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龍谷大学・理工学部物質化学科の内田欣吾教授の研究室は、ノーベル賞学者との共同研究など、世界的な研究を行っている。内田教授と研究室の学生に話を聞きながら、研究内容とともに理工学部の魅力について探った。
ノーベル賞学者と最先端の研究を進める 龍谷大学・理工学部の実力
龍谷大学・理工学部物質化学科の内田欣吾教授の研究室では、「自然に学ぶものづくり」をテーマとして、生物の機能を有機結晶を用いて模倣する世界的な研究が行われている。滑り落ちずに壁を登るヤモリの構造やアメンボが浮く原理、蝶の構造色など、自然の構造を理解した上で光に応答する分子を使って再現するものだ。実際に研究室で行われている代表的な研究について、内田欣吾教授に聞いた。
「世界的に権威のあるドイツの科学雑誌『Angewandte Chemie』に注目論文として研究論文が掲載された、光で色が可逆的に変化するフォトクロミック化合物の研究を経て、現在は表面の濡れ性、結晶成長等を光で制御する研究をしています。具体的には、水を弾いて水滴が丸い玉になって転がり落ちるハスの葉と、水を弾くが転がり落ちずに留まるバラの花びらという、異なる表面構造を光応答分子で再現し、撥水性のメカニズムを解析しました」
こうした技術は、雪国の電線などに活用されている。
中空結晶を活用したシステムドラッグデリバリーの研究が進む
ホウセンカの実がタネを弾き飛ばすメカニズムを再現する研究は、DDS(※ドラッグデリバリーシステム)などへの応用が期待されている。
「ホウセンカの種飛ばしを真似て、光を当てると飛んだり割れたりする薄片結晶の作成に成功しました。これは中空結晶のため、中にものを詰めることが可能です。この中に抗がん剤を詰めて患部で放射線を当てて薬剤を放出するシステムが考えられます」(内田教授)
中空結晶は普通のX線装置では解析できないため、兵庫県の播磨科学公園都市内にある大型放射光施設、SPring-8で行われる。この施設を使用するハードルはとても高いが、今回集まってくれた学生の中に、このSPring-8で研究できる学生がいた。
「光を当てることで結晶が曲がる現象がなぜ起こるのかを分子の動きから解明することが研究テーマです。一般的な測定器のX線では観測できないので、通常の機器の1億倍の強度のX線が出るSPring-8で研究しています」
ノーベル賞受賞者と最先端の研究を行う
他の学生の研究テーマは、「光を当てると細胞を殺す分子のメカニズムを解明することによる、フォトダイナミックセラピーというがん治療法への応用」「繊毛運動で動くゾウリムシの動きを模倣して、モノを輸送できる材料の作成」と、いずれも最先端の研究テーマに臨む。
中でもゾウリムシの動きの研究は、2016年にノーベル化学賞を受賞したベン・フェリンガ教授との共同研究。フェリンガの研究テーマは、光で動く分子の究極と言われる、分子でメカニカルな機構を模倣した「分子マシンの設計と合成」。龍谷大学には、ノーベル賞学者と一緒に研究を行っている学生がいるのだ。
役に立つ研究は「夢を与える研究」「教科書に載る研究」「産業界に生きる研究」の3つに大別されると言われる。フェリンガとの研究成果の実用化はこれからだが、夢を与え教科書に載るレベルの研究であることは間違いない。
こうした研究ができるのは、多くの研究者とつながっているからだ。内田教授は言う。
「フェリンガに頼めるのは、私が彼の同窓会のネットワークの中にいるから。フェリンガとの共同研究以外にも、ドイツやオランダなど世界をまたにかけて動けるのが強みです」
フェリンガと共同研究をしている学生は、学術振興会の大学院博士課程在学者を対象とした特別研究員のDC1に選ばれ、国から多額の研究費を受けて研究を進める。世界レベルの科学雑誌への論文掲載や様々な受賞実績が求められるなど、DC1のハードルは高いが、さらに研究室から採用者が生まれそうだという。「類は友を呼ぶで、自然と優秀な学生が集ってくることが大きい」(内田教授)
優秀な研究を支える教員との距離感と環境
ハイレベルな研究が展開されるのは、龍谷大学・理工学部に優れた研究環境があるから。学生に龍谷大学の理工学部の優れた点について聞くと、「研究環境がきちんと整っていて、研究するにはもってこいの大学。研究に集中できる落ち着いたキャンパス環境もあります」「先生との距離が近いことが特徴。他の大学なら先生に相談するのに手間がかかるが、龍谷大学はすぐに相談に行ける」という答えが返ってきた。優秀な学生を教員と研究環境でバックアップすることが、世界レベルの研究を支えているのだ。
研究室の学生たちに今後の進路を聞くと、がん治療薬の研究をしている学生は、製薬会社の研究職に内定しており、その他の学生も全員が研究者を志している。内田教授は言う。
「ここでの研究が今後も生きるとは限らないが、研究は知識の使い方を身につけるもので、そのノウハウはどの研究でも同じ。研究室でノウハウを身に着けた学生は、研究対象が変わってもやっていけるはずです」
最後に、このような優れた研究室を有する龍谷大学・理工学部の特徴について内田教授に聞いてみた。
「龍谷大学・理工学部の個性は自由さです。狭い領域に押し固め、研究室のテーマが狭い大学が多いのですが、龍谷大学はなんでもできる枠の広さがあります。当研究室を例に取ると、液晶や結晶、バイオメディクスなどについて自由に研究テーマを設定して研究をやっています。テーマごとに共同研究者が違うため、研究室にいろいろな人が出入りし、様々な研究者の価値観に触れてインスパイアされます。学会や理化学研究所、SPring-8などに頻繁に行くことで、様々な研究者の実情に触れられることも大きいですね」
今回集まったハイレベルな研究をしている学生達は、全員が龍谷大学・理工学部から進学してきた。ある学生は「研究の質は学校の名前だけで決まるものではない」と話し、別の学生は、「現在の姿は高校時代に想像できなかった」と言う。2人の言葉は、龍谷大学・理工学部のポテンシャルの高さを物語っているといえよう。
※DDS:ドラッグデリバリーシステム
体内の薬物分布を量的・空間的・時間的に制御し、コントロールする薬物伝達システムのことである。 薬物輸送(送達)システムとも呼ばれる。