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取材・文 林 郁子
自然現象の謎を解き明かそう
私たちが日々利用しているスマートフォンなどのICT機器や、自動車・飛行機などの輸送用機械といったあらゆる工業製品には、材質、構造、基盤技術部分に驚くほど多くの科学技術が使われている。そうした科学技術を学べるのが神奈川大学応用物理学科だ。2023年4月、理工系学部改組で工学部に応用物理学科を新設。「宇宙」や「ナノ」の世界を学び、未来の社会に貢献する技術へとつなげていく新学科の魅力について、清水雄輝教授に話を伺った。
―新たに誕生した神奈川大学工学部応用物理学科は、どのようなことを学べる学科でしょうか。
高校生の皆さんが学んでいる物理学―たとえば慣性や作用反作用といった物体の運動法則などがありますが、本来は世の中のさまざまな自然現象のしくみを解き明かす学問です。応用物理学は、物理学によって発見された原理や法則性を応用し、新たな技術を生み出す学問です。本学には理学部理学科に物理コースがありますが、私たちの工学部応用物理学科では、物理学そのものを学びながら、測定・観測技術やデータ解析手法、新材料の創製、コンピュータシミュレーションといった先端的研究の過程で培われる技術の修得に力を入れています。
幅広い応用物理学の研究分野のなかでも、本学は特に「宇宙観測」と「ナノサイエンス」の2つを大きなテーマにしています。「宇宙観測」は、人類にとって未知の領域である宇宙を、さまざまな方法で観測することでその謎を解き明かす研究領域です。「ナノサイエンス」はナノ(10億分の1)の言葉通り、原子や分子といったスケールの物質が持つ特性を解明し、それを生かしたものづくりへとつなげる研究領域です。また研究に欠かせないコンピュータによるデータ解析の手法である「データサイエンス」も学びの基礎としています。
「目に見えない」現象を捉えるための試行錯誤
―清水先生の研究分野について教えてください。
私は、宇宙空間に存在する物質のうち、質量はあるのに目に見えない「暗黒物質」と呼ばれるものを研究しています。暗黒物質は、これまでの研究から存在を示す証拠が見つかっていますが、その正体は不明です。ただ、性質についてはいくつかの推測があり、暗黒物質はまれに消滅・崩壊する時に宇宙にはほとんど存在しない反粒子を生成すると考えられています。そこで宇宙から飛んでくる未発見の反粒子を捉えることができれば、暗黒物質の観測につながるのではないかと考え、実験装置の開発を進めています。
暗黒物質に興味を持って研究を始めたのは大学院生の時ですが、目に見えないものをどうやって観測するかについては試行錯誤の連続でした。当時は、ニュートリノ(※)を観測したカミオカンデのように地下に設置した装置で観測する手法を研究し、その後は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究員として国際宇宙ステーション「きぼう」の実験棟に設置した宇宙からの粒子を観測する装置の開発に携わりました。現在はJAXAや国内外の大学との共同研究で南極上空36キロメートルを周回する観測気球に搭載する測定器の開発を進めています。具体的には、暗黒物質に由来する反粒子が衝突することで、光や電気信号を発生するセンサー、信号処理回路の製作や性能評価、反応を計算するコンピュータシミュレーションなどを行っており、私の研究室の学生や院生もこのプロジェクトに参加しています。
※ニュートリノ:素粒子のひとつで宇宙誕生に関わると言われている物質。観測することが非常に難しく、地下深くに巨大な水槽のような検出器を備えたカミオカンデによる観測が有名です。
理学と工学がつながるともっとおもしろくなる
―清水先生が考える、応用物理学のおもしろさとは何ですか。
私は子どもの頃から星が好きで、宇宙がどのようにできているのか興味を持っていました。この世界の成り立ちについて探究することは、哲学など人文科学的なイメージもありますが、科学技術が発達した今、自分の手でその謎を解明していけるのではないかとワクワクしています。応用物理学では、ものごとの本質を理解する物理学の学びをベースに、科学技術である工学の学びを加えることで、一から実験や測定・観測方法を考案し、装置をつくっていきます。それがとても楽しいですね。
また、ナノサイエンスの分野では将来的に新素材の開発につながるような研究が行われており、科学技術と社会のつながりをより実感できる機会が多くあります。宇宙観測の分野では、国際チームで行われる研究が多く、アメリカなどの海外に設置した大規模な観測装置を用いた研究もあるため、海外の大学や研究機関との共同研究に取り組めます。そうした点も大きな魅力でしょう。
就職先ですが、宇宙産業やナノテクノロジー分野を中心に、幅広く科学技術に携わるエンジニアなどをめざせます。データサイエンスから機器の開発まで行うので、最先端技術が修得でき、産業界からの高いニーズがあると考えています。
―宇宙やナノに興味を持つ高校生へのメッセージをお願いします。
応用物理学科では高校で学んだ基礎的な物理をもとにより深い物理学の学びにも取り組みます。ですから、高校で物理や数学をしっかり学んでいると非常に役立ちます。ただ、暗記した公式を使って答えを導く高校の物理とは異なり、大学では数学を用いてより具体的な物理現象にアプローチするため、「物理がよりわかりやすくなった」という学生もいます。また、研究したい目的が定まることでモチベーションが高まったという学生もいます。高校で物理が苦手でも宇宙やナノサイエンスに興味があれば、諦めずにチャレンジしてくれると嬉しいですね。ロケット工学などに興味のある高校生には、分野横断プログラムで機械工学科と共同で行う宇宙理工学プログラムなどもあります。学びの可能性は幅広いので、ぜひオープンキャンパスなどに足を運んでみてください。「きぼう」に設置した観測装置のプロトタイプ(試作品)やナノ素材や超伝導物質など応用物理学を体験できる展示をたくさん用意してお待ちしています。