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2022年4月、國學院大學に観光まちづくり学部観光まちづくり学科が開設された。「地域を見つめ、地域を動かす」を理念に掲げ、地域を主体とした「観光と交流」を基軸にまちづくりを考えることが特徴で、従来の観光系学部と一線を画する。
始動から約半年。文理融合、協働型の学びの内容や、第一期生の様子などについて西村幸夫学部長に聞いた。
構成 松本陽一(大学通信)
取材・文 水元真紀
主体的に学ぼうとする学生の姿勢に手ごたえ
―観光まちづくり学部にはどのような学生がいますか。学部の特色もお聞かせください。
「観光」という言葉は、中国の古典「易経」に記されている「観國之光」が語源とされ、「その地の文化、政治、風俗などの『光』をよく『観』る」という意味を有していたといわれています。地域の魅力、つまり「光」を見つけ出し、観光と交流を基軸に持続可能なまちづくりを考え、さまざまな側面から地域に貢献できる人材を育てるのが本学の観光まちづくり学部です。
今年約300人の第一期生が入学し、その志望理由をあらためて尋ねてみると、地域に関心があって、ボランティアやまちづくりをはじめ、地域社会に貢献できる取り組みを行いたいという人。旅行やまち歩きが好きで、観光業に興味がある人。大きくこの二つに分かれます。共通しているのは、どの学生も興味・関心の対象や目的意識が明確であるということです。その主体的に学ぼうとする姿勢に私たち教員も手ごたえを感じています。
地域の声を聞きながら現場で課題解決に取り組む
―開設から半年が過ぎ、どのような学びが行われているのでしょうか。
本学部の学びの特徴の一つに、地域の課題解決に取り組む演習科目があります。1グループ15人程度の少人数で、教員が研究フィールドとしている地域などを対象にグループワークやフィールドワークを行うものです。1年次では「ゼミナール」がそれにあたり、この夏には群馬県の草津温泉、埼玉県川口市内の鋳物工場、岩手県の陸前高田市などで早速フィールドワークを実施しました。現地では観察だけでなく、地元の人への聞き取りなども行います。草津温泉に行ったグループは、まちの課題について町長から直接話を聞く機会に恵まれ、質疑応答の場では担当教員の想定を超えた良い質問が学生から飛び出して、活発な意見交換ができたようです。
一口に地域といっても、気候も自然環境も人口構成も産業も、地域によってすべて異なります。その課題の解決に取り組むということは、正解が一つではない問いに向き合うということです。ある地域では功を奏した策が他の地域では機能しないということも当然あるでしょうし、自分がこれまで常識だと思っていたことが通用しない場面も出てくるでしょう。そうした経験を楽しみながら、正解が一つではない問いに対して答えを模索する力をつけていってほしいと願っています。
幸いにも本学部の教員は、社会学や観光学から民俗学、歴史学、造園学、公共政策、都市計画などにいたるまで、実に多彩なバックグラウンドを持つ専門家が集まっています。地域と長年関わりながら地元の方々と協働し、その地の魅力を高める取り組みを行っている経験豊富な実務家もいます。そうした教員の姿を現場で間近に見ながら、まちづくりの実際の進め方や人とのコミュニケーションの仕方などを学ぶことができるのも本学部の特色です。
文理融合、協働型の学びで仕事の素地を養う
―文理両方からの学びも重視されているそうですね。
本学部の学びのもう一つの特徴に、文理融合型の教育があります。これは都市計画や公共政策、マーケティング、データサイエンス、デザインなど、文系・理系の垣根を越えた多様な科目を学んで、観光まちづくりの実践に必要な調査分析手法や表現技術を身につけることが目的です。
こうした文理融合の学びは、観光をテーマに掲げる学部では珍しいようです。しかし、地域の課題を解決していくには、その地域が抱えるあらゆる分野の問題に総合的に対応できる力が欠かせません。また、卒業して観光業やまちづくりに関わる職業に就いたとき、「このデータを活用すればこんなことができる」「この現象はこの部分にこんな影響を及ぼす」ということがイメージできれば、プロジェクトの実現可能性や意思決定のスピードが上がるのではないでしょうか。そうした全体を俯瞰的に見渡す力を養うことも目的としています。
