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アメリカ合衆国のメソジスト監督教会から派遣された3人の宣教師が創設し、2024年には創立150周年を迎える青山学院。大学としては2019年に70周年を迎え、コミュニティ人間科学部が新設された。さらに、高大接続改革や大学入試改革など、同大の新たな展開に注目が集まっている。伝統と改革、青山学院大学が見据えるこれからのビジョンについて、阪本浩学長に語っていただいた。
入試でも入学後の授業でも、ポイントは「自ら考える力」
―青山学院大学の教育理念をお聞かせください。
まず、大前提として、キリスト教信仰に基づく「青山学院」の教育理念があります。それは「神の前に真実に生き、真理を謙虚に追究し、愛と奉仕の精神をもって、すべての人と社会とに対する責任を進んで果たす人間の形成を目的とする」というものです。
大学のカリキュラムで重視しているのは、幅広い教養を身につける、リベラルアーツ教育の伝統に沿った「青山スタンダード」という全学共通の教養教育です。学部学科を問わず、青山学院大学を卒業するときには身につけていてほしい一定の知識、技能を定めたもので、その第一段階はキリスト教の理解に関連する科目群です。
―守るべき伝統がある一方、高大接続改革や大学入試改革も進められています。
未来の日本を担う若者を育てるための改革が、高校でも大学でも進められています。ただ、大学入試が今までと同じ形態のまま進められたら、それは改革を阻害する壁にしかなりません。大学としても努力しなければいけないと強く感じています。共通テストでの英語外部試験や記述式問題は導入が先送りになりましたが、本学として進められる改革は積極的に進めていきたいと考えています。
高校の先生方も、予備校の先生方も、さまざまな工夫をして「考える力を伸ばす」指導をされていると感じます。高校生が主体的に研究した内容を発表する場面を目にすることがありますが、とても立派です。グループで文献講読を行い、意見を戦わせながらプレゼンテーションに落とし込んでいくプロセスを見ると、心の底から感心します。多くの知識を詰め込むよりも、実際に何かが起きたときに自ら考え、判断する力こそが重要なのであり、その判断内容を適切に表現する力を身につけ、社会で役立ててほしいのです。
私が大学で指導する歴史の科目では、結果的に正反対の解釈をしたレポートが学生から提出されることがあります。それでいいのです。知識ではなく自分の「考え」をストレートに書くことこそが大事なのです。
―英語教育についての考えをお聞かせください。
今や海外に限らず、国内でも英語は欠かせないツールの一つです。4技能すべてを駆使すべきシーンが広がっています。大学入試改革では、4技能を評価する手段となる英語外部試験の導入が延期されましたが、外部資格試験で英語力を評価する動きは突然発生したことではありません。高校でも従来から推奨され、英検等多くの高校生が積極的に受検しています。本学でも一部の入試で出願資格に外部資格試験を採用し、他の入試にも順次拡大させてきました。
それぞれの検定試験には長年にわたって蓄積されてきたノウハウと特色がありますので、それをどう公平に調整して統一基準を設けるかということに十分配慮すれば、とても有効な評価方法になるはずです。大学入学後の留学基準にもなる英語外部資格試験対策は、可能な限り継続してほしいと思います。
―貴学が今後実施する入試の特徴を教えてください。
本学がめざすのは、暗記した内容を再生する入試ではなく、各自が個性を表現してチャレンジできる入試です。ただ、それを一気に行うには難しい点もありますので、現状ではできるだけ多くの選抜方式を設けることで、受験生が自分に合った方式を選べるようにしています。
なお、大学入試改革の流れと受験生の負担を考慮すると、共通テストで基礎的な知識、学力を判定し、それに加えて本学が独自に記述式・論述式の問題や小論文、総合問題を課して選抜を行う併用方式を推奨したいですね。
原点回帰が未来志向の第一歩になる
―今後、青山学院大学はどう進化していくのでしょうか。
現在、さまざまな領域で「変革の時代」といわれています。そこで大切なのは、原点に立ち返って、青山学院大学の使命や特色を再確認することです。振り返れば、創立当時の授業は英語で行われていました。グローバル教育の重要性が叫ばれ始めるずっと以前のことです。そもそも本学は、グローバル人材が種をまいて開学した大学であり、グローバル教育の伝統が根づいています。さらに本学は、世界中に点在する数多くのキリスト教系大学と提携しており、世界最古の大学といわれるボローニャ大学をはじめ、各国のハイレベルな大学とも各種協定を締結し、総数は全世界で約150大学にのぼります。その伝統と意義、価値に着目しながら、現在は一部で実施している英語で学ぶ科目を拡充していきます。
このほかに、海外からの留学生と母国語で会話を行い、日本人の学生がキャンパス内で生の外国語にふれることができる「チャットルーム」の機能を充実させます。日本人の学生にとっては、ここでの経験が留学へと踏み出すきっかけにもなります。
また、大学教育とは、教養教育と専門教育が両輪となることで完結するものです。ですから、決して低学年次における教養科目を軽視してはいけません。だからこそ「青山スタンダード」という全学共通の教養科目をより充実させていくことに注力しているのです。
同時に、新入生向けには「フレッシャーズセミナー」というプログラムを設けています。所属する学部学科に関係なく、1年生が参加できる約20人のゼミ形式の授業です。大学ならではの学びにスムーズに移行してもらうための授業であり、これを拡充していきます。一方で、1年次の段階から「こういう方向に進みたい」「自分は将来こういう人材になりたい」という意識をもってもらい、その内容に応じた4年間の学習計画を立てる「キャリアデザイン・セミナー」を、少人数の演習形式で実施しています。教養教育、専門教育、グローバル教育、キャリア教育の融合こそが、本学の教育の真骨頂なのです。
―最後に、未来を切り拓いていく高校生にメッセージをお願いします。
理想論かもしれませんが、模擬試験で出た偏差値に応じて志望校を絞り込むような大学選びではなく、「どんな伝統があり、どんな勉強ができるのか」という物差しで、「自分の個性を生かせそうなこの大学で勉強したい」という思考プロセスを進めてほしいと思います。
入学者選抜の改革を進めている本学としても、そうした選び方をして大学受験にチャレンジする生徒に来てほしいのです。
さらに言えば、ステレオタイプ化された「積極的でやる気のある若者」でなくても構いません。自分なりの方法で現実社会の問題を発見し、その解決に自分なりにチャレンジしようとする姿勢をもつ人こそが、本学の教育に合うのではないかと思いますし、入学後も成長していけるのだと思います。
学長
阪本 浩 (さかもと ひろし)
青山学院大学文学部史学科卒業。東北大学大学院文学研究科西洋史学専攻を経て、1985年青山学院大学文学部史学科専任講師に就任、1999年に同教授となる。2016年から文学部長・大学院文学研究科長、2017年から副学長・青山スタンダード教育機構機構長を歴任する。2019年12月学長に就任。専門は古代ローマ史。西洋史研究会、日本西洋古典学会、キリスト教史学会などに所属。