【関西学院大学の改革力CASE.1】AI活用人材の育成│関西学院大学

【関西学院大学の改革力CASE.1】AI活用人材の育成│関西学院大学

社会のニーズにマッチした研究・教育に取り組むべく、積極的な改革を推し進めている関西学院大学。本シリーズでは、全5回にわたってその詳細に迫る。第1回となる今回のテーマは、文系・理系の枠組みを超えて展開されている「AI 活用人材の育成」(2019年4月開始)。IoT(Internet of Things)や人工知能(AI)によって生み出される新たな社会「Society 5.0」において、どのような人材が求められ、その育成のためにどのような教育の導入に踏み切ったかを、巳波弘佳教授と西野均教授に伺った。

文系・理系の垣根を超え、「Society 5.0」の時代に新たな価値を創造できる人材をめざして

―そもそも「AI活用人材」とはどのような人材ですか?

巳波 AIの発展に伴って、「仕事をAIに奪われる」といった議論も広まっています。もちろん、一定の仕事はAIが人間に取って代わっていくでしょう。しかし同時に、〝AIを使った仕事〞も生まれてくるはずです。それはちょうど、現在のように社会が情報化することに伴って、消滅した仕事もあれば〝情報を使った仕事〞が生まれたことと同じです。そこで私たちは、これからの時代には、AIという時代をけん引する技術を活用しながら、社会の課題を解決する人材の重要性が高まると考えました。これが、AI活用人材です。

西野 AIに関わる人材と言えば、AIの研究開発を行う理系の技術者がイメージされるかもしれません。そういった人材はもちろん重要ですが、私たちが考える「AI活用人材」とは異なります。AI活用人材とは、AIを使いながらビジネス上の課題などを解決する人のことです。すなわち「AIユーザ」です。あるいは、AIユーザとAIの研究開発者を橋渡しして、社会の課題解決に向けてより一層AIの活用を進めていく人、すなわち「AIスペシャリスト」のことです。

巳波 こういった人材像を掲げていることもあって、私たちは、AI活用人材に対して文系・理系の区分を設けていません。「AI・データサイエンス関連の知識を持つ」「それを企業活動や経営に活用して現実の問題を解決する」という点が、AI活用人材の共通項と言えるでしょう。

一方で現状はというと、AI活用人材として実社会で活動している人はまだまだ不足しています。そこで、私たちが人材育成に乗り出したのです。

―「AI活用人材育成プロブラム」は日本IBMとのパートナーシップのもとで進められています。

巳波 日本IBMは最先端のAI として知られる「Watson」を擁するグローバル企業です。また、単に企業規模や技術力に秀でているだけでなく、人材育成に積極的に取り組むという企業文化を持っています。この点が本学の「Mastery for Service(奉仕のための練達)」というスクールモットーと通じるものがあり、協働にいたりました。

西野 私は日本IBM出身で、プログラムのスタートに伴って関西学院大学で教鞭を取り始めました。プログラムの立ち上げを通じて関西学院大学と密接に関わる中で、「社会の課題を解決していこう。そのために学び、自らを高めていこう」という大学全体の姿勢を強く感じました。そういった価値観を共有できたことも、円滑なパートナーシップの背景にあったように思います。

―プログラムの中身について教えてください。

巳波 プログラムは全10科目で構成されています。その中で全受講生が必ず最初に履修するのが、「AI活用入門」です。この科目では、現時点でのAIの利用状況やAIの必要性、AI活用に必要不可欠となるデータサイエンスの基礎知識、AIを利用したアプリケーション開発を行うための基礎知識を学びます。

西野 例えば事例の紹介では、画像処理による医療診断や言語処理と機械学習による銀行でのコールセンター支援、音声認証を用いた翻訳技術などを取り上げています。これらの事例について議論やレポート作成を行う過程で、「AIに仕事を奪われてしまう?」という漠然とした不安を伴うイメージを持っていた学生も、「AIをうまく使えば社会はより良くなる」という前向きな姿勢へと変わっていっています。

