【多摩美術大学/深澤直人氏】「デザインの力」でプロジェクトを構築する

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hukasawa数多くのアーティストや著名なデザイナーを輩出してきたことでも知られる多摩美術大学では、統合的にデザインを学ぶ学科を2014年に新設、注目を集めている。
それは〝時代の必然が生んだ〟と語るのは、プロダクトデザイナーで同学教授の深澤直人氏。
また2017年度入試からは、従来の美大受験とは違った試みとなる推薦入試を実施する。求める人材とは?その狙いとは?同氏のデザイン観も交えてお話をうかがった。


【〝ビジュアライズ〟という技術】

「デザイナーのスキル」と聞くと、何を思い浮かべるだろうか。製品や広告を作る際に、美しい形や色を与えられるセンスと技術……一般的にはそんなイメージを持たれがちだ。もちろん、それもデザイナーが関わる仕事のなかで重要な領域のひとつ。しかし近年、それだけではなくデザイナーが持つ〝特有のスキル〞が注目を集めている。

「人が何を考え、想像しているか、という抽象的な思考や意識。それを視覚化したり具体的に表現し〝ビジュアライズ〞できるデザイナーの能力は、社会や産業において重要な役割を果たしています。これは、ビジネスの現場でも広く求められる、応用の効くスキルなんです」

そう語るのは、多摩美術大学教授の深澤直人氏。母校の統合デザイン学科で教鞭を執る一方で、プロダクトデザイナーとして国内・海外で多くのデザインプロジェクトを手がけている。

そして彼自身が、システムや構造が複雑化する経済・産業活動において、デザイナーの〝ビジュアライズ・スキル〞に対するニーズの高まりを、そのキャリアを通じて実感している。

「例えば企画を思いついた人のアイデア、経営者が描いている将来のビジョン、システムや環境の改善といった抽象的な事案も、形に表して人と共有しあわなければ話し合うことも、良し悪しを判断することもできない。そして多くの人にとって、頭の中にある思考や課題を自分自身で像に描くことは、なかなか難しいことなんです。しかしデザイナーとは、そういった抽象的なものごとを〝こういうことですよね?〞とビジュアライズして人に見せてあげることができる。それによって、人々の共通認識を作ったり、課題を明確にすることができるんです」

【デザイン領域の〝拡幅化〟】

抽象的な思考を〝ビジュアライズ〞するデザイナーの能力は、単に紙に絵を描いたりモノに形を与えるということだけにとどまらない。像を描く過程で自分と相手の思考の共通性を見い出したり、人が感じていることや望んでいることを捉えてアイデアをまとめたり、的確な答えや必要なプロセスを導き出すということに長けている。

そうしたスキルに基づいた「デザインシンキング」の有用性は産業界でも広く知られるところとなり、デザイナーはモノを作るときだけでなく、企画や仕組みづくりの段階から関わり、ニーズと技術を取り持つファシリテーターとしての役割が大きくなってきている。

「例えばクライアントが開発中のものがあるとします。まず全体のシナリオやビジョンを構築し、研究者に到達点までの具体的なプロセスを明示する。そしてその成果が実って製品化し、世界的に展開するにはどこで生産すればいいのか、その場合の生産技術はどうしたらいいのか。私が手がけてきたデザインコンサルタントの仕事では、そこまでのすべてをデザインして、統合したアドバイスをしていきます」

産業の上流から下流まで、デザイナーが関わる領域がここまで広がりを見せているということは、これまでのように自分の専門分野だけを扱うのではなく、ジェネラリストとして統合したデザインを扱うことが求められているということを意味する。そして美術大学におけるデザイン教育も、既存の専門化されたものではなく、それらを広い視点で統合的に学ぶアプローチが必要だ、と深澤氏は言う。

「既存の教育の現場ではデザインが各分野にカテゴライズされています。専門性を高めるためには有効ではあるが、実際にプロジェクトを通してデザインの仕事に関わると、カテゴリーの境目なんてほとんど存在しないんです」

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【統合デザイン・プロジェクト】

そうして表現媒体や製品分野に限らず、諸領域を横断的に学べる新たなデザイン教育の場として多摩美術大学に2014年に開設されたのが、統合デザイン学科だ。社会や産業のさまざまな分野で多面的にプロジェクトを手がける人材の育成を目指している。

1年次はグラフィックデザイン、プロダクトデザイン、インターフェイスデザインの基礎を学ぶとともに、デッサン、スケッチも徹底的に行う。2年次では少し内容が専門化され、タイポグラフィーやダイヤグラム、成形技術、3DCG、ウェブやインタラクションを扱うなど、入学後2年をかけてデザイン分野を横断的に学ぶ。そこでデザインの基本的なスキルや知識を身につけるとともに、デザイナーとしての引き出しを増やし、表現や提案の幅を広げていくのだ。

「1、2年次では、〝何をあなたは良いと感じているのか?〞これを徹底的に問いかけていきます。自分のそのセンサーに気づき、感じること。それを集中して学びます」

3年次では各個人の興味領域を中心としながらも、関連したさまざまなデザイン領域を統合した「プロジェクト」として学び、4年次の卒業制作へと結実していく。また、デザイン演習とし1〜2年次の学びの中で興味があることを専門的に掘り下げてもいく。

「〝統合〞というと特殊なことのように思われがちですが、我々の本来の生活からは、環境も建築も切り離すことはできません。教育システムはセグメント化されているのですが、本来デザインとは総合的なもの。だからこの学科は僕が作ったというよりは、デザインに対する社会的な傾向と必然性で生まれたものだと思ってます。この学科そのものが一つのプロジェクトとも言えますね。僕らはこのプロジェクトチームで研究や教え方について討議しながら構築し、これから進化していくと思います」

【美大生のハイブリッド化?】

社会でデザイナーの携わる領域の広がりを受けて、多様な人材の確保にも取り組んでいる。その一つが2017年度入試からスタートする推薦入試だ。高等学校等で、例えばイベントを企画し周囲の人を巻き込んだプロジェクトなどの活動実績や、課外活動に参加するなどの積極性や行動力、国際的コミュニケーション能力、論理的な考察による問題解決能力など実際のデザインの現場で必要とされる素養を重視して評価する。

美術のスキルとセンスを磨いてきた従来の美大生と、産業や社会と力強くコミットしていく可能性を秘めた、新時代の美大生。その化学反応こそがデザインの持つ力をいっそう加速させていくはずだ。

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