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国際基督教大学(ICU)は2025年度入試(25年4月入学)から一般選抜の方式を変更する。もとより他大学と一線を画し、文系・理系にとらわれない教科横断型の適性試験で多様性あふれる受験生に門戸を開いてきたが、献学以来掲げるリベラルアーツ教育との出会いの場として、さらに役割を進化させる。アドミッションズ・センター長の毛利勝彦教授が、求める学生像や大学での学びにつながる入学者選抜制度について縦横に語った。
取材 堀 和世
特別な対策は不要な入試で「何とかする力」を評価する
アドミッションズ・センター長 教授
毛利勝彦(もうりかつひこ)
⃝専門
国際関係学、グローバル・ガバナンス論。
⃝主な研究テーマ
持続可能な開発と地球環境ガバナンス、グローバル・ガバナンスの国際政治経済学的接近、国際関係学のアクティブ・ラーニング(政策ディベート、ケース・メソッド教授法など)。
⃝学歴
1983年 横浜市立大学文理学部国際関係課程卒業
1987年 国際大学大学院国際関係学研究科修士課程修了
1994年 カールトン大学大学院政治学研究科博士課程修了
⃝職歴
2004年 国際基督教大学教養学部国際関係学科准教授
2007年 教養学部副部長/教養学部教授
2013年 アドミッションズ・センター長
2017年 4月1日より現職
―「リベラルアーツ」の大学ならではの入試とはどんなものなのか、教えてください。
他大学の一般選抜では、高校で学ぶ各教科に基づく学力検査を行うのが普通なのに対して、ICUでは適性検査(aptitude test)と位置づけています。学力検査で問われる教科・科目の基礎力と応用力をもっていることを前提に、ATLASと呼んでいる「総合教養」の試験によって、英語でいうcompetency、すなわち「課題解決力」をみています。
数学や国語、理科、地理歴史という教科の切り分けになっていないので、受験しにくいと思われがちなのですが、通常の高校の授業で培われた学力を踏まえた上で、いわゆる〝地頭力〟をみる試験ですので、特別な対策は要らないのです。その点は一般選抜に限らず、総合型選抜や学校推薦型選抜でも同じです。
―特別な対策が要らないとはどういうことですか。
マニュアル的な受験対策が要らないという意味ですね。何が出題されるか分かりませんし、逆にどんな問題が出てきても「何とかする力」をみています。
具体的にいえば、ATLASの試験で簡単な化学式が出題されることがあります。例えばブドウ糖の構造式を示し、植物が光合成を行う時の二酸化酸素や水などの分子の数を問います。化学反応の前と後で元素の数が変わらないのは中学の理科で習った知識です。それさえ知っていれば四則演算で答えが出ます。しかし文系の生徒の中には化学式を見ただけで解くのを諦めてしまう人がいます。実際は単純な計算をすれば答えが導き出せるので、そこにチャレンジするかどうかをみています。
ATLASには音声講義を聴いて答える設問もあります。詩や音楽が流れたりすることもあり、必ずしも得意分野ではない理系の人は尻込みすることもあるでしょう。しかし〝見えないもの〟へのイマジネーションは分子生物学や天文学などの分野でも大事です。そこに挑む適性をみる試験を作っています。中学、高校で得た基礎学力をもっていれば解ける問題を出題しています。
英語を「話す力」だけでなく話したい中身をもっているか
―まさに他大学にはないユニークな試験方式ですね。
なぜこういう試験をやっているかというと、ICUの一般教育科目を模擬体験し、リベラルアーツがどんなものかを俯瞰してほしいからです。ATLASはAptitude Test for Liberal ArtSの略ですが、「世界地図」の意味もあります。リベラルアーツの世界をプレビューする地図という意味を込めて、この名前をつけています。
ATLASに限らず、ICUの入試は英語も面白いんです。リスニングでは例えば、教授にオフィスアワー(授業以外に教員の研究室を訪ね、自由に質問できる時間)のアポイントメントを取る場面の会話であったり、キャンパスで実際に使われている英語が出題されます。リーディングも自然科学、人文科学、社会科学のミニ講義を読む内容になっています。ICUのバイリンガル教育、特に英語での生活に対する適性をみています。
―そう聞くと、ICUに入学するには、英語力のハードルが非常に高いと感じる受験生も多いのではないでしょうか。
いわゆる受験英語ではなく、「使える英語」を身につける適性が大事です。一般選抜で入学すると、リベラルアーツ英語プログラム(ELA)という語学プログラムが必修になります。他大学の4〜5倍の時間をかけて少人数で集中的に英語を学び、2年間で交換留学に行けるレベルにまで英語運用力を高めます。ですから入学時点でそれほど高い英語力は必要ありません。
2025年度入試の一般選抜から新たに「日英バイリンガル面接利用」という方式が行われます。ICUの英語試験はマークシートでリスニングとリーディング、そして文法と語彙を問うクローズ(穴埋めテスト)によってライティングの基礎力を問いますが、スピーキングの力が測れません。そこでこの新しい方式では日本語と英語で面接を行います。「バイリンガル」という言葉が難しい印象を与えているかもしれませんが、高度なスピーキング能力を求めているわけではなく、高校卒業レベルの英会話力で対応できると思います。
―具体的には高校時代にどんなふうに英語に取り組めばいいのでしょうか。
ICUには英語のネイティブスピーカーから帰国生、そして「純ジャパ」といわれる日本の教育体系で学び、海外に一度も行ったことがない人まで、さまざまな背景をもつ人が混在しています。そういうキャンパスの中で暮らすことを考えると、必要なのは英語力というより、対話力なんです。ICUではよくLearn Englishではなく、Learn through English、つまり英語を通じて何を学ぶのかが大事だと言っています。英語を話せるというだけではなく、話したい中身をもっているかどうか。それを英語を使って話す意志があるかどうか、そういう対話力を入試ではみています。学びたいという動機があれば英語力自体は入学後に身につきます。