巳波 次のステップのうちの1つは、「AI活用導入演習A・B」です。ここでは、AIを利用したアプリケーションに関する基礎的な技術を学びます。言語処理や音声認識、画像解析などを学ぶのがこの科目です。チャットボットのようなAIを用いたアプリケーションを授業の中で実際に開発し、その仕組みを学びます。

「AI活用データサイエンス実践演習Ⅰ・Ⅱ」も、「AI活用入門」の次のステップのうちの1つです。こちらの科目では、データ解析の知識や手法だけでなく、現実の問題を解決するためのフレームワークやマーケティングのフレームワークを学びます。また、データの解析結果を適切に伝えるためのプレゼンテーション手法も学びます。これらはいわば、実際のコンサルタントがデータを解析し、課題の解決策を提案するプロセスです。よりビジネスの現場に即した学びと言えるでしょう。

さらに、発展的な科目としては、「AI活用発展演習」があります。この科目の特色は、企業や自治体が実際に抱える課題を学びの素材として用いることです。そして、その課題に対して学生はチームになってソリューションを提案します。ProjectBased Learning(PBL)と呼ばれるこの形式の学びにより、実践力を養うことができます。

西野 授業は、学生が「調べる・考える・まとめる」という作業を繰り返し行うように意識しながら進めています。なぜなら、それはビジネスにとって必要不可欠なことだからです。ここにPBL形式の学びが加わることで、卒業後すぐに現場で戦力としての役割を果たすことができる人材になると考えています。それだけではなく、企業などの組織の中で、リーダーとしてチームやプロジェクトを引っ張っていく人材になることを想定しています。

巳波 学ぶことが多くて、決して楽な授業ではないかもしれません。しかし、時代が求める引く手あまたの人材になれるはずです。「それは保証するよ」と、私はよく授業の中で言っています。

西野 受講している学生の皆さんは、非常に高い意識を持って取り組んでくれています。学びに対してとても〝前のめり〞で、レポートなどはぎっしりと自分の考えを書き込んでくれている。プログラムに対する期待の高さや、プログラムを通して成長していこう、社会に貢献できる人材になろうという意欲を感じています。

―プログラムの開発にあたって注力したことや、苦労したことは?

西野 ビジネス志向の強いプログラムにすることに注力しました。先ほどもお話ししましたフレームワークやプレゼンテーション、そしてPBL形式の学びがその具体例です。これは、経済学部や商学部などがあり、実業界で多くの卒業生が活躍しているという関西学院大学の伝統が後押ししたものでもあります。

そのためにも、「AIとはツールである。人間を補完するものである」ということを理解してもらうことに力を入れています。個々の事例への理解を深めていくことで、目の前に課題が現れたとき、どの事例があてはまるのか、あるいは複数の事例の組み合わせになっているのかを考えることができます。ツールの使い方を学び、その仕組みを知れば、「こんな使い方はできないかな?」という応用方法を考えることもできます。「目的はあくまでも社会の課題解決であり、そのための便利で、なおかつ時代に即した道具がAIである」というプログラムの特長が、本学ならではだと思います。

AIをツールとして考え、そのツールを使って社会の課題を解決するという作業は、要素技術の組み合わせによって新たな技術を生み出していく作業と似ています。一方、これまでの大学業界は要素技術の研究には熱心でしたが、その応用には積極的には取り組んでいなかったとも言えます。すなわち、関西学院大学にとって、今回のプログラムは非常に大きなチャレンジでもあるのです。

そして、〝課題〞に精通しているのは大学ではなくてビジネスの現場です。こういった経緯もあり、AI活用人材育成プログラムは新しさとビジネス志向を兼ね備えたプログラムになったとも言えます。

