【東海大学】ユニークな教育研究で農業県熊本の発展を担う

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東海大学農学部の阿蘇キャンパスは熊本地震で大きな被害を受けた。熊本キャンパスで授業は再開されたが、実学尊重の教育を続けるために関係者の奔走は続く。以前と変わらない教育研究を維持するための環境整備が進み、新入生の受け入れ体制が整うなど、着実に復興への道を歩む様子をレポートする。


2016年春に発生した熊本地震で東海大学農学部の阿蘇キャンパスは甚大な被害を受けた。
講義棟が使えなくなったうえ大学は避難所となり、新年度が始まって約2週間で授業は中断となった。

暫定移設先として決まったのは経営学部と基盤工学部の学生が学ぶ熊本キャンパスだ。

とはいえ、単純に「場所だけ借りる」というわけにはいかない。実験室や研究室など農学部には文系や工学系とは全く異なる設備が必要なのだ。また実験で大量に使う水の確保なども問題になった。そこで熊本キャンパスでは設備の大改修を実施。生物実験室や化学実験室、農学部の各研究室が新たに設置されるとともに水周りの増設などインフラ面にまで手を加えた。

こうして十分に授業や卒業研究が可能な環境を整えたうえで、7月1日、農学部は熊本キャンパスで授業を再開した。

再開直後こそ、授業の遅れを取り戻すため1コマ135分の変則授業や夏休みの返上など臨時の対応を迫られたが、秋学期は通常通りのスケジュールで進んでいる。

今では先端研究に必要な分析室もほぼ完成し、地域からの委託研究や分析依頼にも応えられるようになった。震災後の農学部について農学部長の荒木朋洋教授が振りかえる。

「交通網が崩壊したため、熊本から阿蘇に通いながら残った設備を使って教育を続けるのは難しい状況でした。そのため熊本キャンパスとその周辺に、以前と変わらない環境を確保するスタンスで整備を進めています。
実習先については国や県の教育機関や研究機関、地元の農家の方などから快く協力を申し出ていただきました。さまざまな支援によりキャンパスの設備や実習場所の確保にも目処が立ち、熊本の地で農学部らしい教育を継続するための環境が整ってきています。」

【以前と変わらない研究実習環境を熊本に整えユニークな教育を継続】

実習の多くは合志市にある熊本県農業研究センターや農業大学校、農業・食品産業技術総合研究機構、九州沖縄農業研究センターで行われる。いずれも熊本キャンパスから大学バスで約20分とアクセスも良好だ。農業大学校から提供された圃場では学生一人ひとりが1坪程度を担当し自分で作物を育て収穫する「プロジェクト畑作」も再開されるなど、伝統的な実習は熊本キャンパスに移っても続いている。

東海大学農学部にはモニター農家制度という大学と先進的な農家が一緒に研究と農業を行う組織がある。モニター農家の登録者の中には授業のために自分の農場を提供している人もいる。これまで難しかった農業の現場での実習が、熊本キャンパスへの移転をきっかけに実現した形だ。2016年の春学期は2軒の農家で実習を行った。

大牟田市動物園のライオン飼育舎における摂食行動の実験にも今年初めて参加した。これまでと変わらない教育を行うだけでなく、熊本キャンパスに移ったことで学生の新しい学びの機会が増えているのだ。

今後の農学部の復興はどのように行われるのだろうか。九州事務部九州キャンパス復興課課長の渡邊政彦さんはこう話す。

「少なくとも2年間は暫定的に熊本キャンパスで学びます。仮設のような形でなく以前と変わらない教育研究体制を整えたのは、本学の特色である実学尊重の教育を継続して行っていくためです。
阿蘇キャンパスは学校法人東海大学として、地盤を含めた安全確認を行っている状況です。
その結果を見ながら今年度中に復興計画の方向性を定めていきます。私たちの思いとしては阿蘇での復興を目指すことが大前提ですが、そのためには安全を確認する必要があります。いずれにせよ新生農学部において、同一エリア内に教育と実習の場所が共存する本学らしい環境の再構築を目指すことは変わりません」

一時は心配された熊本市周辺の住宅事情も、建物の応急危険度判定が終了し、学生が生活する単身用の物件は十分な数が確保されている。新入生を受け入れる体制がしっかり整ったので、2017年度入学生の入学試験は例年通り実施された。

【熊本の農業振興を担い産官学連携で地域と協力して学生を育てる】

 農学部は教育、研究に加えて地域貢献を大学の機能として重視している。そもそも東海大学が農学部を熊本県に設置したのは、農業県である熊本に農学部を置く必要があるとの思いからだ。県内唯一の農学部として「県の農業振興に貢献しなければ」という強い気持ちが学部全体で共有されている。

特に地元の南阿蘇村とは一体となった教育研究活動を行い、地域活性化のための新商品開発などを協力しながら進めてきた。その一例がブラックベリーの育成と加工品の開発。ブラックベリーが選ばれたのには、果実類が加工商品に適していること以外にも理由がある。雨の多い南阿蘇でもハウスなしで栽培できるうえ、病気に強く農薬もほとんど必要としない。低木なので女性や高齢者にも手入れが容易で、過疎化が進む地域の誰もが継続して育てやすいという特性が評価されたのだ。

レシピ考案や製造方法などの面で企業の協力を仰ぎながら〝産官学連携〞の新商品として開発されたのがブラックベリーを使った洋菓子。熊本市内で販売される「レアチーズケーキ」や「オムレット」といった商品はさわやかな酸味が好評だという。

農学部と地域の関係について荒木農学部長はこう説明する。

「阿蘇キャンパスは地域と一体化した全寮制の大学のような雰囲気でした。学生や教職員の顔をみんなが知っていますし、アパートの大家さんは親身になり学生をケアしてくれました。入学者の8割を占める県外からの学生もすぐに打ち解けていきました。農学部は地域とのつながり作りが非常に得意なのです。実験や実習を重視したカリキュラムの中で、共同研究や委託研究を通じて地域とのつながりに学生がどんどん参画しています。そうした農学部の良さは熊本キャンパスでも残していきたい部分です」

農学部の学生は素直でまじめ、やる気のある学生が多く、卒業生の企業からの評価も高いという。目的を持って学部を選ぶ学生が集まっていることもあるが、さまざまな人との交わりが人間的な成長を促す面もあるのだろう。震災時に一時帰宅をせず、大学に残ってボランティアを続けた学生が多かったというエピソードは印象的だ。

【研究機関と密な連携でここでしかできない高度な研究を実現する】

熊本にある国や県の研究機関と深い交流があるのも特色の一つだ。それぞれの研究機関とは単に協定を結ぶだけでなく実際の活動で成果を出すことを重視している。大学院の農学研究科では九州沖縄農業研究センターと連携大学院を構築している。農学分野では全国で唯一の修士課程の連携大学院だ。ここでしかできない高度な研究ができる環境が整っているのも東海大学農学部の大きな魅力といえる。

東海大学農学部でしかできないユニークな学びは熊本キャンパスに移っても継続されており、学びたいことが明確な受験生に応えるだけの環境が整っている。農業県熊本の発展を支える東海大学農学部の再興を担っていく新入生を迎え、ともに学ぶことを、全ての学生や教職員が心待ちにしている。