地域を元気にするための学びに文系も理系もありません。学生も、自然に詳しい人、文化に興味がある人、鉄道が好きな人など多様です。それを文系・理系の枠にはめるのではなく、一人ひとりが自分の得意を持ち寄って、強みを活かし合いながら課題解決に取り組む。こうした協働型の学びも本学部が重視している点で、そのために28もの演習室を設け、学生が気軽に集ってグループワークを行える環境を整えています。
協働の素晴らしい点は、多種多様な能力や専門性が集結することで、1+1が2以上になることです。一人で物事に取り組むよりもはるかに大きな成果を上げることができます。他者の考えに触れ、多角的な視点を養うこともできます。また、世の中にある仕事のほとんどは他者との協働によって成り立っていますから、それを大学のうちから日常的に経験していれば、社会に出たとき大きな力になるでしょう。
地域の中から地域を元気にする人材を
―観光産業も復興の兆しが見え、コロナ前の水準への回復も見えていると聞きます。社会が変化していく中、どのような人材を育てたいとお考えですか。
地域を元気にするために、観光は極めて大切な手段です。
コロナ禍で観光業界は大きな打撃を受けましたが、地元や近隣を観光するマイクロツーリズムが広がったり、それが地元の魅力を再発見する動きにつながったりと、危機の中から新しい芽も生まれてきました。また、観光地において多くの店舗が苦境に立たされる中、それほど影響を受けずに生き延びている店舗もあり、聞いてみると、地元に愛されていることがその強さの鍵のようです。過去のインバウンド・ブームの際も、そうした店舗はインバウンド需要だけにフォーカスするのではなく、地元の人たちとつながり続けていたのです。
日本各地の観光地に賑わいが戻り始め、インバウンド需要の回復も順調な成長が見込まれています。今後この勢いはますます加速するでしょう。そのとき観光バブルに再び踊らされないためにも、「地域の視点」で地に足のついたまちづくりを進めていくことが必要です。
地域社会が協力してその個性を磨き、応援団を増やす。応援団が地域経済を回し、地域を活性化させていく。この流れが循環する仕組みを作ることを私たちは「観光まちづくり」と考えています。その仕組み作りをけん引し、地域の外からではなく中から、真に地域を元気にする人材が本学部から育っていくことを確信しています。
まちに対する見方が変化し見える景色が豊かになった
小勝穂香さん
観光まちづくり学部 観光まちづくり学科 1年
「どのまちに行っても、チェーン店や大型商業施設ばかりで景色が似ている!」。
高校に上がって行動範囲が広がって、さまざまなまちを訪れるようになったとき、私は真っ先にこう感じました。それは生まれ育った吉祥寺も同じで、老舗から最先端まで個性的な店舗がひしめき合い、新旧の文化が入り混じる吉祥寺特有の風景は少しずつ変化しています。そうした状況に問題意識を持つようになったことから、まちづくりへの興味が生まれ、観光まちづくり学部に進学しました。
入学してまだ半年ですが、さまざまな授業を受けて、自分のまちに対する見方・考え方が確実に変化したと感じています。とくに影響を受けたのが、必修科目の「まちづくりと観光」です。これは「まちづくり」と「観光」に関する基本的な考え方を学ぶ授業で、先生方が実際に関わってこられた地域での経験談を交えながら話してくださるので、現場のイメージが膨らみます。地域の個性を磨く手法についてもリアリティを持って理解できます。この授業を受けてから、私は旅行に行ってもその地の特産品や名所旧跡だけでなく、景観や自然環境などにも目が向くようになり、見える景色が豊かになりました。
観光まちづくり学部は演習が豊富なことも特徴で、私は1年次の3月に、静岡県島田市で空き家のリノベーションを体験する予定です。そこでは高校時代からのテーマでもある、「その地域の特性を活かしたまちづくり」にも着目しながら学びたいと今から楽しみにしています。
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