温室効果ガスフリーいちご栽培からナノ水力発電まで「工学×農業」が新たなイノベーションを生み出す

温室効果ガスフリーいちご栽培からナノ水力発電まで「工学×農業」が新たなイノベーションを生み出す

<PR>

国連が定める17の目標「SDGs」の達成を目指す取り組みが世界規模で進んでいる。日本の高等教育機関におけるSDGsのフロントランナーとして知られる金沢工業大学は、実証実験キャンパスとして開設した白山麓キャンパスで、産学官連携によるイノベーション創出を加速させている。

5Gなどの最新技術を活用した新しい農業を創出

令和元年10月、金沢工業大学は白山麓キャンパス内に研究用いちご圃場を設置し、高品質ないちごの生産に向けた新たな実証研究を開始した。北陸で初めて5G基地局が設置された白山麓キャンパスの環境を生かした取り組みである。

ハウス内に設置された高解像度の360度カメラ。

ハウス内には高解像度の360度カメラを設置。高速・大容量・低遅延を特徴とする5G通信を利用して、ハウスの様子を遠隔地から高精細な映像で把握することが可能になった。ヘッドマウントディスプレイを使って送られてきた映像を見ることで、受粉作業を担うハチの動きや葉の葉脈の様子から、ハウス内の空気感までもがリアルタイムで感じられる。こうした技術が実用化されれば、毎日現場に行かなければハウスの状況が分からなかった農業従事者にとって、大きな負担軽減につながる。また熟練者が自宅に居ながらどの実を摘むか指示し、圃場作業者がMR(Mixed Reality)めがねの提示情報に従い、的確な摘果・摘花を実施できる摘果作業アシストシステムの構築も進めている。従来の4G等の通信インフラを活用することで、郊外や山間部など5Gの基地局が整備されていないエリアでも導入可能なシステムの構築を目指す。

こうした研究の背景にあるのは様々な産業における深刻な人手不足だ。第一次産業である農業でも農業従事者の高齢化と農業就業人口の減少が進み、労働負荷軽減と新規就農者の確保は喫緊の課題となっている。熟練者の経験をデジタルデータとして蓄積してAIに分析させれば、農作業支援ロボットをつくることも可能だ。

温室効果ガスフリー いちご栽培を工業大学が行う

大気からCO2を濃縮生成する装置。

この研究用いちご圃場はエネルギー効率に優れた「木造ハウス」で作られている。また圃場にはキャンパス内のバイオマス発電装置から出た熱を利用した温水が引き込まれ、発電で生じる熱エネルギーを再利用する形で、カーボンニュートラルな熱エネルギーとして冬季の暖房に生かされている。いちご栽培では、光合成を促進するために、冬から春にかけてハウス内へ二酸化炭素(CO2)の充填が必要となり、一般的には化石燃料を燃焼させてCO2を発生させているのだが、温室効果ガスの要因になり、燃料費もかさむ。そこでいちご圃場内には大気からCO2を濃縮生成する装置も導入し、「温室効果ガスフリーいちご」の栽培も目指す。工学が農業と結びつくとき、今まで考えもしなかったイノベーションが生み出されるのだ。

農業用水を活用した 〝ナノ水力発電システム〟も共同開発

農業分野では農作業の負担軽減策として農機具の電動化や自動化、さらにはドローンを使った農薬散布の開発等が進められているが、電動化には連続稼働時間や充電時間の問題があり、給電設備の設置も必要だ。金沢工業大学はこの分野でも企業と共同で研究開発を進めている。

開発されたナノ水力発電装置。山間の用水路でも設置可能。

昨年12月に発表されたのは、農業用水を活用した〝ナノ水力発電システム〟だ。近年普及しつつある小水力発電装置(マイクロ水力発電装置)よりも小型であるため、山間の用水路のような、従来の小水力発電装置では設置しにくかった箇所でも容易に設置可能。農業用水から直径125ミリのパイプで取水し、装置中央にある直径100ミリのデュアルタービンを回転させることで両端につけられた発電機で発電するもので、発電量は一般家庭2世帯分に相当する約1kW。一日中安定した出力で発電ができる。ナノ水力発電システムで発電された電力はパワーコンディショナー(インバータ)を通じてバッテリに蓄電されるほか、100Vと200Vに変換され、農作業用の電動トラックや作物の集荷配送用電気商用車への充電も可能だ。各種のポータブル蓄電池を通じて電気草刈り機などの電動作業機や農薬散布ドローンの電源として利用できるほか、近年、獣害対策として注目を集める鳥獣用防護柵やビニールハウスにおける照明用の電源としても使用できる。農業用水という未利用エネルギーの地産地消で農業の電動化を進める。農業の新しい形が金沢工業大学から生み出されている。

エネルギーの地産地消で 災害に強靭な社会を目指す

SDGsでは再生可能エネルギーの拡大とともに自然災害に対する強靭な社会の実現も大きな目標として掲げられているのだが、日本は世界有数の「災害大国」。2018年の北海道胆振東部地震で起きた大規模なブラックアウトや、19年の台風における千葉県での停電被害などに象徴されるように、自然災害には非常に脆弱な国になっている。

白山麓キャンパスではキャンパス内のコテージを使って、再生可能エネルギーの地産地消による小エリア直流(DC)給電網の実証実験が行われ、交流による外部電源の停電時においても、一瞬たりとも停電しないことが実証されている。19年秋にはこれまで稼働していた太陽光発電とバイオマス発電に加え、バイオマスボイラーの排熱を利用して発電する熱電発電モジュールと風力発電装置も導入された。

バイオマス発電装置。発電した後の熱も有効利用される。

注目されるのは移動しながら発電ができる電動自転車だ。パンクしないよう、チューブレスタイヤを採用している。仮に災害が発生し、他のエリアで停電が起きた場合でも、EVを仮想配電線として電気を運ぶことが可能であるほか、電動自転車により、EVでは行けない地域にもカートリッジ式蓄電池で電気を運ぶことができ、行った先でも発電ができる。まさに災害に強い強靭なエネルギーインフラを目指して、これからますます必要となる実践的な研究と言えよう。

小エリア直流(DC)給電網制御装置と発電ができる電動自転車。

欧州諸国に比べてSDGsへの取り組みが遅い日本だが、金沢工業大学ではSDGs達成を視野に、企業との共同研究の形で実社会で役立つ研究が盛んに行われている。プラスチックストローが紙ストローへと代替され始めているように、SDGsへの配慮がない製品は社会から排除されつつあるからこそ、金沢工業大学の取り組みには広く企業から注目が集まる。これまでも強みとしてきた産学連携の研究を、白山麓キャンパスという実証実験キャンパスでさらに加速させている金沢工業大学の動向に今後も注目していきたい。

ユニヴプレスMAGカテゴリの最新記事

ユニヴプレス