増える「返済不要型」の奨学金
経済的な事情で大学進学の道が閉ざされてはならない。そうした受験生救済のため、2020年度(20年4月入学者が対象)から、住民税非課税及び準ずる世帯の受験生を対象として、授業料の減免と給付型奨学金を柱に据えた、高等教育の無償化が始まる。
給付型奨学金はJASSO(日本学生支援機構)がすでに実施しており、20年度から給付額がアップする。月々の給付額は、自宅通学者は国公立大が約3万円で私立大が約4万円。自宅外通学者は国公立大が約7万円で私立大が約8万円(家計の状況等により給付額は異なる。20年度の受付は終了)。
高等教育無償化の対象になるのは、年間所得が約380万円以下の世帯だが、対象外の世帯が必ずしも楽に大学進学ができているわけではない。国税庁発表の「民間給与実態統計調査」によると、17年の平均給与は約430万円。ここから捻出する初年度の学費の合計を見ると、国立大は全学部が約82万円だが、私立大は商・経済・経営系が約126万円、理工系が約164万円、医学部が約735万円と高額だ。そうした背景から奨学金を利用している世帯は多く、大学生のおよそ3人に1人がJASSOの貸与型の奨学金を利用している。代々木ゼミナール教育総合研究所主幹研究員の坂口幸世さんは言う。
「利用している学生が多いということは、奨学金が一般的になっているということ。大学進学のためにすべきことを考え、必要なら貸与を受けるべきです。もちろん、卒業と同時に借金を背負うことになるので、貸与額は慎重に決めなければなりません」
充実する大学独自の給付型奨学金制度
既存の貸与型奨学金の上に、高等教育無償化が乗る形で公的な奨学金制度の拡充が進む。一方、大学は先行して、独自の奨学制度を充実させてきた。その一部ではあるが、50ページの「全国有名298大学 給付型奨学金一覧」に、入試と連動した給付奨学金制度を掲載した。
この中で、対象学生数が多いのは白鷗大。合格すれば授業料が国公立大より安くなる学業特待入試で、入学定員の3割程度を募集する。
「国公立大の一般入試は、中期日程を入れて3回。国公立大との学費差を埋める奨学金制度があると、私立大も国公立大志望者の併願対象となるので、受験機会が増えます」(代ゼミの坂口さん)
金沢工業大は入試の成績に応じて、年額25万円を給付するスカラシップメンバーを選考し、その中から、面談と出願書類により、国立大との差額分を給付するスカラシップフェローを選抜する。
授業料や入学金を大幅に免除する大学も多い。国士舘大は、特定の入試の成績上位者を対象に、入学金と授業料を免除。4年間の免除額は最大で566万円(19年度入学者実績)になる。専修大もスカラシップ入試の合格者に対し、4年間の授業料と施設費を免除する。明治大は特に申請の必要はなく、入試の成績上位者に授業料相当額を給付。近畿大は一般入試の成績上位者に対し、学部により授業料の全額もしくは半額を免除する。こうした入学金や授業料の減免をする大学は、国公立大と私立大ともに数多くある。
奨学金受給で充実した学生生活を送る
神奈川大は、4年間分の授業料を超える奨学金を給付する。給費生試験の合格者は、自宅外生で生活援助金を含めた場合、4年間最大で840万円が給付される。給費生はアルバイトなど学業以外の時間を取られることが少ないため、海外留学など様々な活動に積極的に取り組む傾向にあると言う。
当然、入試の成績上位者が対象となる給付型奨学金のハードルは高い。では、一般的な入試と比較してどの程度の難易度差を見積もっておけばいいのだろうか。代ゼミの坂口さんに聞いてみた。
「合格確実な大学の難易度から4〜5P程度下げないと奨学金給付対象者として合格することは難しい。それでも、経済的に厳しいのなら出願すべきです。ただ、後悔しないために第一志望も必ず受けてください。合格校が出そろったところで、奨学金を活用して第二志望に行くのか、学費を払って第一志望に行くのかを決めることをお勧めします」
成績上位者というハードルがない分、給付額は抑え目だが、入試の成績と関係なく合格と同時に給付が受けられる事前予約型の奨学金制度もある。首都圏では早稲田大や慶應義塾大、青山学院大、学習院大、中央大、法政大、立教大、神奈川大。近畿圏では、同志社大、立命館大、関西大、関西学院大などが実施している。首都圏の大学の多くが1都3県(東京、埼玉、千葉、神奈川)以外の出身者を対象とするなど、出身地や家計の状況など出願条件はあるが、クリアしているなら活用したい。
公的なものから大学独自のものまで、様々な進学支援制度が用意されている。家計状況が大学進学の足かせにならないよう、進路指導の視点の一つに奨学金制度を加えてほしい。