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学習院大学の文学部教育学科は開設4年目を迎え、一期生が高い教員採用試験の合格実績をあげた。その要因はどこにあるのか、教育学部全体を取り巻く課題とともに佐藤学教授に聞いた。
―教員養成系の志望者が減少しています。今後の動きをどのように見ていますか。
少子化の影響で私立大全体が厳しくなる中、教員養成系も志望者が減少しています。そういう状況にあって、教員養成系の学部や学科を設置した大学の教員採用試験の合格状況は、決して良いところばかりではありません。今後10年のうちにいくつかの学部や学科は、改組に踏み切ることが予想されます。
―教員養成系を取り巻く環境が厳しくなる中、生き残るのはどういう大学ですか。
社会的に高い評価を得られる学生をどれだけ輩出できるか、つまり教員養成の質の問題です。社会的な信頼度が高い大学は、優秀な人が受験しますし、大学の教員の力量と相まって、質の高い教員教育ができます。
世界的に教員教育の水準が大学院レベルに移行している中、日本は非常に遅れています。欧米は、医師養成と同じレベルで教員教育を行っています。日本だけが現状に留まることはできません。
すでに3年前の中央教育審議会も修士号を基礎資格とする方針を打ち出しているので、あとはどの段階で踏み切るかです。そうなると、将来的に修士課程もしくは、教職大学院を持っている大学は強いと思います。今後、学部生を中心に教員教育をする大学と、修士号を取得できる大学院もしくは、教職大学院を中心に教員教育を行う大学に二極化するでしょう。
大学としての理念や哲学があるかも重要です。アドミッションポリシー、アカデミックポリシー、カリキュラムポリシーを明確に持っている大学でないとこれからは厳しいでしょう。
【知識活用型授業に対応できる未来志向の教員養成】
―学習院大学は未来志向の教員養成を目指すとしています。
学校で学ぶ様式が変化しています。アクティブラーニングはそのひとつですが、それと同時にカリキュラムが知識活用型に変わってきています。同時に、子どもをめぐる問題や地域と学校をめぐる問題がとても複雑化しています。そうした状況に対応できる教員を養成するために、高い専門性を持って、地域に根差した教育を行うと同時に、グローバル化に対応するため、国際的に通用する、未来志向の教員教育を行っているのです。
―文学部教育学科は完成年度を迎えました。一期生はどのように成長しましたか。
実践的な探求と学習院大学が誇る教養教育を結びつける。さらに現代的課題である環境教育や市民性の教育、あるいは国際理解教育という柱を鮮明にした教員教育を4年間続けてきました。その結果、学生たちは趣旨をよく理解して成長していると思います。教育学科一期生の内、教員志望の学生全員が教員採用試験の一次試験に合格しました。2次試験の合格率も8割以上になると思います。今の日本の教育課題への貢献、あるいはその先端を切り拓ける教員になってほしいですね。
【多様な能力を持った教員の養成が求められている】
―日本の教員養成の課題とは。
小学校教員に求められる能力や資質、知識はかなり曖昧なのです。そのため、小学校教員の養成は本当に難しく、世界的に見ても、まだ模索中です。子ども好きで人間性が溢れていて仕事が誠実ならば、教えられると思われがちですが、それだけで教員は務まりません。これまで、学んだ先生に憧れて自分もそうなりたいと教員を目指すケースを多く見てきました。スタート時点はそれでいいのですが、実際に教員になると、多様な能力が総合的に求められます。算数ひとつでもそうした能力が求められるのに、全教科を教えなければならないのでとても難しいのです。
教科の基本となる教養をしっかり持ち、しかも学年段階に応じて様々な発達レベルの子どもたちの状況や背景を理解して子どもと関わっていかなければなりません。教えるための総合的な能力が小学校教員に求められるのです。こうした能力を養成段階から形成し、さらに学校に入ってからも学び続ける教員に繋げていくことがとても大きな問題なのです。これができてい
ない教員が多いので、最近は中途で退職するケースが増えているのです。大学院まで接続して、6年間かけて養成できれば、もう少し余裕があるのですが。
―20年から小学校の英語が教科化されます。
小学校での英語の教科化には賛否両論があります、英語教育学の専門家や英語教員など、英語で仕事をしている人たちは反対しています。理由は、早期に始めたからといって効果が上がるものではないからです。英語の専門教育を受けてきた教員を配置せずに中途半端な英語教育をやってしまったら、マイナスになってしまいます。英語の有能な人材を育てるなら、ネイテ
ィブ教員と専門的な英語教育を受けた教員が協働するしかないと思います。
―英語教科化に対してどのような対応をしていますか。
小学校の英語教育がもたらす影響を認識している先生が授業を担当しています。学生も英語教育の課題を認識していて、子どもにとって意味のある英語教育はどういうものかを探索しています。国際会議の運営など、英語を使う機会を数多く提供することで、学生は英語で交流するスキルを養っています。
【小学校教員は日本社会を支えるやり甲斐ある仕事】
―教育学部を目指す受験生にアドバイスをお願いします。
21世紀は教育によって社会や経済、産業が作られていく時代です。そういう時代に小学校教員の責任や役割りはとても大きいと思います。小学校の教育において、一人残らず子どもたちの学びを支え、質の高い学びを保障しなければ、その子たちは社会に参入できなくなってしまい、社会全体がよどんでしまうでしょう。現在、GDPに占める日本の教育の公共投資額は先
進国の中で30位ですが、70年代まではトップでした。それが日本の社会の繁栄や平和と文化の発展を促してきたわけです。そうした時代が再来すると思います。それを根幹で支えるのは小学校教員です。
さらに教育学は奥が深く幅の広い学問であり、社会で生きて行く学問なので学び甲斐があります。教員という仕事は働き甲斐とやり甲斐がある仕事なので、ぜひ希望を持って目指してほしいと思います。
―学習院大学が望む受験生像は。
まず学ぶことが好きであること。それから、子どもや社会、文化のことを考えることが好きで、それに対して問いを持って探求できること。そして、機械的な形式的な仕事よりも、創造的な仕事にチャレンジしてみたい受験生を待っています。実際、教育学科の学生はそういう先輩たちばかりです。