高大接続改革が失速する中、 私立大が示す 高大接続改革の 方向性

高大接続改革が失速する中、 私立大が示す 高大接続改革の 方向性

大学入学共通テストの英語外部試験と記述式問題の導入が見送られ停滞感漂う高大接続改革。それでも、理念自体が否定されたわけではなく、これから求められる人材養成に向け入試改革に前向きな私立大は多い。高大接続改革の変遷と私立大の取り組みについて検証した 。


後退続きだった高大接続改革

高大接続改革の主軸となる「大学入学共通テスト(以下、共通テスト)」。その2本柱である英語の4技能を測る英語外部試験の活用及び国語と数学の記述式問題の導入が見送られたが、改革はそれ以前から大きく後退していた。共通テストが「大学入学希望者学力評価テスト(以下、評価テスト)」と呼ばれていた中央教育審議会(中教審)からの答申時(2014年)は、もっと多くの改革の柱があった。

中教審の答申では、知識・技能偏重の履修主義から修得主義に転換するために多面的な評価を重視した個別選抜を実施するとし、その中心に評価テストが据えられた。評価テストは資格試験的に取り扱うため、複数回実施および1点刻みから脱却した段階別成績表示にするとし、「思考力・判断力・表現力」を測るために合教科・科目型問題や総合型問題を出題するとされていた。各大学は評価テストと個別入試を組み合わせて多様な評価をするという枠組みが構想されていた。
これらの基本的な枠組みは、答申の実現に向けた具体的な方策を検討する高大接続システム改革会議による16年の最終報告で大半が見送り、もしくは引き続き検討とされた。残ったのは、学力の3要素のうち、「思考力・判断力・表現力」を問うために記述式問題を導入することと英語の4技能を評価すること。新たにマーク式問題をこれまでより「思考力・判断力・表現力」を問える形に改良することが加わったが、評価テストの理念は大幅に後退した。

英語外部試験と記述式問題に対する懸念が広がる

その後、評価テストは「思考力・判断力・表現力」と英語の4技能を問うという基本理念を引き継ぎながら、名称を共通テストに変えセンター試験の後継試験として作問や実施方法が検討され、記述式問題については国語と数学で実施、英語の4技能については英語外部試験の導入という形に収まった。

もっとも、この共通テストの2本柱については、当初から多くの識者が疑問を呈していた。英語外部試験については、「異なる試験を公平に比較できるのか」「経済事情から複数回試験を受けられる家庭とそうでない家庭がある」「試験実施場所へのアクセスや実施の公正性」などが問題視された。記述式問題については、「自己採点の困難さ」「50万人を超える受験者の解答を短期間で公平に採点ができるのか」などが指摘されていた。

これらすべての問題点が19年秋の萩生田光一文部科学大臣の英語外部試験に対する“身の丈発言”により噴出し、結果的に共通テストの2本柱の導入が見送りとなり、残ったのはマーク式問題を「思考力・判断力・表現力」を問えるように改善すること。準備を進めてきた受験生には気の毒な話だが、予想されていた事態を未然に防げたという観点から見送りは妥当といえよう。

当初の理念とは程遠い高大接続改革となったが、その端緒となった国際的な存在感の低下やAI・IT技術の進化、少子高齢化による生産年齢人口の減少、高校生と大学生の学力意識の低下、入試不問の選抜を行う大学の増加など、数多くの課題を抱えていることに変わりない。これらの課題を解決できる人材養成に向け、十分な「知識・技能」を備えた上で「思考力・判断力・表現力」を伸ばし、「主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度」という学力の3要素の伸長を目指す、高大接続改革を後退させるわけにはいかない。

共通テストをベースとした私立大の入試改革

文科省の施策が迷走しても、私立大の中には高大接続改革の理念を汲み、21年度以降の入試改革を推進する大学が少なくない。その方向性の一つが、現行のセンター試験より「思考力・判断力・表現力」を重視する方向に振られた共通テストの活用(後述の「主な私立大の共通テスト利用状況」参照)。学習院大や上智大のように、これまでセンター試験を利用していなかった大学も利用予定だ。

共通テストの利用法として、当初想定されていた共通テストと大学独自の試験を組み合わせて、アドミッションポリシーに則した選抜を行う大学も少なくない。早稲田大は一般選抜において政治経済、国際教養、スポーツ科の3学部で共通テストと大学独自試験を組み合わせて実施する。

青山学院大は個別学部日程において、経済学部を除くすべての方式で、共通テストと独自の個別試験を併用する方式を一部または全部に取り入れる。聖学院大は、共通テストと面接を組み合わせて選抜するD日程を設けている。

前述の上智大は、21年から共通テストのみもしくは、共通テストと大学独自試験を組み合わせた入試を実施する。大学独自の問題は、記述式を含む思考力を問う問題とし、文章理解力、論理的思考力、表現力など総合的な学習到達度を測定するとしている。試験は1または2科目が想定され、午前と午後の試験日程を設定し、4日間で8学部の入試を実施するとしており、入試スケジュールが立てやすくなる。

