。その結果として、これまで以上に多くの方に本学への門戸を開き、ともに学びや研究に取り組んでいきたいと考えています。

―最後に、高校生や高校の先生に向けてメッセージをお願いします。

村田 私たちはいままさに、世界や社会が新しく変わろうとしている節目に立ち会っています。デジタル化やオンライン化がこれまで以上に進むことを実感している人も多いでしょう。一方で、人と人とがつながっていることのありがたさや大切さ、人が1人でいることの大変さも身にしみて感じているはずです。それらを踏まえて、新しい時代へ進もうとしているのです。もう戻ることはできません。

では、どうすれば「より良い変化」を考えることができるでしょうか。その答えは、「あらゆる知識を総動員し、自分の判断基準を確立すること」です。コロナショックを例にとるなら、医学だけで考えるのではなく、政治も経済も文化もあらゆる側面から考えたうえで、「自粛を続けるのか、解除するのか」を自分なりに判断するようなものです。国や自治体の判断に身を任せるのではなく、個人個人が自分で考えなければいけません。そういう時代になろうとしているのです。

本学で身につけてもらいたいのは、まさにこの力です。自分で考え、自分で判断して行動する人こそ、本学が育成したい人材です。別の言い方をするならば、新しい社会や時代を自ら作っていく人材、変化を生み出していく人材です。そのような人になりたいという気概を持った方はぜひ、本学でともに学び、切磋琢磨していきたいと考えています。

※日本学生支援機構調べ。関西学院大学は2018年度に、海外の協定大学等へ1833人の学生を派遣。これは、海外の大学などとの協定等に基づく日本人学生派遣数で国内の大学トップとなるものだった。同学では2020年4月現在、世界53カ国・地域で271校・4国際機関と協定を締結している。

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