就職先は自分で探して自分で決める 本質を見極める力をつける 丁寧なキャリア教育で 自立した学生を輩出

就職先は自分で探して自分で決める 本質を見極める力をつける 丁寧なキャリア教育で 自立した学生を輩出

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特徴的なキャリア支援で地元から厚い信頼を得ている大学がある。「県民大学宣言」を提唱し、静岡県内で広く知られる静岡産業大学だ。県内経済を担う中小企業を中心に多数の人材を輩出することで、地元への貢献を続けてきた。学生へのキャリアサポートでは、就職をゴールとせず、その先の働き方や人生までを見据えた指導を行う。キャリア支援課統括課長の池ヶ谷雅一氏に、具体的な支援内容について話を聞いた。

就職先は自分で探して、自分で決める

静岡産業大学は、「就職をゴールとせず、社会に出てからも成長し続ける人材を育てる」ことをキャリア支援課の目標に掲げている。こうした人材を育てるために、「キャリア教育の充実」と「就職支援」の2つの軸で学生へのキャリア支援に力を入れている。キャリア支援課で統括課長を務める池ヶ谷雅一氏は、その背景をこう説明する。

「自立した学生を輩出したいという強い思いがあります。後悔しない就職をするために、自分に合った企業を選び出す判断力を養うことを重視しています。また、働くことは単に収入を得るだけの営みではなく、自らの人生を豊かにするための活動でもあります。自分らしい人生を歩んでもらうためにも、『就職先は自分で探して、自分で決める』ことが大切です」

規模の比較的小さな大学として、キャリア支援課では距離の近さを生かした親身な指導を行っている。ただそれは、手取り足取り教えるような、学生を甘やかす態度とは異なる。性格や志望をよく知った上で行動を後押しするためにアドバイスを行うなど、丁寧な指導の根本には「学生に自立してほしい」という思いがある。

就職だけをゴールとせず10年後の自分の姿を考える

静岡産業大学 キャリア支援課 統括課長
池ヶ谷雅一
国家資格キャリアコンサルタント・CDA(キャリアデベロップメントアドバイザー)
前職は静岡の求人情報誌を制作する会社で25年間勤務。県内の企業担当者や社長と数多くのコネクションを有する。企業が求める人材像についても深い理解があり、自身の経験を基にした知見を学生たちに分かりやすく発信することを心がけている。

学生は1年後期に開講するキャリア授業で、自己分析を行いながら、徐々に自らの仕事観を醸成していく。大学生活に慣れた2年次には全員がキャリアカウンセラーとの面談を行う。時間は一人あたり50分で、前期と後期の年2回行われる。2年次の面談に力を入れている理由を池ヶ谷氏は次のように話す。

「多くの学生が20歳になる節目のタイミングで、人生を振り返りつつ、20代から30代でどんな人生を歩んでいきたいかを考えてみようと呼びかけています。今後のキャリアを描いてみることで、これから何をするべきかが明確になるのです。職員は学生の状況や志望を聞きながらさまざまなキャリア支援実践プログラムを紹介し、比較的時間に余裕のある2年次や3年次のうちに多様な経験を積むことを促していきます」

きっかけを提示して学生のアクション率を高めることが面談の一つの狙い。そこには「行動に移して実際に体験しなければ、自分のものにはならない」という池ヶ谷氏のキャリアに対する考え方が表れている。

静岡産業大学が用意しているプログラムについて、さらに詳しく見てみよう。

キャリアデザインの授業では、年に50人以上の企業の社長や卒業生を招き、定期的にパネルディスカッションを開催。実際に働く人のリアルな声を学生へ届けることに力を入れている。

有志の学生が毎年テーマを決めて企業を訪問し、インタビューした内容をまとめた冊子『魅力ある企業探索BOOK』を製作するプログラムもある。内容の検討からアポイント、取材、編集までを学生が担い、本質を理解した上で企業選びを行うためのポイントを学生目線で発信している。

