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金沢工業大学はワイヤレスでの電力伝送技術に関する研究で、世界最高の変換効率を持つ「受電レクテナ(※)」を開発したことを発表した。近年は世界を変える可能性を秘めた最先端の研究が盛んに行われるようになっており、そうした研究に学生が触れる機会も多い。今回の研究成果の内容や、研究への学生の関わりについて、受電レクテナの開発を主導する工学部電気電子工学科の伊東健治教授にお話を伺った。
最高効率の無線電力伝送技術を開発
在学中に学生を大きく伸ばす高い教育力で知られる金沢工業大学(KIT)。進路指導教諭が選ぶ「面倒見が良い大学」ランキングでは、16年連続で第1位に選ばれている(大学通信調べ)。
教育力の側面が大きく注目されるKITだが、近年は研究力の底上げも顕著だ。国の研究プロジェクトを受託する研究室も増えているという。元来の教育力に研究力をかけ合わせることで、「教育としての研究」を通した学生の成長を促しているのだ。
KITが誇る世界レベルの研究領域の一つが電波関係の分野。KITは4つの電波関連の研究室を有し、研究設備と取り扱う課題の両面で世界レベルの環境が整っている。
その中の一つ、工学部電気電子工学科の伊東研究室では、ワイヤレスでさまざまな電子機器に電力を給電する「無線電力伝送」の研究が進む。Wi-Fiと同じ5.8ギガヘルツ帯の「マイクロ波」を使った無線電力伝送技術に関して、電波を受信して電力に変換する「受電レクテナ」が世界最高の電力変換効率を達成したことが9月に発表された。
この研究は、内閣府が進める「戦略的イノベーション創造プログラム」の中の「IoE(Internet of Energy)社会のエネルギーシステム」という研究プログラムの一翼を担っている。同研究プログラムは、社会の中のエネルギー供給、エネルギー消費を総合的にマネジメントすることで、二酸化炭素の排出が少ない社会の実現を目指すものだ。無線電力伝送は、電力伝送に関する基盤技術として研究が進められている。
電気エネルギーを電波の形で伝える無線電力伝送では、電気を利用する前段で、電波の電気への変換が必要になる。各端末のアンテナで受信された電波は、高調波の閉じ込め、昇圧、整合といった機能を有する「回路」部分と「半導体」を経由して、直流電流に変換される。高効率なシステム構築には、この変換過程でのエネルギーロスをいかに減らすかが重要だ。
伊東教授はアンテナ・回路・半導体が組み合わされた受電レクテナのアンテナ形状を全く新しいものにすることで、回路の機能をアンテナに持たせることに成功。回路部分の部品が不要になり、半導体をアンテナへ直付けすることが可能になった。その結果、エネルギーロスが大幅に抑えられ、1ワットの入力時で92.8%という世界最高の変換効率を達成。従来は6割台だったことを考えると飛躍的な進歩だと言える。
伊東教授は研究の狙いを次のように説明する。
「このマイクロ波は電波をかなり遠くまで飛ばせるのが最大の特徴で、実用化されれば多くのことが電池フリーで実現可能になります。遠隔で社会インフラのメンテナンスを行うなど、さまざまな活用が考えられます」
電池が不要になることで可能になることは多い。崩れやすい山に地すべりを感知するセンサーを置けば、変化の予兆を長期間継続して観察できる。ドローンで行われる山間部での送電線の監視・点検作業も、遠隔でドローンへの給電ができれば充電のために待機・往復する時間が節約され、作業の大幅な効率化が期待できる。スマートフォンへの活用が進めば充電ケーブル不要でどこでも充電ができるようになる。
一方で、実用化に向けたハードルは高い。ドローンであれば動作には100ワット級の電力が必要であり、今回の1ワットを扱う半導体では単純計算で100個を超える半導体素子が必要になる。重量やコストの面で課題は残っており、小型化・大電力化にはさらなる技術革新が必要だ。
今後は、一つの素子で扱う電力を1ワットから10ワットに増やすことで、高い効率を維持しながら一素子あたりの大電力化を目指していく。共同研究を行う名古屋大学と名古屋工業大学では10ワットに対応する高効率な半導体素子の開発研究が進む。その半導体と今回開発された受電レクテナを組み合わせることで、全体での高効率化が可能だ。伊東教授は「アンテナ形状など基本的な構成はほぼ完成した」と話しており、電力を上げることで生じる熱問題などの課題の検証を順次進めていく予定だ。
実際のものづくりを通し最先端の研究に触れる
KITではこうした世界レベルの研究において、学生が大きな役割を果たしている。発表のあった受電レクテナについても、「学生と一緒に作ったアイデアを元にした成果だ。彼らが研究を積み上げてくれたおかげです」と伊東教授は話す。
今回の研究の基本検討を兼ねた予備実験では、伊東教授のアイデアに対して学生がさまざまなシミュレーションを行い、各アイデアが及ぼす効果の違いを明確に示す検証データが集まった。新たな受電レクテナは、そのデータを参照しながら考案されたという。予備実験の成果については、シミュレーションを担った学生が国際学会で発表している。
伊東教授は研究への学生の貢献を評価しており、最先端の領域でKITが成果を出し続けている要因の一つに学生の存在を挙げる。
「高い研究業績をあげられる能力を持つ学生が相応の数いるからこそ、各研究室で世界レベルの研究が実現できています」(伊東教授)
大学院生を中心に国際学会や専門誌への発表を担うなど、学生が関わる研究の範囲は幅広い。KITが「教育としての研究」を重視しているからこそで、意欲ある人には大きく成長できる環境が用意される。伊東教授はKITで学ぶメリットをこう表現する。
「ものづくりを学ぶ上で最も重要なのは、ものが出来上がっていく過程を学ぶことです。計算機やシミュレーションでできることもありますが、あくまでもそれは補助手段。実際に作ってみるとさまざまな問題点が出てくるもので、それらを克服しなければなりません。『ものづくりの難しさ』や『技術力』というのはまさにこの部分であり、KITには先端的な分野で先端的な技術を扱って、世界との競争を肌で感じながら学べる環境が整っています」
ソーラーカー、人力飛行機、ロボットなどを学生主導で作る「夢考房プロジェクト」に代表されるように、KITは課外でのものづくり活動も盛んだ。低学年のうちからものづくりを実践してきた経験が、後の研究に生かされることも多い。実際の体験から学ぶものづくりを通して最先端の研究に触れられることが、KITの大きな魅力となっている。