AIという時代をけん引する技術を活用しながら、社会の課題を解決する人材の重要性が高まる

学長補佐・理工学部 巳波弘佳教授

巳波 「AI活用人材育成プログラム」を構成する10科目は、実はすべてがこのプログラムのために新規に導入されたものです。既存の科目を流用したものは1つもありません。なぜかというと、「Society 5.0とは?」「AI活用人材とは?」といったそもそもの話から議論を始め、必要とされる人材像を描き出し、それを育成するための学びを組み立てていったからです。
この組み立てをきっちりと実現するには、どうしてもすべての科目をオリジナルで作るしかありません。日本IBMとは何度も何度もミーティングを繰り返し、学びの内容を詰めていきました。個別の科目が納得いくものになっても、10科目全体での整合性に齟齬が生じてはプログラムとしての効果が損なわれる。そこで、各科目を形にしては全体を見て調整を行う、という作業を繰り返しました。もちろん今後もカリキュラムに改良は加えていきますが、私は、「AI活用人材を育成するなら、これが理想のプログラムだ」と胸を張って言えます。

プログラムの立ち上げにあたっては、非常に思い出深いことがあります。それは、政府が「AIを活用できる人材を年間25万人育成する」と目標を掲げたことです。ここで嬉しかったのは、「AI人材」ではなく「AI(を)活用(できる)人材」というキーワードが広く用いられ始めたこと。実は本学でも、「『AI活用人材』ではなく『AI人材』の方がわかりやすくていいのではないか」という議論がありました。

非常に難しいテーマだったのですが、学生たちが将来果たす役割や備える力、そしてAIのあり方を考えたとき、〝活用〞の文字は不可欠だという結論になりました。そうやって生み出された「AI活用人材」というワードが、政府によって公式に用いられたのです。私たちの理念が受け入れられたと、感慨もひとしおでした。

目的はあくまでも社会の課題解決であり、そのための便利で、なおかつ時代に即した道具がAIである

―「AIは理系のもの」というイメージもありますが。

共通教育センター 西野均教授

西野 研究開発を行う人材をめざすのであれば、確かに理系の高度な学びが必要になるでしょう。しかし「AI活用人材」は違います。ビジネスをはじめとした社会の課題解決のためにAIを上手に使いこなす人材を目指すのです。そのため、文系・理系の垣根はありません。
プログラムの中でも、数式を解くような授業はありません。もちろんプログラミングの基礎を学んだり実際にアプリを作ったりはしますが、それはあくまでも「理屈を知る」ため。理屈を知ったうえで、「どう使えば社会に役立てることができるか」を考えることこそが、本プログラムの中心部分です。

巳波 例えば社会人になって、「自社のサービス向上のためにAIを使ったチャットボットが使えるのでは?」と考えたとします。そういった発想を得られるようになることが、本プログラムの狙いの一つです。プログラムではアプリ開発の基礎も学びますから、その経験を活かして試作品を作ることも可能でしょう。無料のモジュールがネットで手に入りますし、作り方の解説もあふれています。

今やAIは、簡単に作れてしまう時代でもあるのです。そうやって作った〝実物〞があれば、社内での提案が非常にスムーズになる。提案が採用となってチャットボットを実用化する際の開発は、専門のエンジニアに任せればいいのです。このとき、発注やクオリティのチェックにも、プログラムで学んだ知識が役立つはず。こういった姿を私たちは思い描いています。そこには、いわゆる理系の専門知識は必要ありません。

そもそも、文系・理系という分け方は日本独特のものです。海外では、学問領域を超えて「必要なものを学ぶ」という姿勢が根付いています。そのことが数々のイノベーションを後押ししている面もあります。AIも同様で、「AIを使ってビジネスを興そう、社会の課題を解決しよう」という意欲を持った若者が世界には数多くいます。そういった潮流に日本の若者が取り残されてしまわないためにも、文系理系を問わず、AIを活用する術を身につけて世界と伍していってほしいと考えています。

受講している学生の所属学部という観点で言うと、理系・文系の垣根はもとより、法学部や教育学部など、学部の垣根はまったくありません。これは非常に重要なことで、AIは「ツール」であり「補完するもの」であることと深く関係しています。学生にはまず、自分が所属する学部での学びをしっかりと深めるように指導しています。そのうえで、AIを使うとどのようなことが可能になるのかを考えるのです。

AIによる自動運転の自動車が事故を起こした際、法的な責任はドライバーにあるのかメーカーにあるのかといった議論は、その典型例とも言えるでしょう。AIの進化とは、「AIだけで何かができるようになる」という意味ではありません。「AIを使って何かをする」という意味です。よって、本プログラムは、所属学部に対する〝副専攻〞といったイメージで考えるといいと思います。

