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商品開発 × イノベーション
成城大学社会イノベーション学部は、学部名のとおり“イノベーションに資する人材の育成”を2005年に年に開設された学部だ。本企画では、マーケティング論や消費者行動論を専門とする郷香野子准教授に、同学部で学べるマーケティング手法や、“イノベーティブな商品開発”の本質について伺った。
取材・文 鈴木秀一郎
構成 副島光基
新たな価値を生み出す発想力・創造力を磨く
―まずは「商品開発×イノベーション」の基本的な考え方から教えてください。
イノベーションには様々な種類がありますが、ここでは私たち消費者が使用する商品のイノベーションについて考えてみましょう。スマートフォンやVR、投げ込み型の洗剤や自動車室内用の小さな芳香剤など、これまでにない画期的な商品を生み出すには何が必要でしょうか。もちろん、技術が先に誕生し、その後に商品が作られることもありますが、多くの場合、企業の担当者が消費者の隠れたニーズを見つけ出し、それを技術と統合させて開発しています。
ただ、ニーズと言っても「どんなことにお困りですか」と直接消費者に聞いても返ってくるのは既に世の中で共有されている答えが殆どです。そこで実践されているのが「これがロボットだったら何をして欲しいですか」と対象を変えた調査方法や写真を手がかりに調査する方法、実際に消費者の生活を観察する方法です。異なる対象への投影やリアルな生活風景から「もしかしたら消費者はこうなりたいのかもしれない」と満たされないニーズを探索します。もちろん、商品開発の現場では直感も重視されますが、授業では、どのニーズが世の中を変えうるかの判断、発見したニーズの商品へのつなげ方、世の中に受け入れられる商品コンセプトの作り方など、ニーズから商品化するまでの過程を“科学的”に説明しています。
―では、先生の授業内容についてお聞かせください。
商品開発の基礎的な手法や、さまざまな事例を紹介するほか、学生自身がアクティブにアイデアを考える時間も設けています。例えば2年次の「基礎ゼミ」は、マーケティングリサーチの手法から、販売戦略の企画・立案手法まで、全体のプロセスを学ぶことがテーマ。学生を消費者に見立ててニーズを聞き出す練習や、店頭での競合調査を経て、グループでオリジナル商品のアイデアを考えます。講義科目ではなく、クリエーションにフォーカスした演習科目であり、集めた情報を自分たちなりに再構成し、新たな価値を生み出すための発想力・創造力を磨きます。
また、近年はこうしたフローを消費者自身が進め、商品開発を行うケースも増えています。そこで3年次のゼミでは、この“消費者によるイノベーション”も扱うほか、企業や自治体に商品開発や販売戦略の提案を行う実践的な協働プロジェクトも計画しています。
どの段階でどんな層にどんな価値を提供するか
―実践的な学びで注意すべきポイントを教えてください。
世の中を変えうる画期的な新商品が誕生しても、その価値を適切に伝えられなければ「失敗」に終わってしまいます。そこで大切になるのがどんな価値を伝えるかです。
例えば、携帯電話はビジネス用途での普及が進んだ後に、家族間でのコミュニケーション用途でも価値が認められ、一気に広まったといわれています。最初から家族用に訴求しても、世の中に受容されなかった可能性が高いと考えられており、“どの段階でどんな層にどんな価値を提供するか”が大切なのです。
また、ノンアルコールビールはコロナ禍以降に人気が再燃しています。かつては、飲酒運転による交通事故の撲滅に向けた道路交通法の厳格化などを背景に、「ビールの代わりになる」という価値が訴求されました。ただ、現在は別の角度から価値が発信され、「あえて飲まない」という選択肢を提示する訴求や、リモートワーク中のリフレッシュ用途を打ち出すケースもあります。制度や社会背景に応じて発信内容が変化し、売り上げも変化するからこそ、企業は“いま”社会に受容される価値を導き出す必要があるのです。
価値の伝え方も重要です。それが新商品なのか既に広まっている商品なのかによって取るべき戦略は違いますし、新商品であっても、最初に注目する人と、ある程度広まってから注目する人ではアプローチ方法が異なります。よく「SNSで広めれば価値が伝わる」と考える人もいますが、それでは不十分です。SNSに投稿をすれば自動的に流行るわけではないからです。なぜそれが効果的なのかを理解した上で具体的なSNS戦略を考えることが大切です。
「なんでだろう?」を大切に
―社会イノベーション学部でマーケティングを学ぶ意義をお聞かせください。
“イノベーションを起こすためのマーケティング”を学び、新しいものを想像して生み出す力、それを世の中に定着させる力を高められる点に本学部で学ぶ意義があると思います。学生には、商品が世の中に受容されるまでのストーリーを想像する力を養い、その道のりを自分で切り拓いて前進していける力を培ってほしいと考えています。
また、イノベーティブな商品開発は、多様な強みを持つ人材が各々の役割を着実に果たすことで実現するものです。多くのアイデアを出せる人、それらを整理して分析できる人など、それぞれが得意分野を活かしながら協働するわけです。それは多様な学生が関わり合う大学でのグループワークでも同じですし、実社会でも多様な人材の協働が創造的で現実的なイノベーションを可能にするのです。
なお、マーケティングで求められるのはさまざまな材料を丹念に分析し、それらを深く読み解いて提案に結びつける力です。これはマーケティングに限らず、幅広い分野での課題解決に応用できる力でもあるのです。
―高校での「探求学習×商品開発」は、イノベーションの起点になりますか?
高校での探究学習で「商品をつくる」楽しさを感じてもらうことは大切です。まずは実践してみて、その上で大学の授業を受けると「こういった理由で成功した/失敗した」など、その理由が理解できるようになります。
―最後に受験生へのメッセージをお願いします。
日頃からスーパーやコンビニで目を凝らせばトレンドが見えてきますし、人気の理由を考えてみたり、それが店頭から消えたらその理由を考えてみたり、日常への興味を高めておいてほしいと思います。ちょっとした興味からで構いません。何かひとつでも意識していると、ふとした気づきが得られるはずです。また「流行っているから」が購入動機だとしても、「なぜ流行っていたから買ったのか」まで踏み込んで、自分の行動を振り返って考えることも大切です。
私のゼミでも日頃から学生たちにマーケティング事例を集めてもらっています。この習慣を身につけることで、商品の背後にある戦略を想像できるようになったり、改善点や新しい発想がすぐに出てくるようになっています。もちろん、マーケティングは細かい数字データの分析も必要ですし、ゼロから1を生みだす作業には“苦しみ”も伴います。ただ、それが何らかの成果につながれば大きな達成感を味わえるのです。
成城大学の社会イノベーション学部には、さまざまな角度からイノベーションを研究されている先生方がいます。貪欲に、そしてときには“泥臭く”学びながら、4年間でイノベーティブな資質を磨いてくれることを願っています。