広い領域への知的好奇心を養い「?」を「!」に変える学びの場
―改めて「求める学生像」について教えてください。
アドミッション・ポリシー(入学者選抜の方針)には四つのポイントがあります。一つはリベラルアーツの基本であるロジカルシンキング(論理的思考力)とクリティカルシンキング(批判的思考力)です。他大学でも入試には長文読解が出題されますが、ICUの人文・社会科学の問題はいわば「超長文」です。1万字程度の文章を「主張」と「論拠」と「証拠」に分けて読むことが必要です。ある主張が本当に正しいのかどうかについて、なぜそう言えるのかという理由付けと、具体的なデータやエビデンスに基づいて読み込んで理解し、解答します。
二つめと三つめはこれまでにお話ししてきた対話力(コミュニケーション能力)とチャレンジ精神です。そしてもう一つ、文系・理系にとらわれない広い領域への知的好奇心をもった人を求めています。
―幅広い知的好奇心とはどんなことを指していますか。
雪が解けたら何になりますかという質問があります。自然科学の視点では水になるのですけれども、人文科学的には雪が解けたら春になる。私が専門とする国際関係学など社会科学で「雪解け」と言えば、冷戦が終わって平和になることを意味します。ですから答えは三つあり、リベラルアーツでは全部正解です。「物事には常に違う見方がある」、そういう視点に立って関心をもつ姿勢が必要です。
知的好奇心とは「?」(クエスチョンマーク)だと思います。なぜ貧困があるのか、どうして戦争はなくならないのか。そういう「?」に対して、いろいろな学問分野がああでもない、こうでもないと言って答えを見つけ出そうとする。大学とはまさに「?」を「!」(エクスクラメーションマーク)に変える場だと思っています。
リベラルアーツをよくオーケストラのようだと言う人がいますが、私は全てのメジャー(専修分野)を学ぶことがリベラルアーツではなく、むしろコンチェルト(協奏曲)ではないかと思います。オーケストラをバックに得意な楽器を奏でること、つまり他の学問分野の知識を背景に自分のメジャーを突き詰めていくことではないか。深い穴を掘るためにはまず地面を広く掘らなければいけません。そして最終的には自分の得意な部分を深く掘り下げるのです。
―文系・理系にとらわれないという考え方はそこに根ざしているのですね。
国際関係学の課題でいえば、核兵器をなくすためには核分裂と核融合、放射能と放射線の違いなど物理学が分からないとだめですし、社会科学的には安全保障がなぜジレンマに陥り、軍拡していくのかを考える必要があります。さらに「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」とユネスコ憲章がうたう世界の実現には人文科学的な教育の力が欠かせません。いろいろな探究をしていかないといけませんが、その中で自分ができるところ、得意分野からアプローチしていく、それがリベラルアーツです。
一般選抜は3方式まで併願可能 併願割引でチャレンジを応援
―25年度入試は一般選抜がこれまでのA方式(総合教養、英語、人文・社会科学または自然科学)、B方式(総合教養、英語外部試験、個人面接)から、①人文・社会科学選択②自然科学選択③日英バイリンガル面接利用④英語外部試験利用の4方式に再編されます。
日英バイリンガル面接利用と英語外部試験利用は併願不可ですが、それ以外は3方式まで併願できるので、11通りの組み合わせがあります。ICUを目指そうという人は文系(人文・社会科学)と理系(自然科学)、どちらの科目も得意なことが多い。そういう人には複数の受験機会がありますし、日英バイリンガル面接や英語外部試験に挑むチャレンジ精神があれば、プラス一つチャンスが増えます。そういうチャレンジをしやすくするために、併願割引も充実しました。
―ICUは教養学部アーツ・サイエンス学科の「1学部1学科」です。なぜ受験パターンが11通りも必要なのでしょうか。
1学部1学科なのですが、31ものメジャーがあります。ダブルメジャー(主専攻×2)▽メジャー、マイナー(主専攻+副専攻)▽シングルメジャー(主専攻)という選択方法があり、組み合わせでは496通りの学科があると考えてください。他大学の学部・学科の入試にとらわれないでほしいと思います。
例えばメジャー選択では数学と音楽の組み合わせが意外と多いんです。学生に聞くと「数学と音楽は同じだ」と言うのですね。そんな学生自身の学びへの動機があり、そこに教員のリソースが加わって、学生中心の学びを作っていきます。ですから一般選抜は11通り、メジャーは496通りの組み合わせがあるのです。
「何のために生きているのか?」自分のミッションを見つける大学
―最後に受験生へのメッセージをお願いします。
「狭き門より入りなさい」ですね。でも狭き門は一つではありません。すでに実施した帰国生選抜や総合型選抜は過去最高の志願者数となり、本当に惜しいレベルで合格しなかった受験生が多くいます。一般選抜の日英バイリンガル面接利用や英語外部試験利用は大きなセカンドチャンスになると思います。
そして、たくさんの「?」をもってきてください。それを皆で「!」に変えていくのが大学の学びです。ICUはMy life for what?を考える大学です。人間が生きていくための肉体労働(Labor)、頭も使ってしたい仕事・できる仕事(Work)に対して、自分がすべきだと考える使命(Misson)を見つける大学です。何のために大学に行くのか、自分が世界をどう変えられるのかを考えられる人に来てほしいと思っています。
自分のやるべきことが31のメジャーの中に見つからなかったら、作ればいいのです。皆が学長になって新しいメジャーを作るぐらいの、荒削りで磨けば光るダイヤモンドのような人たちに集まってほしいです。