2020年入試展望 医療系学部

2020年入試展望 医療系学部

意識の高い受験生は、将来の就職を考えて志望校を選ぶのが当たり前になってきている。業績が好調な大企業に就職しても先行きが不透明であり、将来が保証される時代ではないからだ。そこで、受験生に人気なのが国家資格を取得できる学部。その代表例が医、歯、薬、獣医、看護などの医療系学部だ。

ここでは医療系学部・学科について、過去の入試状況を振り返りながら2020年入試を展望しよう。

医学部

近年、積極的に定員増が実施されてきた。国は高齢化社会の進展、地方における医師不足、小児科や産婦人科などの診療科別の医師不足といった深刻な問題に対処するため、医学部の定員を増やしてきたのだ。

近年は医学部の新設も続いた。16年に東北医科薬科大に37年ぶりに新設され、翌年は国際医療福祉大にも新設された。今春の医学科の定員は9420人で、07年の7625人から11年間で1795人、約24%も増加した。

定員増で間口が広がった影響もあり、医学部の志願者は増加傾向だ。「医療系学部の志願者推移」を見てほしい。09年の10万5929人から、14年には14万3667人まで上昇。19年はやや減少して13万6222人となったものの、依然として高い水準だ。

根強い人気の医学部だが、19年度で定員増が終了し、今後は削減の方向に進む。例えば来春の国公立大の入学定員については、10月時点で東北大の19人減をはじめ、11大学で65人の減員が発表されている。さらに、来春入試に臨む医学部志望者は、国公立大と私立大ともに減少しているが、それでもハイレベルな入試になることは間違いなさそうだ。

歯学部

志願者減が続き10年には8323人まで落ち込んだが、11年から緩やかな増加傾向に転じ、19年はここ10年で最多の1万3572人となった。志願者減の危機感から、大学が様々な改革を打ち出したことが志願者増につながった。

私立大では、学費減額に加え、特待生制度や奨学金制度の充実が進んでいる。入試成績優秀者への制度としては、北海道医療大には、入学から最大で6年間、国立大との学費の差額を免除する奨学金がある。日本大には歯学部が1~3年次で計280万、松戸歯学部が1年次200万円を減免する制度がある。愛知学院大では来春から、これまでの特待生制度に加え、入試成績優秀者に1年次520万円、さらに6年間で最大1395万円を給付する奨学金制度を新設する。

志願者が回復してきたとはいえ、今春の歯学部の志願者はピークだった04年の約81%で、入試のハードルが下がっていることに変わりはない。特に私立大は学費減額や入試方式の拡充でますます受けやすくなっており、歯学部志望者にはチャンスが続きそうだ。

薬学部

06年に薬剤師国家試験の受験資格を得るための修業年限を4年から6年にする制度変更がなされた。学費の負担増もあり、私立大を中心に志願者が減少。05年に15万人近くいた志願者が、翌06年には10万人ほどに落ち込んだ。その後も志願者数は減り続け、10年には約8万3千人まで落ち込んだが、11年に増加に転じた。経済不況による資格志向の高まりとともに、6年制が当たり前と考える受験生が増えたことが要因だ。6年制になって最初の卒業生が出た12年の薬学系の平均実就職率(*)が93.5%と高かったことも後押しをしたとみられる。

しかし現在は、大学生の就職状況の好転による文系人気や、薬剤師国家試験の合格率の低下などの要因により、再び志願者が減少局面にある。18年には公立の山陽小野田市立山口東京理科大で10年ぶりに薬学部の新設があったが、薬学部全体の志願者は減少、19年はさらに減少して9万8044人となった。今後も薬学部志望者には入りやすい状況が続きそうだ。

獣医学部

獣医師は、狂牛病や鳥インフルエンザなど、家畜伝染病の流行もあり、人材のニーズが高まっている。

16年の農林水産省のデータによると、登録されている3万8985人の獣医師のうち、犬や猫などペットの診療に関わる獣医師が全体の39.3%と最も多い。一方、牛や豚など産業動物を扱う個人診療施設の獣医師は4.8%、畜産や公衆衛生に寄与する公務員獣医師も24.2%で、家畜や伝染病に対処できる獣医師が不足しているのは明らかだ。人々の食の安全に対する関心の高まりを見ても、獣医師は今後ますます活躍の場が増えることが期待できる。

私立大では18年に四国地方で産業動物を扱う獣医師の不足を補うため、岡山理科大の今治キャンパスに52年ぶりに獣医学部が新設されて大きな注目を集めた。

「医療系学部の志願者推移」を見ると、10年まで減少傾向だったが、11年からは増加傾向に転じている。18年は学部新設の効果もあって過去10年で最高の1万5593人となった。しかし19年はやや減少しており、今後が注目される。

看護・保健系学部

資格系学部人気の中でも、特に志願者が増えているのが看護や保健、医療技術系の学部・学科だ。この系統で取得できる主な資格は、看護師、保健師、作業療法士、理学療法士、診療放射線技師、管理栄養士など。就職先は、病院や診療所はもちろん、公務員や高齢者施設、医療機器メーカーなど幅広い。中でも注目度が高いのは看護系だ。「医療系学部の志願者推移」を見てほしい。志願者数を10年前と比較すると約2.6倍に達している。地元志向が強い地方の受験生にとって、地元での就職活動を有利に進められる看護師資格は魅力的なのだろう。

看護系は全国的な看護師不足もあり、ここ数年、新設が続いている。20年も新設1大学を含め4大学で新設予定だ。近年、志望者の増加が続いてきた看護系だが、20年入試に向けての動向は落ち着いている。定員が増えていることもあり、20年は入試状況が緩和される大学もありそうだ。

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