―高校生や進路指導にあたっている先生方にメッセージをお願いします。

巳波 社会にはさまざまな課題があります。その中には、AIを用いることで解決策を探れるものもたくさんあるはずです。AIを使いこなし、より良い社会を実現する人材を一緒に目指していきましょう。

西野 近年、STEM教育の重要性が叫ばれています。では、理系科目を一生懸命学ぶことだけがSTEM教育かというと、それは違うと私は思います。物事を深掘りしてじっくりと考えることこそがSTEM教育ではないでしょうか。それを実践しているのが本学のAI活用人材育成プログラムです。STEM教育に興味がある人にとっても、本プログラムは素晴らしい学びの場となるはずです。ぜひチャレンジしてみてください。

◆学生インタビュー1

時代の一歩先を行く力を身に付け、活躍の場を広げたい

教育学部 教育学科 教育科学コース 3年 折元一樹さん

3年生といえば就職活動が具体的に視野に入ってくる時期。IT 系企業での仕事に興味があり、そこに結び付くような学びを探していたところ、AI 活用人材育成プログラムと出会いました。授業で印象的だったのは、現代社会でのAIの導入事例を学んだことです。思った以上に導入が進んでいることや、身近な暮らしを支えてくれていることを知り、AIの有益さを理解できました。

それと同時に、AIを使いこなせる人材のニーズが高まるということにも納得。このプログラムを通してAIの技術や知識をいち早く身に付け、就職活動を有利に進めたい、ひいては社会での活躍の場を広げたいという思いが強くなってきました。ちなみに高校時代の苦手科目は数学で、パソコンもあまり得意ではありません。そんな私でも無理なく学ぶことができるのが、このプログラムの嬉しいポイントでもあります。

関西学院大学には、学校の先生になりたいと思って入学しました。併設の幼稚園や小学校で実践的に学べることや、自然豊かな環境で学べることが大学選びの決め手になりました。今は方向性を変えて一般企業への就職を目指しているのですが、視野を広げ、新たな目標へチャレンジしやすいことが関西学院大学の魅力だと感じています。

留学やボランティアなどのプログラムも豊富ですし、さまざまな経験や価値観を持った学生と出会うこともできます。漠然とした「何か新しいことにチャレンジしたい」という気持ちに対して、自分なりの“ 何か” がきっと見つかるのが、関西学院大学だと思います。

◆学生インタビュー2

AIを法学から掘り下げ、社会に貢献するための「材料」を身に付けたい

法学部 法律学科 1年 緋本侑梨子さん

学前に開催されたAI 活用人材育成プログラムの説明会に参加したことが決め手となり、履修を決めました。この説明会では、巳波教授が自動車の普及と法整備を例にして、AIを学ぶことの重要性を話されました。自動車という、当時の“ 新しい” 技術が普及することで、交通ルールなどの新たな決まりごとが生まれていきました。これと同じことが今、AIの進化に伴って起ころうとしているのです。この話を聞き、法学とAIというのはとても良い組み合わせだと考え、履修することにしました。

授業では、実社会でのAI活用事例を解説してもらったり、それを受けてのレポート作成などを行ったりしています。レポートへは丁寧なフィードバックをしていただけるので、「もっと詳しく知りたい、学びたい」という意欲が高まります。今は、法学という分野からAIを掘り下げて学びたいと考えています。その過程で、将来にわたる目標のようなものに出会えそうな気がしています。また、このプログラムでの学びを通して、社会に貢献する「材料」を身に付けたいです。

関西学院大学は母の母校で、しかも法学部出身。私も、「学ぶなら関西学院大学の法学部で」という思いを以前から持っていました。入学して感じたのは、高い目標を持った学生がたくさんいることです。「この人と友だちになりたい、この人から学びたい」と思えるような人とすぐに出会えるのです。恵まれた環境の中でじっくりと学び、社会で活躍するための力を養っていきたいです。

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