大学 所在地 学部 入試方式 大学独自試験など
北海学園大 北海道 共通テスト利用
東北学院大 宮城 共通テスト利用
聖学院大 埼玉 一般選抜B・C・D・E日程 〇(日程による)
獨協大 埼玉 共通テスト利用
青山学院大 東京 全(経済を除く) 個別学部日程
東京 共通テスト利用
亜細亜大 東京 共通テスト利用
学習院大 東京 全(経済-経営、理-物理・数・生命科を除く) 共通テスト利用
國學院大 東京 共通テスト利用
国士舘大 東京 共通テスト利用
駒澤大 東京 共通テスト利用
上智大 東京 共通テスト利用、併用型 〇(併用型のみ)
成蹊大 東京 共通テスト利用、共通テスト・独自併用選抜 〇(併用方式のみ)
成城大 東京 共通テスト利用(B方式)
専修大 東京 共通テスト利用
大東文化大 東京 共通テスト利用
中央大 東京 共通テスト利用単独方式、併用方式 〇(併用方式のみ)
帝京大 東京 共通テスト利用 〇(医、薬、医療技術、福岡医療技術)
東海大 東京 共通テスト利用
東京理科大 東京 一般A方式
東京 全(理二部を除く) 一般C方式
東洋大 東京 共通テスト利用 〇(併用型のみ)
日本大 東京 共通テスト利用 〇(併用方式のみ)
法政大 東京 共通テスト利用
武蔵大 東京 共通テスト利用
明治大 東京 共通テスト利用
明治学院大 東京 共通テスト利用
立教大 東京 一般
東京 共通テスト利用
早稲田大 東京 政治経済 一般
東京 政治経済 共通テスト利用
東京 国際教養 一般 英語
東京 スポーツ科 一般A、B、C 〇(A、C)
東京 共通テスト利用
東京 文化構想、文 共通テスト利用 外国語、国語
東京 社会科 共通テスト利用
東京 人間科 共通テストのみ方式
東京 人間科 数学選抜方式 数学
神奈川大 神奈川 共通テスト利用 〇(併用型のみ)
金沢工業大 石川 共通テスト利用
岐阜聖徳学園大 岐阜 共通テスト利用 〇(併用型のみ)
愛知大 愛知 共通テスト利用
愛知学院大 愛知 共通テスト利用 〇(併用型のみ)
中京大 愛知 共通テスト利用 〇(併用型のみ)
南山大 愛知 共通テスト利用 〇(併用型のみ)
名城大 愛知 一般選抜F方式
愛知 共通テスト利用C方式
京都産業大 京都 共通テスト利用
同志社大 京都 共通テスト利用
立命館大 京都 共通テスト利用 〇(併用型のみ)
龍谷大 京都 共通テスト利用 〇(併用型のみ)
追手門学院大 大阪 共通テスト利用
関西大 大阪 共通テスト利用 〇(併用型のみ)
近畿大 大阪 共通テスト利用
摂南大 大阪 共通テスト利用、併用 〇(併用型のみ)
桃山学院大 大阪 共通テスト利用(C方式)
関西学院大 兵庫 共通テスト利用、併用型 〇(併用型のみ)
甲南大 兵庫 全(文、フロンティアサイエンス、知能情報、理工の一部を除く) 一般選抜後期
兵庫 共通テスト利用・併用 〇(併用型のみ)
神戸学院大 兵庫 共通テスト利用
広島修道大 広島 共通テスト利用 〇(併用型のみ)
松山大 愛媛 共通テスト利用
西南学院大 福岡 共通テスト利用、一般・共通テスト併用型 〇(併用型のみ)
立命館アジア太平洋大 大分 共通テスト利用 〇(併用型のみ)

高大接続を重要視した入試設計をする大学も

立教大は共通テストによる選抜に加え、高校で英語の4技能を学ぶようになったことを受け、高大接続の観点から一般選抜における英語を英語外部試験で評価する方針を打ち出した。ただ、今回の共通テストでの活用見送りを受け、過渡的な措置としてしばらくは共通テストの英語で代替可能としている。一般選抜は全学部日程に一本化されるが、原則として最大5回の受験チャンスがある(理学部は2回)。共通テストにおける英語外部試験の活用が見送られても、グローバル化促進に向け、一般選抜で民間英語試験を活用する大学は、今後も増え続けると見られている。

入試改革を進める大学がある一方で、これまでも多様な選抜方式を設けるなどして求める人材を獲得できていた大学は、一般選抜を大きく変えず、センター利用入試を共通テスト利用入試に置き換える程度にとどめる大学もある。入試改革を進めるのか現在の状況を維持するのかは、それぞれの大学の考え方次第ということだ。

中教審の高大接続改革に関する答申の表題「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」に添えられたのは、“すべての若者が夢や目標を芽吹かせ、未来に花開かせるために”という一文。この実現のために、英語4技能の修得や学力の3要素を伸ばす必要があり、これまでの高校の授業が無駄になるわけではない。文科省主導の高大接続改革が停滞しても、これまで取り組んできた高校教育を後退させないことが望まれる。

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