「良い企業の基準は人によって違うものですし、大手企業がすべての学生にとって本当に幸せな就職になるとは限りません。中小企業の特徴や魅力を知らない学生は多いのですが、安定した企業を探すために『売上高成長率』を確認したり、自分に合った性格の企業を探すために『経営理念』を調べたりすることで、企業選びの視野が広がっていきます」(池ヶ谷氏)

公務員志望の学生に対しては『公務員塾』を開催。週に6コマの対策講座を藤枝と磐田の両キャンパスで無料開放しており、夏合宿も行われる。資格取得サポートも充実しており、簿記、税理士、宅建など大学が指定する特定の資格に合格した学生には『資格取得奨励金』として20万円が支給される。資格取得費用の大半がまかなわれる計算だ。

その他にも、教員試験対策や海外インターンシップ、地元企業訪問など多彩なプログラムがある。自らの目標に合わせたプログラム選びのために幅広い選択肢を提示しているのは、キャリア支援課が「頑張っている学生に機会を与えることで能力を引き上げてあげたい」と考えているから。成長したい人に対しては惜しみないサポートが与えられる環境が整っている。

自らの経験を整理して評価される点を見出す

特徴的な就職支援の一つに、アスリート向けの就職セミナーがある。部活動に打ち込む体育会の学生のキャリアサポートにも力を入れているのだ。

運動部の学生には「運動しかやってこなかった」と考えてしまい、自信を失っている人が少なくない。一方で池ヶ谷氏は、大学スポーツでは戦略や役割分担を日々考えることが必要で、日常生活の中で自然とアクティブラーニングができていることを指摘する。

「体育会の学生は、目標を立て、自分たちで課題を見つけ、練習方法を変えるなど、勝つために日頃からPDCAを回しています。でも、本人たちはそれをビジネスに転用できるとは考えていません。忍耐力や協調性、体力など良いものを持っているので、取り組んできたことを言語化して正しく認識できるように促しています」

これまでの経験に対して自信が持てれば、自分に合った就職先を積極的に考えられるようになる。振り返りを行ったことで競技力向上にもつながるなど、良い循環ができているそうだ。

面談練習や履歴書添削などの場面では、少人数であることを生かした丁寧な就職支援を行う。

また、就職活動の情報やキャリア面談のカルテなど、ポートフォリオをデータベース化して情報を共有する取り組みも進んでおり、属人化した支援にならないための体制づくりも行っている。

静岡産業大学が位置する静岡県は、温暖な気候を生かした農業や漁業、高い技術力を有する製造業、観光業やスポーツビジネスなど、県内各地に幅広い産業を有する。そのこともあって同大の地元就職率は72.7%と高く、県内出身者に限っては83.2%に上る。身近な人を大切にしていて地元志向が強い今の学生のニーズに合致した支援が強みだ。

キャリア支援課にはCDA(※)資格の所有者を4人揃え、学生の「より良く生きたい」という気持ちを掘り起こすためのキャリア教育を心がけている。

「働くことに対してポジティブなイメージを持ってほしいという思いで学生に接しています。本学の多彩なプログラムで企業を見る目を養い、しっかりした職業観をもった自立した人間になってほしい。自分で探して、納得して入った会社が、その人にとって一番いい会社なのだと思います」

仕事のやりがいや幸せは、職場で何を期待され、どんな仕事をするかで決まるもの。静岡産業大学は自分で選んだ場所で生き生きと働く人材を輩出することで、地元静岡を支える大学として貢献を続けていく。

※CDA…キャリアデベロップメントアドバイザー。興味や能力、価値観といった個人の特性をもとに望ましいキャリア選択を支援する、キャリア形成の専門家。

事例:キャリア支援実施プログラム
地元企業の魅力発見プロジェクト
(「静岡県内中小企業の魅力発見」プロジェクト)

地元企業の魅力を見つけ人口流出の解決策を探る
若者の多くが県外の企業に就職し、静岡を出てしまう。その課題を解決するため、地元の優良中小企業を学生が発掘。経営者へのインタビューも行い、成長の秘密や企業独自の魅力を調べました。その結果をキャリア授業などで学生や企業の方に発表し、就職先選びに新たな視点を提案しました。

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