電気自動車を変える新構造のモーターを学生主体で製作

電気自動車を変える新構造のモーターを学生主体で製作

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電気自動車に使われるモーター技術は200年近い歴史を有する。こうした成熟分野にブレイクスルーを起こすには、新しい材料や制御技術など、複数分野の知見を組み合わせることが欠かせない。金沢工業大学の寺家尚哉さん(富山工業高校出身)が研究する新しいモーターは、これまでにない構造を採用することで性能を大きく向上させた。研究の基盤となった金沢工業大学の環境とともに紹介する。

モーターに「永久磁石」と「電磁石」を併用する新しい試みを学生が考案

これからの発展が期待される電気自動車。バッテリーの電気でモーターを回して動かすため、モーターの発展が今後の自動車の性能に直結する。金沢工業大学(KIT)大学院電気電子工学専攻2年の寺家尚哉さんは、「磁束変調ハイブリッド界磁モーター」と呼ばれる、既存のモーターよりも“高性能”なモーターの研究を行っている。企業や大学の技術者や研究者が参加した8月の電気学会産業応用部門大会でその成果が発表され、寺家さんは「ヤングエンジニアポスターコンペティション(YPC)優秀論文発表賞」を受賞した。

目指したのは、既存のモーターに比べて全ての運転状態において効率が良く、かつメンテナンス性の面でも優れたモーターを作り出すこと。そのために「アキシャルギャップ構造」という新しい構造と「磁束変調」と呼ばれる技術を採用し、モーターに使われる磁石に「永久磁石」と「電磁石」を併用している。

既存のモーターは永久磁石のみが使われるため、ある特定の運転状態に性能が偏ってしまう。たとえば負荷が低いときに効率の良いモーターは、負荷が高い時には効率が悪くなる。寺家さんが提示したモーターは、電磁石を併用することで運転状態に合わせて磁力を最適化させることを可能にした。アキシャルギャップ構造と磁束変調は回転部分の摩擦低減や冷却効率上昇に寄与している。

寺家さんは研究において、自ら製図を行うなど実験機の設計と製作も手掛けている。最適な寸法などをコンピューターでシミュレーションし、電磁石の作成やパーツの組み込みといった製作作業を自らの手で行った。こうして完成した実験機から得られたデータは、仮説を実証するものだった。

「シミュレーションと実測値でほとんど誤差がない結果が出て、運転状態に合わせた磁束(磁界の強さ)の調整ができることが実証されました。磁力を運転状態で変化させることで効率も改善されています」

このモーターが実用化できれば、エネルギー効率が良く、パワーも出しやすい電気自動車ができあがる。永久磁石の一部を電磁石に置き換えることでレアアースの必要量も半減するので、コスト面のメリットも大きい。

何も分からない状態から試行錯誤のモーター製作

寺家さんの研究の特徴は、自らの手で実験機も作り上げてしまったところにある。こうしたモーターはメーカーに外注すると3〜400万円ほどかかるが、それを内製することで費用を約100万円に抑えたそうだ。

ただ、それでも高額なことには変わらない。研究室の深見正教授が製作を任せてくれたことに寺家さんは感謝しているという。

「深見先生が『作りたいんだったら作ってみろ』と声をかけてくれて。普通はそんなにお金がかかるものを作らせないですよね」

KITの学生がものづくりの面でこれほど信頼されているのは、KITが誇る「夢考房」や「プロジェクト活動」の存在がある。夢考房は学生がアイデアを形にするための施設で、金属3Dプリンタなどの各種工作機械やパーツショップ、検証スペースが揃う。寺家さんはこの夢考房で行われる「エコランプロジェクト」という、省エネルギーの電気自動車をつくるプロジェクトに学部1年の時から参加。大学生活を通してモーター作りに取り組んできた。

「高校まではソーラーパネルに興味があったのですが、入学後に夢考房で先輩に電気自動車を見せてもらい、モーターのかっこよさに一目惚れしました」

モーターを作ろうと決めたものの、当時は既製品のモーターを使っていたので、モーター作りが分かる人は周りに誰もいなかった。そこで寺家さんは大学のLC(ライブラリセンター)で文献を読み漁り、基礎からモーターの勉強を始めた。過去に別のプロジェクト活動でモーターに取り組んでいた卒業生に連絡したり、出場していないエコランの大会に足を運び、企業の技術者の手伝いをしながら話を聞くなど、情報収集も積極的に行った。この時期が一番辛かったと寺家さんは振り返る。

「動作原理など何も分からない状態から、いろいろな人の協力や大学の設備を利用させてもらいながら、なんとか進むことができました。自作のモーターに入れ替えるならば、既製品の性能を超えることが絶対条件。最初は自分自身も半信半疑でしたが、挑戦せずに諦めるのは嫌だったのでダメなら後で考えようと」

学生主体のものづくりが中心にあるKITの教育

ものづくりの場である夢考房で勉強した知識を実際に試してみることで、勉強した内容が深く身についた面もあると寺家さんは言う。夢考房には学科を問わず有志の学生が集まっていて、さまざまな学科の学生と知識を共有できる空間が広がっている。モーター作りには電気・機械・材料など複合的な分野の知識が必要になる。寺家さんはKITの環境を存分に活用して幅広い知識を学ぶことで、定常走行下で既製品の性能を3%上回るモーターを作り出した。

こうした学部時代の経験は大学院での研究にも生かされている。実験機を製作して検証するまでを自分自身で行うという、周りの研究者がほとんどやらないことを達成できたのも、経験と環境の両方が揃っていたためと言えよう。

今後について寺家さんは、「業界のベンチマークとなりうる新構造のモーターを設計して、業界を変えるような貢献をしたい」と話す。

KITのことは高校時代から、他大学と比べても日本で一番「学生主体のものづくり」に取り組める大学だと認識していたそうだ。

「学生が図面を描く経験を積めて、モーターも自作できる『夢考房』のような設備が整っている大学は他にないのでは。さまざまなプロジェクトや産学連携の取り組みがあるので、モーターだけでなく自動車やギターなど自分の作りたいものが何でも作れます」

アイデアを考え、設計し、プロトタイプを作って検証する。ものづくりに存分に取り組みながら、それを研究に結びつけていける環境がKITには用意されている。

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